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時間稼ぎ

『ラスト! 決着はお預けだ!!』

「仰せのままに!」


 はるか向こうから徐々にその全貌を露わにしていく要塞。それはこっちが向かっているから見えてきているのではなく、向こうが動いているからこそ国境にて要塞の姿が観測されている。


『見張りの者達の中でLv75以下の者はすぐに撤退して剣王にこの事を知らせよ! 残りの者はできる限り時間を稼いだ後に撤退を開始する!!』

「聞いたかー! 刀王の指示だ! すぐに実行に移れ!!」


 俺の声を聞いた者がすぐに近くの者へと伝令を始める。一時は騒然としたその場もすぐに収まり、最大の敵国を前に一致団結して行動を共にする。


『いいか! 敵は、キャストラインに技術提供をしている国だ! 遠距離攻撃の可能性も頭に入れておくように! 防御スキルを持つ者は周りを護衛し守りを固めよ!』


 俺は指示を下している間にも、遠くに見える要塞の姿を目視し続けていた。


『……これは……負けるかもしれないな』

「主様!? どういう意味です!?」

『単純な大きさの問題だ』


 マシンバラは特に国土が広いというわけではない。だがその文明レベルの高さは俺が今目の当たりにしている。

 遠目に見ても巨大な要塞が近づいているのなら、実際に間近にくるとどれだけの大きさとなるのか。


『……アリが巨像に挑んでいるに等しいかもな』


 負け戦は目に見えている。だからこそどれだけ耐え凌げるか。


「主様」

『なんだ?』

「一つだけ間違いがありますわ」


 ラストは俺のたとえに間違いがあると言って、俺の言葉にこう付け加えた。


「アリはアリでも、一噛みで致死に至るほどの強烈な毒をもつアリですわ」

『なんだそれは』


 俺はラストのたとえに苦笑したが、ラストはその姿を見て微笑みを返した。


「少しは緊張がほぐれましたか? 主様」

『まあ、ほぐれてないと言えば嘘になるな』

「家に帰れば、もっとほぐして差し上げますわ」


 それはいらない。


『さて、そろそろ俺の射程圏内だが――』


 俺は腰元からもう一つの刀を、《籠釣瓶カゴツルベ》を抜刀する。


『二刀流のこれで、様子を見ようか――』


 抜刀法・参式――


『――断切鋏たちきりばさみ!!』


 一対の刀でもって、巨大な鋏を具象化させる。そして眼前に広がる空間を、その虚構の大断ち鋏で真っ二つにする。


『――ッ!!』


 刀は俺の手によって空間を二分した。現に目の前の遠くに移っていた大岩が、綺麗な切れ目を残して崩れ去り始めている。

 しかし――


『……馬鹿な』


 俺は自分の目を疑った。少なくとも要塞を動かしている足一本程度はもぎ取っているものと思っていた。

 だが俺の視界に映っているのは、依然として前進を続けている移動要塞の姿。


『……作戦変更!! 全員撤退しろ!! この場は俺が受け持つ!!』

「どういうことですか!?」

『つべこべ言うな! お前達は先に戻れ! これは王としての指示だ!!』


 俺はすぐさま残っているLv75以上のプレイヤーにもすぐに撤退を指示した。


「主様、もしや――」

『……五分、いや十分か。時間を稼げれば上出来だ』


 ……さぁて、どこまで足掻けるか。


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