プロジェクト“メテオ”
『――この数日で、全ての決着がつく』
はるか空の上から巨大な山を見下ろしながら、俺は巨大な一つの要塞が訪れるのを待っていた。シロさんには事前にラースを投入することを告げていたため、こうして今はるか空のかなたから全てを一望できている。
「本当にジョージくんの言う通りなら、ここに来るの?」
『ああ。そのためにラースまで投入し、こうして空の上から先に見つけようとしている』
「あんた、ジョージの姉だか知らないけどジョージを信用できないのか?」
「えぇー? 別にどこの馬の骨とも知らないエルフに突っ込まれる筋合いはないんだけど?」
おいおい、流石にここで喧嘩は止めてくれよ。
『今は目の前の作戦に集中しろペルーダ。姉さんも、望遠スコープで遠くの監視を怠らないように』
「ちっ、ジョージがそういうなら」
「ごめんねジョージくん」
今回禁じられた森から呼び出したのは隠密スキルを多少心得ているペルーダだ。彼女なら自分の身をとっさに隠すことも可能なはず。
そしてもしもの時の作戦Bにおける重要な保険を果たしている。
姉さんは現時点では遠くの監視。そして実際に移動要塞が現れた時には、要塞から出てくる小型の飛行物体や自走兵器を潰す役割を担ってもらう。
「そして、ボクとラースは囮をすればよいわけですね」
『俺が行動を開始した際に目立たないよう、宜しくお願いしますよ』
「ええ。敵はまずラースを優先的に狙うでしょうから」
そしてラストはキャストライン戦の時と同様、ラースと共に敵の注意を引いてもらう役割を果たしてもらう。
『頼んだぞ』
「仰せのままに……」
「……どうやら、ジョージくんの読みは当たったみたいだね」
姉さんはそれまで四方に動かしていた望遠スコープを、とある一点で留める。
「予定していた方角から移動要塞を確認。作戦開始ね!」
ラースは今よりさらに高度を取るため、空を切り裂くように上昇していく。
地平線が丸くなり始めたあたりでラースはその場にホバリングを始め、俺は改めて今回の作戦の確認を行う。
『ここからは俺とエンヴィーだけ残る。残った者はラースの上で陽動を続けてくれ。一分たったところで俺が攻撃を仕掛ける』
そう言って俺はエンヴィーが作り出した風の足場の上に乗り、エンヴィーと二人でその場にとどまることを伝える。
「要は、頭上に気を取らせてはいけないということですね」
『そういうことだ。まあまず気づかないだろうがな』
俺はそう言って腰元の《籠釣瓶》を引き抜き、自らに《辻斬り化》のバフをかける。
『後は俺が全て終わらせる』
「……お気をつけて」
『シロさんこそ』
そして俺とエンヴィ―だけが大気圏に残った今、エンヴィーと最後の打ち合わせに取り掛かる。
『予定通り、俺に例の隠密スキルをかけてくれ。後はお前も撤退をしろ』
「ふむ、わらわの役割はそれだけか?」
『そうだ。だが重要な役割だ』
「……それだけではつまらぬ」
エンヴィーは口元をオウギで隠しながら、ニヤリと笑う。
『何をするつもりだ?』
「なぁに、わらわからも手向けをくれてやろうと思ってな」
そう言ってエンヴィーがこちらに向けて扇を軽くなびかせると、俺の身体の表面には隠密スキルとは無関係の、微弱な風の気流が生まれ始める。
『……礼を言う』
「フフ。礼なら死なずにいられた後に言うがよい。それよりも、もうすぐ時間であるぞ?」
『分かっているさ』
俺は静かに刀の切っ先をはるか下の移動要塞に向けると、静かに抜刀法を発動させる。
『抜刀法・死式――』
――天墜。