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前座は終わり

「主様に傷をつけることは、しもべとしてはあってはならないこと……しかしそう望むのであれば、私は主様を満たすまで」


 その後に「何でも言うことを……ぐへへへ」なんて言わなかったら格好が付くのだが。


『先に周りには知らせておいてある。存分にかかってくるがいい』

「仰せのままに」


 腰元には《籠釣瓶カゴツルベ》もあるが、これはあくまで敵に向けるための刃だ。ラストとの軽い立ち合いに引き出す必要は――


「――【刺突心崩塵ハートキルスティンガー】!!」

「うおっ!?」


 まじかよ。初手に上級魔法の【刺突心崩塵ハートキルスティンガー】を持ってくるとは、まさか殺す気じゃないだろうな。


「大丈夫ですよ主様。主様がしびれて動けなくなる程度の毒性しか仕込んでいませんから」


 笑顔が怖い。別の意味で怖い。絶対に動けないうちに あれこれされそうで怖い。


『だがこの程度で俺に傷をつけられるとは思っていまい?』

「……実際目の当たりにすると、結構ショックを受けますわ」


 一瞬にして全ての毒針を叩き斬られたのは、彼女の《七つの大罪セブンス・シン》としての誇りにかなり傷をつけたようだ。


『まだこれは《神滅式かみごろし》を発動していないぞ? ついでに言うと《辻斬り化》すら使っていない』

「つまり通常攻撃で全て撃ち落とされた、と」

『そういうことだ』

「……フフフフ」


 ラストは怪しく笑みを浮かべた。そしてそれは俺にとって懐かしい笑みであった。


「このラスト、幻界を司る魔性の者として久々に燃え上がります」


 そういうとラストは宙に浮かび上がると、本気を表す意味で巨大な積層式の魔法陣を展開し始める。


 魔法陣は丁度俺が指定していた戦場の大きさまで広がり、次の詠唱で一変する。


「――【審魔煉獄界ゲヘナウルスラ】!!」

『ッ!? まずい!!』


 とっさにラストが立てておいた岩宿の屋根へと飛び移る。そして俺は改めて辺りを見回した。


『……地獄の一丁目か?』

「いいえ、主様。まずはちょこまかと動かれては困ると思い、フィールドを全てマグマに仕立てさせてもらいましたわ」


 まともに足を乗せれば日のスリップダメージで一瞬にしてLPがゼロになってしまう。つまり俺の様な近接職は、そもそもの接近すら許されない状況になってしまった。


『……ククク、幻獄最深層・《ミラージュ》でこれを出されていたらひとたまりもなかっただろうな』

「ええ、あの時はこれを出すまでもないと思っていましたから……ですがもう、手を抜くことはありません」


 そこから更に、ラストはお得意の魔法を詠唱し始める。


「【五顛守護方陣フィフスフィールド召喚サモン・ハーピー】、【影法師シャドウピット】、【悲頑開花ディサピアーエッジ】」


 空中には五体のハーピー、そして地上では俺の影を縫いつけることで行動不能にしようとしてくる影法師、そして最後には設置型の巨大な薔薇が散らばっている。


『……ハメ技は無しにしようか』

「あら、主様をハメるのはもう少し後のお話ですわ」


 全く、これでは現状どうしようもなくなってしまうではないか。


『ならば――抜刀法・神滅式かみごろし


 ――裂空れっくう!!


「それは既に読めています!」


 ラストは俺の抜刀を読んで、【悲頑開花ディサピアーエッジ】の影へと避難する。


『どっちにしろ斬るつもりだった――ッ!?』


 【悲頑開花ディサピアーエッジ】は俺の斬撃を受けるなりその場で炸裂し、俺の目の前で閃光を放つ。


「ぐっ――」

「今です!!」


 ブラインド状態という状態異常の状況で、ハーピー達の羽の音が俺の耳に届く。


『させるか!』


 抜刀法・参式――


『――裂牙烈風ざがれっぷう!!』


 周囲に斬撃を繰り出し、一瞬防御壁を作り出す。

 そしてその間にブラインド状態が解除されると、俺はすぐさま次の技を繰り出す。


『抜刀法・弐式――』


 ――双絶空そうぜっくう!!


 一対の小規模な斬撃を飛ばし、【悲頑開花ディサピアーエッジ】の合間を縫ってラストを狙う。

 しかし――


「その程度の斬撃が届くと思いましたか!?」


 【空間歪曲エリアルディストーション】。斬撃は歪んだ空間によって見事に逸らされ、俺の攻撃は当たらない。


『くっ……流石と褒めるべきか』


 だが俺もまだ本気を出していない。


『あまり使いたくはなかったが――』


 俺は腰元に挿げていた籠釣瓶をぬらりと抜刀し、その切っ先をラストの方へと向けようとしたが――


「あれはなんだ!?」

「敵襲!! 敵襲ぅー!!」


 周りの声に、俺達のやる気が見事に殺がれる。


「くっ、もう少しで主様を好き放題できたのに……」

『残念だったな。だが俺もこれを使わずに済んだ』


 そう言って再び籠釣瓶を納刀すると、地平線の向こう側、荒野の方へと俺は目を見やる。

 そこには――


『……移動する、都市だと?』

「あれは……!」


 そこには噂に聞いていた、マシンバラ製の《移動要塞》が姿を現していた。


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