緊急会議
「――それは困りましたね……」
「想定外としか、言いようがないな……」
ベヨシュタット城王室。そこで俺は剣王とシロさん、そしてベスの三人に対し国境付近での強襲についてありのままを話した。
『正直に言うと、俺も少しだけ恐怖を感じた。ラストがいなければ、まともに撤退はできなかっただろう』
「大丈夫かしらぁ? 人斬りは機械は斬れないものねぇ?」
いや切ろうと思えば斬れるけど……ってかさっき肢一本切ったって話したよねベス?
「まさか《移動要塞》で本国に向かってきているとは、敵も本気だという事でしょうか?」
確かに虎の子の移動要塞を出してくるとは、敵は相当今回の進撃に力を入れていると言っても過言ではないだろう。
しかしどうしてその矛先がベヨシュタットなのか。
『相手は遠距離攻撃を仕掛けることが出来る。同じ近接しかないならば、どうしてデューカーの方へ向かわなかったのだろうか?』
「ボクはむしろ、どうしてブラックアートへと向かわなかったのかが疑問ですね。同じ遠距離攻撃を持ち、しかも小国であるなら落とすのも容易いと考えてもおかしくはない」
「お前達二人が言いたいのは、何故この強固な国であるベヨシュタットを狙ったかということだろう?」
俺とシロさん、そして剣王はうんうんと頭を悩ませるばかり。しかしその様子を見てベスはキョトンとした様子で一言言い放つ。
「貴方達お馬鹿さんかしらぁ?」
『ん? どういう意味だ?』
「ベルゴールには、スロウスがいるじゃない」
「「あっ!!」」
俺とシロさんはベスの発言に同時に声を漏らした。そして剣王はすぐさま王室の机に地図を広げ、国境からベルゴールまでの地理を確認にかかる。
「確かキャストラインとマシンバラは隣接しているから、必然的にベルゴールに近い場所に国境が張られることになるな」
『そう考えると、マシンバラはできる限りベヨシュタットの防衛網から逃れるために、我々がいる国の中心部に近づくより、国境付近を歩くだろう……恐らくシュタイス山を経由してベルゴールへと向かう筈。あそこは我々でも一部の者しか探索を許されていない高レベル地域が広がっているはずだから、そこを経由すれば――』
「十分に、あり得るな」
流石はベスと思った俺は、ラストにするようにいつもの癖でベスの頭を撫でてしまった。
『あっ、すまん……』
「…………」
まずい、無言ということは結構怒っていらっしゃる――
「あらぁ? あらあらあら……」
ベスはいつになくぎこちない歩き方で、俺から顔をそむけるようにしてその場を去っていった。
『……どういうことだ』
「おやおや、うちの刀王様は随分と罪づくりな様で」
「全く……」
NPCにすら呆れられるってどういうことだ!? 俺は何か悪いことをしたのか!?
◆◆◆
『――というワケで俺とラストの目で見た移動要塞の進行速度から敵の予想される現在地、そしてシュタイス山を横断するのはいつごろになるのかを計算しなければならない』
「しかし敵は負傷しているのですから、進軍は遅れるのでは?」
首都にある自分の家へと戻った俺は、急いでラストを呼び出して地図を広げる。
『負傷は無かったものと考えろ。これは俺達が迎撃準備できる時間を測るためだ』
事態は常に最悪のパターンを考えなければならない。まずはベルゴールを目的とした場合のルートを測り、そこからもしベルゴールを目的としなかった場合の国境からの同心円状の移動距離をそれに当てはめて行く。こうすることで、残された時間で敵がどの領域に進軍しているのかをある程度絞ることができる。
『まずは国境沿いに行くルートから……ラスト』
「はい」
まずは俺達が目にした移動要塞の移動速度を割りだし、そこから地形等考慮にいれながら、大体の移動にかかる時間を測る。
『……シュタイス山横断までおおよそ二週間、か』
「二週間ですと、もしベルゴールを無視している場合の同心円状の移動範囲としては――」
――首都ベヨシュタットが、ギリギリはいらない程度の距離。
『……二手に分かれるべきか』
「しかし主様、同心円状ですとブラックアートの重要都市も移動範囲に含むことができます」
『その部分はブラックアートに守ってもらうしかないだろう……今従えているワノクニからも、増援を呼ばざるを得ない』
「移動要塞の監視を、エンヴィーに任せてみては?」
『いや、奴はお前と同じ《七つの大罪》だ。万が一敵に見つかるようなことがあってはまずい。こちらとしては切り札を捨てるような真似は避けたい』
こちらに控えているのはラース、エンヴィー、そしてラストの三体。このうちラストとラースについては敵に情報が渡っていると考えていいだろう。キャストラインを潰した件について、マシンバラは絶対に調べを付けているはずだ。
『やはり二手に分かれるのが現実的と言えるだろう』
俺は考えをまとめると、今度はラストもつれて改めて城の方へと出向くことにした。
◆◆◆
『――これで移動要塞を見てきた俺達が提供できる情報と、これから先立てることが出来るであろう作戦の説明は終わりだ』
城内の《殲滅し引き裂く剱》に割り当てられた一室。その円卓に地図を広げた俺は、ギルドの皆と剣王、そして今回特別に元キャストラインの幹部であった姉さんと、同じく元キャストラインの特殊部隊所属だったシャドウと、ベルゴールを奪還した際に《猟犬》と呼ばれていたスナイパー、バレットをこの場に呼んでいる。
そして後から来る予定だが、エンヴィーともう一人、禁じられた森からもとあるエルフを呼び出している。
「しかしどうしてこいつ等も? 私達だけで十分じゃないの?」
ギルドのメンバーであるキリエはどうやら俺が集めた面子に文句があるようだ。
『一時期はキャストラインに身を置いていた奴等なら、同盟国だったマシンバラのことも知っているのではと思ったからだ』
「まっ、お姉ちゃんとシャドウくんは結構位が高かったから、それなりに補足説明はできたと思うよ!」
明らかに無精ひげをもつシャドウの方が年上なのに、姉さんはどうしてそうくん付けできるんだ……?
「しかしこれだけの人数を集めるなら、ブラックアートと……デューカーにも連携を取った方がいいんじゃないか?」
剣王は拳王が治める国の名を言いよどみながらも、冷静にこの事態に応援が必要だということを指摘してくる。
だが俺はあの移動要塞に多勢に無勢で挑む必要はないと、この場で断言した。
『外部から破壊できないなら少数精鋭で内部から破壊、もしくは俺とシロさんと、シロさんのTMを使ったある作戦で破壊できる筈だ』
「なんですって!?」
「面白いこと言うねージョージくん。お姉ちゃんも気になるなー」
「それがしも詳しく聞きたい」
グスタフさんが少々前のめりになっているが上に俺も説明したいのは山々だが、事実この作戦はばかげているしシロさんも聞いたら呆れると思う。だが俺はあくまで真剣だ。
『その件についてはあまりおおやけにしたくないから、その作戦に参加するメンバーにだけ説明を行う事にする。つまり作戦に参加するメンバーこそが事実上ベルゴール防衛組だ』
「残りはどうなるのよ?」
『残りは万が一首都に来た場合のくい止め役だ。キリエはこっち側だな』
「は、はぁ!? なんでよ!?」
『お前は防衛戦のプロだろうが。首都を守るのが当然と言える』
キリエは俺の役割分担にブツブツと文句を言っているようだが、今はそれに構っている暇など無い。
『まずベルゴール組は俺とシロさん、そして姉さんと後から来るエルフ族の一人の合計四人。TMを合わせると七人だけだ』
「わお、本当に少数だね」
『残りのギルドメンバーとシャドウ、そして《猟犬》は首都防衛にあたってもらう。元キャストライン組は防衛の際にはキリエの指示に従うように』
「了解した」
「分かったわ」
さて、ベスとかイスカも不満がありそうだが現実的な割り振りはこれが良いと思うが。
『情報は渡した分で全てだ。首都防衛組はこの場に残ってキリエをリーダーにして防衛方策を組み立ててくれ。ベルゴール組は俺についてくるように』
「面白いことになってきたねー!」
「ボクも作戦内容は想像できませんが、少々興味がわいてきました」