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オネエで何が悪い

作者: 滝元和彦

登場人物

神宮寺修じんぐうじおさむ……ホテルをねぐらにしているオネエ

赤井和人あかいかずと……ホテルの総支配人

コンシェル……ホテルでコンシェルジュをしているロボット

野々宮一ののみやはじめ……ホテルのフロント係

堀北ほりきたまみ……ベルパーソン

前園将太まえぞのしょうた……中華料理のシェフ

一条理香子いちじょうりかこ……ハウスキーパー

新垣明にいがきあきら……神宮寺の友人

愛川潤あいかわじゅん……ローン会社社員

氷室展ひむろひろむ……将来の夢がハニーハンターだった変わり者、素人探偵

滝元和彦たきもとかずひこ……炭酸飲料の一気飲みに日々挑戦している氷室の友人


 1

『当ホテルには、最近マスコミを騒がせている、人間の感情を理解し、会話ができるロボット、コンシェル君を導入しました。彼が、私たちに代わって、お客様のご要望にお応えします。また、お食事につきましては、和食、イタリアン、中華、フレンチ、インド料理…の中から、お好きなコースをお選び頂けます。その他、サウナ室、遊戯場、リラックスルーム等を完備しており…』

 滝元は、これから行くホテルのパンフレットから目を正面に移した。目の前には、そのホテルが厳かな存在感を放っている。11階建で、最近、改装したらしい。主に、アメリカ映画をモチーフにしたHMJというテーマパークの客をターゲットにしている。実際、HMJは目と鼻の先にあり、パレードと思われる、にぎやかな音楽が聞こえてくる。このテーマパークとホテルは、東京湾にほど近いところにある。ホテルの部屋からの夜景は、どんなにロマンチックなんだろう、それなのに、なんで男2人で泊まらなくちゃならないんだと、滝元が思っていると、

「僕も、商店街の福引で、HMJのフリーパスとホテルの無料招待券が当たった時は、誰と行こうか考えたよ。妹を誘ったけど、予想通り、嫌だって言われて、ひまそうなやつはいないかと思ってたら、君から電話があったもんだから」

「1回も行ったことがないから、どんなものか見ておこうと思ったんだけど。なんかカップルばっかりで、男どうしって、いないんじゃないか?」

「そんなことはないと思うけど。男どうしが嫌なら、僕が女装してやってもいいんだけど」

 滝元は、氷室の女装姿を想像してしまった。

「遠慮しておきます」

 2人は、ホテルのエントランスに着いた。自動ドアが開き、ロビーに入ると、

「いらっしゃいませ、HMJホテルにようこそ」とホテルの従業員が声を合わせてあいさつした。その従業員の中から、2人の方に向かってくるものがあった。パンフレットに書いてあったロボットで、身長は約1メートル50センチ、足元は車輪が付いていて、歩くというよりも、車が動いているような動きで、モーターのような音は全くしない。顔や体全体は丸みを帯びていて、かわいらしい表情をしている。色は白で統一されていて清潔感がある。

「オマチシテオリマシタ、ヒムロサンニ、タキモトサン。ワタシハ、トウホテルデ、コンシェルジュヲシテオリマス、『コンシェル』ト、モウシマス」

 ロボットの声は、ヘリウムガスを吸った人間のように、かん高かった。

「コンシェル君、日本語が上手いですね」氷室が話かけてみると、

「アリガトウゴザイマス」と右腕を頭に持っていって、照れたような仕草をした。

「よくできてるなあ」滝元はロボットの周りをぐるっと回って観察した。

「オサキニ、フロントデ、チェックインヲ、オスマセクダサイ」そう言って、ロボットは2人を、フロントと書いてある場所へ案内する。フロントには、長身の日本人離れした顔立ちの男性が立っている。滝元が、ネームプレートを見ると、『野々宮』と書いてあり、外人ではなさそうだ。2人はチェックインを済ませた。

「ナニカ、ゴヨウボウナドガ、ゴザイマシタラ、オキガルニ、コエヲ、オカケクダサイ」ロボットは、別の客の方に向かっていった。それと入れ替わりに、2人のところに、若い女性が近づいてきた。

「初めまして、堀北と申します。お荷物をお預かりします」

 ベルパーソンは小柄な体つきをしているが、氷室のスーツケースと滝元の手さげバッグを軽々と運んでいく。エレベーターに向かう途中で、ベルパーソンが話しかけてきた。

「こちらは初めてですか?」

「そうです」滝元が顔を見ると、アイドルなみのかわいいルックスだった。特に、笑顔が良い。

「もちろん、HMJに行くんですよね、私も上京してから、もう10回も行っちゃった。あさっても行くの」

 急に、ため口になった。

「いなかはどこなの?」

「福井県なんだけど、あまりにもHMJが好きすぎて、近くに住もうと思って、ここで働くことにしちゃった」

 エレベーターの前に着いた。中に乗ると、ベルパーソンは6階のボタンを押した。

「そんなに楽しいの?」

「もう言葉でいうより、体験してみて。私の一押しは、『ディノワールド』っていうアトラクションで、6人乗りの近未来って感じの乗り物で、恐竜が棲む世界を冒険するの。立体メガネをかけるんだけど、恐竜が目の前に迫ってくるようで、ほんとスリル満点」

 部屋の前に着いた。荷物を部屋に入れると、

「じゃあ、なにかあったら、私かコンシェル君を呼んでね」ベルパーソンは軽やかな足取りで去っていった。

 2人の部屋は、東京湾に面していて、まさに絶景だった。

「腹が減ったな、何か食いにいくか?一階にフードコートがあるみたいだよ」

「ロビーのところに、中華料理の食べ放題をやってるって書いてあったな」

「じゃあ、そこに行こうか。小龍包しょうろんぽうをいくつ食えるか、競争しようか。ちなみに、自己ベストは28個だけど」

「餃子にしないか?それなら勝てる気がする」

 2人は、荷物をそれぞれのベッドに置いて、入口ドアに向かおうとした。その時、ホテルのどこかで、耳をつんざくような爆発音がした。反射的に、2人はその場で静止した。

「何か上の方から、聞こえたようだ」そう言いながら、氷室は、恐る恐るドアをわずかに開けて、廊下をうかがった。廊下には、何の異常も見られない。

 滝元が廊下に出て行った。

「爆発があったのか」

 他の部屋からも、爆発音を聞いて、何人かが廊下に出てきた。

「7階に行ってみよう」

 2人は、ちょうど8階で停まっていたエレベーターに乗り込んだ。7階に着くと、数人の宿泊客が、ある部屋の前に集まって、話し合っている。

「ホテルのスタッフを呼んできた方がいいんじゃないか?」宿泊客の1人が言うと、

「じゃあ、私が行ってきます」若い男性客がエレベーターに走っていった。

 数分後に、その男性は、心配そうな表情のホテルスタッフを連れてきた。スタッフは、部屋の前に来ると、ホテルの支配人の『赤井和人』と名乗り、ズボンのポケットに入っている鍵束から、1つ取り出して、鍵を開けた。ゆっくりと、ドアを開くと、部屋に充満していた黒っぽい煙が廊下にあふれ出てきた。支配人は、煙で咳きこみながら、ドア付近で、

「神宮寺さん」と、部屋の宿泊客と思われる名前を呼んだ。応答はなかった。もう一度、支配人は呼びかけたが、部屋の中は、静まりかえっている。煙が徐々に消えていくと、視界がはっきりしてきた。支配人は慎重な足取りで、部屋の中に入っていく。宿泊客と氷室たちは、開いたドアから見守っている。部屋の中に入った支配人が、何か声にもならない声を出した。氷室たちも、部屋の中に入っていく。部屋はシングルルームで、ベッドのわきに誰か倒れているのだろうか、宿泊客のものと思われる靴が見えている。ベッドの上にも人がいるようだ。

「支配人、どうしましたか?」客の1人が尋ねた。

「誰か救急車を呼んでくれませんか、いやもう手遅れかもしれない」

 支配人が立っている場所に来ると、全てがはっきりした。ベッドのわきで倒れている人間とベッドに横たわっている人間は、同じ人物だった。つまり1人の人間が爆発で上半身と下半身にすっかり分離してしまったのだ。


 2

 それからの数時間は、女性客の悲鳴や、ホテルスタッフの金切り声や、救急車のサイレンや、パトカーの音で、ホテルは騒然となった。ようやく平静さを取り戻した時は、すでに外は暗くなっていた。滝元警部の、はからいで、氷室たちは、支配人室に入ることを許された。滝元警部は持っていた用紙を机の上に置いた。

「では、説明しましょう。死んでいたのは、部屋の宿泊客だった神宮寺修、男性、39歳、死因は小型の爆弾が至近距離で爆発したことで、ほとんどの臓器が失われたことによります。死亡時間は、16時20分、他の宿泊客が爆発音を聞いた時間とほぼ同じです。自殺と他殺の両面で捜査を始めました。何か質問はありますか?」

 警部は煙草に火をつけた。

「親父、ちょっといいかな」滝元Jrが言った。警部が、お前かという顔をしながら、「何だ?」と言った。

「部屋に入っていってベッドの上の被害者を見たけど、髪も肩のあたりまであったし、顔も化粧をしていたみたいで、なんか女の人っぽかったけどな」

「被害者がどんな姿をしていようと、生物学的には男だ」

「私から説明しましょう」顔から血の気がひいている支配人が言った。

「神宮寺さんは、なんと言いますか、ゲイの方でいらっしゃいました。本人は、私どもが気づいているのを気にしてない様子でしたけど」

「オカマかよ」

「被害者は、このホテルをよく利用していたんですか?」氷室が質問した。

「神宮寺さんは、あの部屋を我が家のように使っているようでした。芸能人が、賃貸マンションを借りずに、ホテルに棲みこむようなものでしょうか。宿泊費もきちんと、支払っていただいていたので、私どもとしては、どんな使い方をされても構いませんから」

「なるほど、ところで警部」氷室は滝元警部に向き直った。

「何でしょう?」

「小型の爆弾なんですが、どういうタイプのものだったんですか?時限式とか?」

 滝元警部は、テーブルに置いた資料を、忌々しそうに手にした。

「正式な分析結果はまだ出ていないですが、科学捜査班の見解は、時限式ではなく、一定の方向に傾けると、爆発するタイプの爆弾だったようです。爆弾は、四角い、白い箱に入っていました。大きさは、一辺が約40センチほどでした。爆発で、その箱は大部分が燃え尽きてしまったため、指紋などは検出できませんでした」

「その箱は、被害者の部屋のどの辺りで、爆発したんですか?」

「被害者のベッドのわきにあるサイドテーブルの辺りが、激しく燃えていたので、おそらくそこでしょう」

「自殺ではなく、他殺だとしたら、その白い箱は、いつ被害者の部屋に置かれたんでしょう。警部は何か見当はついてますか?」

「たぶん、今日でしょう」滝元警部は、妙に自信に満ちた声で言った。

「根拠はありますか?」

「被害者は、昨日も、一昨日も、外出先から、ホテルに帰ってきています。そうですね、支配人」

 ホテルの支配人はうなずいた。

「もし、昨日や、一昨日の段階で、爆弾が部屋に置かれていたら、被害者はそれに興味を持って、まず間違いなく、それを触ったり、手に取ったり、したことでしょう。そうすれば、爆弾はその時に、爆発したはずです。だから爆弾は、今日置かれたんです」

「爆弾を置いた人物に、いつ箱を開けるようにと指示されていたら、もっと以前に置かれていたかもしれないですが、僕も警部と同様、爆弾は今日、置かれたと思います。それで、今日、被害者の部屋を訪問した人物はいたんですか?」

 支配人が口を開いた。

「ロビーの記録に残っている限りでは、2人訪問したようです。1人は新垣明という、被害者が勤めていた新宿のバーの同僚で、彼が来たのは、10時50分ごろ、その時間は、神宮寺さんは、外出していて不在だったんですが、神宮寺さんは、彼にスペアキーを渡していたらしく、部屋の中に入ったそうです。だいたい30分くらい部屋にいたらしいですが、神宮寺さんが帰ってこなかったので、そのまま帰っていったそうです。もう1人は、愛川と名のるローン会社の人間で、彼が来たのは13時ごろ、その時間は、神宮寺さんは、部屋にいて、愛川は20分ほど部屋の中にいたそうです。それから、ロビーの記録には残ってないのですが、もう1人、男性らしい人が、神宮寺さんの部屋に入っていったと、ハウスキーパーの一条さんが話してるんです」

「それは誰ですか?」

「それが分からないんです。一条さんによると、どこかで見たことがあるような人だったというんですが」

(その謎の人物が、あやしいな)滝元の心の声。

 氷室はしばらく考えにふけっていた。

「警部、その被害者の同僚とローン会社の方と、少し話がしたいんですが、呼んでもらえますか」

「分かりました」と言って、滝元警部は、携帯を取り出して、部下と思われる相手に電話をして、指示を出した。

「それから、被害者がいた7階の防犯カメラの映像を見たいんですが」

「まだ、他にも被害者の部屋を訪れた人間がいたと考えてるんですか?」警部が携帯をポケットにしまいながら訊いた。

「その可能性もあるかもしれませんが、僕が見たいのは、部屋に来た3人の持ち物です」

 氷室がそう言ったことで、警部はピンときた。

「ああ、つまり爆弾を持っていたかどうかを調べるんですね」

「そうです」

 支配人は、ハンカチで額を拭いながら、

「1階の防災センターに来ていただければ、カメラの映像をお見せできます」

「それでは、さっそく見てみましょう」


 3

 防災センターに入ると、支配人は、警備の人間に事情を説明した。話を聞き終えると、警備員は正面にあるパネルを操作して、支配人に使い方を教えた。使い方を理解すると、支配人は氷室たちを手招きした。氷室たちの前には、大きなスクリーンに、ホテルのあちこちのカメラの映像が分割されて映し出されている。支配人は、7階の映像を画面いっぱいに拡大した。それから、時間を巻き戻していく。10時50分頃から、再生を開始した。ホテルの各階は、長方形の回廊状になっていて、エレベーターは2基あり、エレベーターの正面にそれぞれ3部屋、長い方の廊下に8部屋ずつ、計22部屋ある。カメラは長い方の廊下に1つずつ設置されている。10時55分にさしかかる時間に、カメラの映像に何者かが映った。女性らしい。その人物が廊下を歩いてくると、しだいに人相がはっきりしてきた。髪は金髪で、肩の辺りまであり、ブランドもののハンドバッグを肩にかけている。ハイヒールを履いているためか、かなり大柄な人間に見えた。その人物が、被害者の部屋の前で立ち止ると、支配人は一時停止した。

「この方が新垣さんです」

「やっぱり、男だったか」滝元Jrは映像を見てつぶやいた。

 新垣は、部屋に神宮寺がいないのを知ると、持っていたバッグを床に置いて、中から鍵を取り出して、ドアを開けて部屋に入っていった。その後は、カメラには、他の部屋の宿泊客が数人、自分の部屋に出入りする姿が映っているだけだった。11時30分ごろに、新垣が煙草をくわえたまま、部屋から出てきた。出てきた新垣の姿に変わったところはなかった。

「そのまま早送りをしてもらえますか?」滝元警部がメモを取りながら言った。

 早送りをしていくと、12時10分に、被害者が廊下を歩く姿が映った。神宮寺はジャージ姿で、手ぶらだった。神宮寺が部屋に入った後、12時45分までは、カメラにはなにも映っていない。12時47分を過ぎたころ、手に小型のスーツケースを持った男が、廊下を歩いてきた。

「この人がローン会社の社員です」支配人は画面を指差した。

「知ってるんですか?」

「最近、よく神宮寺さんを訪ねてましたから、顔は覚えました」

 スーツ姿の男は、神宮寺の部屋の前に来ると、持っていたスーツケースを壁に立てかけようとしたが、重いものが入っているためか、床に倒れてしまった。それを持ち上げて、手に持ったまま、チャイムを鳴らすと、ドアから、神宮寺が顔を出した。2人はドア越しに何か話し合っていたが、神宮寺は、しぶしぶという感じで、男を部屋の中に入れた。それから13時25分まで、カメラには何も映っていなかった。13時26分に、ローン会社の男が部屋から出てきた。それに続いて、神宮寺も出てきた。手にはスーパーの袋のようなものを持っている。2人はエレベーターに乗ったようだった。

 支配人は再び、早送りのボタンを押した。次に映像に変化があったのは、14時40分ごろ、エレベーターから、ニット帽をまぶかに被って、サングラスをかけている男が降りてきた。その男は、迷う様子もなく、まっすぐに神宮寺の部屋の前にやってきた。上着の内ポケットに手を入れると、鍵のようなものを取り出し、ドアを開けて中に入っていった。

「誰だ、この男は」滝元警部が叫んだ。支配人も首をかしげた。

「私も知りませんね」

 男が部屋にいたのは、ほんの2、3分だった。男は、ドアを開けて廊下に出てくる時に、辺りを警戒するような仕草をして、誰もいないのが確認できると、そのまま廊下を歩いていった。

 支配人が早送りのボタンを押した。15時に、神宮寺が廊下に映った。持っていた袋はなくなっていた。そのまま部屋に入っていった。

「こんなもんでしょうかね」と言いながら、支配人はさらに早送りをしていく。

「サングラスの男があやしいな」滝元Jrが氷室の方に向かってつぶやいた。氷室は腕を組んで考え込んでいる。支配人が、もう何も映りそうもないとみて、映像を元に戻そうとした時、画面に動きがあった。奥のエレベーターから、誰かが出てくるようだ。よく見ると、それは人ではなかった。ホテルの名物ロボット、コンシェルだった。コンシェルは運搬用のカートを押している。その上には、何か食事が入っている銀色のボウルのようなものが見える。コンシェルは廊下を歩いている途中で、ななめ左に寄って歩いていたため、廊下の壁に沿って置かれている台につまずいた。その台には、芸術家が造ったオブジェらしきものが置かれている。さいわい、オブジェは落下しなかった。その後、コンシェルは神宮寺の部屋の前にやってきた。インターフォンのボタンを押すと、神宮寺がドアから顔を出した。コンシェルに、にっこり微笑むと、部屋の中に入れた。3分ほどで、コンシェルは廊下に出てきた。廊下に出ると、そのままエレベーターの方へ向かって行った。エレベーターに乗ろうとすると、コンシェルは横を振り向き、そこに立ち止まった。カメラは、コンシェルの後ろ姿しか映していないが、コンシェルの正面には、おそらく宿泊客がいるものと思われた。どうやら、その宿泊客はコンシェルに、何か話しかけているらしい。しばらくすると、コンシェルはエレベーターに乗り込んだ。支配人は、皆から質問が出る前に口を開いた。

「コンシェルは、ルームサービスの食事を運んでいたんです」

「食事を部屋に運ぶのは、コンシェルの仕事なんですか?」氷室は、画面を見続けながら訊いた。

「いえ、ルームサービス担当のスタッフがいて、普段は彼らがやるんですが、忙しい時や、お客様によっては、コンシェルに運んでほしいというリクエストがありまして、そういう時に、やらせてます」

「被害者は、どうだったんですかね?」

 支配人は少しの間、考えてから、

「たぶん、リクエストはしてなかったと思います。ただ今日はとても忙しかったもので、人手が足りなかったんです」と答えた。

「小型の爆弾を入れるには、ちょうどいい大きさだな」滝元は、半分冗談のつもりで言ったが、氷室の眼差しは鋭くなった。手がかりを嗅ぎつける時に、いつも彼に起こる変化だ。

「ちなみに、食事は何だったんですか?」

「神宮寺さんは、いつも中華を召し上がっておりました。今日は麻婆豆腐でした」

「滝元警部、被害者の部屋に食事が散乱していませんでしたか?」

「そういうものはなかったですね」

「そうですか、後で、食事を作ったシェフに話を聞いてこよう。それにコンシェルにも。そう言えば、ハウスキーパーの方が、あのサングラスの男性に見覚えがあると言ってましたよね?」

「ええ、一条さんが、そう言ったんです。ここに呼んできましょうか?」

「お願いできますか」

 支配人は早送りしていたボタンを止めた。それから、5分後に、支配人は女性を連れて防災室に入ってきた。

「一条さんです」

 支配人が紹介すると、ハウスキーパーは笑顔を浮かべながら会釈した。滝元は、ハウスキーパーと聞いて、掃除のおばさんのような人物を想像していたが、目の前にいるのは、30才手前の元気はつらつとした女性だった。支配人は、モニター画面に向き直り、謎の男が映っている時間まで巻き戻した。

「一条さん、この人に見覚えがあるって言ってましたよね?」

 ハウスキーパーは画面に顔を近づけた。

「そうです、どこかで見たような気がするんです。あっ、思い出しました。神宮寺さんと同じ7階の部屋に宿泊している有村さんです」

「有村さん?」支配人は記憶をたどっている。

「神宮寺さんと同じように、ここを生活の拠点にしている方です。人見知りなんでしょうか、あまりホテルのスタッフと話そうとしたがらない方で、月の半分以上は出張で、部屋を空けているんです」

「ああ、あの人か」支配人は、ようやく思い出した。

「映像の人物は、その有村さんという人で、間違いないんですか?」氷室が訊いた。

「間違いありません。顔はサングラスで、よく見えませんが、歩き方が独特だし、あの派手なジャケットも見覚えがあります」

 映像は、再び有村が、神宮寺の部屋の入っていくところを映している。

「有村さんは、神宮寺さんの部屋の鍵を持っていたようですが、知り合いだったんでしょうか?」

「私の知る限りでは、2人は赤の他人だと思いますけど」

「でも、人間関係なんて、どこでつながってるか分からないからなあ」滝元がつぶやいた。しばらく、一同は画面に映っている男の動きを目で追っていた。

「赤井さん、これからその有村さんに会いたいんですが、もし部屋にいなければ、ちょっと部屋の中を調べたいんです」

「部屋の中は、本人の同意を得ないと…」

 滝元警部は、支配人の肩に手をのせた。

「これは、殺人事件の捜査ですから、必ずしも本人の同意はいりませんよ」

「分かりました」


 4

 滝元警部は、防災センターを出た後、被害者の部屋を訪れたバーの同僚とローン会社社員をホテルに連れてくるために外に出ていった。氷室と滝元Jrは、ロビーで支配人を待っていた。2人が事件について話していると、廊下の奥から、何でも屋のロボットが、なめらかな動きで、2人のもとにやってきた。2人のもとに向かってくる途中には、数人の客がいたが、彼らを見事な車輪さばき?で避けてきた。どこかに障害物を避けるセンサーが付いているらしい。よく見ると、腕には、関節があり、人間ほどではないが、かなり柔軟に動かせるようだ。

「コンバンハ、ヒムロサンニ、タキモトサン。ナニカ、オテツダイ、デキルコトガ、アリマシタラ、オキガルニ、ドウゾ」コンシェルの声は機械的で、抑揚も人間らしさはない。

「ちょっと訊きたいんだけど、君は今日、7階の神宮寺さんの部屋に食事を運んだよね?」

 氷室が質問してから、5秒ほどたってから、

「キョウハ、ナナカイニハ、ショクジハ、ハコンデイマセン」と機械的な声で答えた。

「えっ?7階の神宮寺さんの部屋だけど」

 また5秒の間を置いて、

「ジングウジサンハ、シッテイマス、カミノナガイ、ジョセイデス。デモ、ショクジハ、ハコンデ、イマセン」

 2人は顔を見合わせた。

「このロボットが、うそをついているってことはないか?」滝元が言うと、

「ウソハ、イケマセン。ワタシハ、ウソガツケナイヨウニ、プログラム、サレテイマス」と答えた。

「どうなってんだ」

「君が、7階の神宮寺さんの部屋に、カートを運んでいくのが、カメラに映ってるんだけど」

「ソノヨウナ、ジジツハ、キオクデータニ、アリマセン」

 氷室は、コンシェルの周囲をぐるっと一回りした。

「どうしたんだ?」滝元が、氷室の行動を見て言った。

「体のどこかにスイッチとか、データを保存するところがあるのかなあと思ったんだけど」

 滝元もコンシェルの周囲を回ってみたが、そのようなものは見当たらなかった。

「コンシェル、神宮寺さんの部屋に食事を運んだ記憶はないと言ったけど、何時頃から記憶がないの?」

「ジュウヨジ、ヨンジップン、マデハ、キオクガアリマス、ソレカラ、ジュウゴジ、サンジュウゴフン、マデ、キオクガナク、ソレイコウハ、ズット、キオクガアリマス」

「氷室君、これをどう思う?」

「コンシェルがうそをついていないとすると、誰かに記憶データを操作されたか、電源を切られたのかもしれない」

 2人が、コンシェルの前で考えていると、受付の方から声がした。フロントの野々宮の声だった。

「ちょっと、コンシェル君、来てくれるかな」

 野々宮に呼びかけられると、コンシェルは軽やかに、客の間をすり抜けていった。2人も後についていった。フロントには、老夫婦が立っていた。野々宮と何か話している。

「コンシェル、ちょっと調べてほしいんだが、最寄駅で、電車が動かなくなってしまってね。東京駅に一番早く行く方法は何だろう?」

 野々宮がそう質問すると、コンシェルは、

「シバラク、オマチクダサイ」と言って、数秒間沈黙していた。沈黙している間、目の色が赤や緑や青色に変化していた。

「イマカラデスト、スコシ、ジュウタイシマスガ、ココカラ、タクシーニノッテ、キンシチョウエキマデイキ、ソコカラ、カクエキテイシャノ、デンシャニノレバ、トウキョウエキニ、イチバン、ハヤク、ツキマス」

「そうか、ありがとう」そう言って野々宮は、老夫婦に同じことを話した。老夫婦が立ち去ると、氷室はフロントに近づいていった。

「あの、野々宮さん、今のは何ですか?」

 野々宮は微笑みながら、

「コンシェルのことですね。コンシェルは常に、ネットにつながっていて、交通情報や、自分の知らないことがあると、すぐに調べることができるんです。ですから、私たちは何か知りたいことがあると、コンシェルに聞くんです」

「へえー、それは便利ですね」氷室がコンシェルの目を見ると、普段の色に戻っていた。2人が感心していると、支配人がやってきた。

「では、有村さんの部屋に行きましょうか」

 3人は、エレベーターに向かって歩いていく。

「今、有村さんはホテルにいないそうです。彼はちょっと変わった人で、外出する時も、ホテルに戻ってきた時も、チェックインもチェックアウトもしないんです。ですから、ホテル内にいるかもしれないと思って、捜しまわってました」支配人は疲れた様子で言った。

「なぜでしょうね?」

「それは分かりませんね。そういえば、神宮寺さんも、やっぱりチェックインもチェックアウトもしませんでした」

 3人は、エレベーターに乗った。

「有村さんは、どんな人なんですか?」

「はっきり言って謎の人ですね。ホテルのスタッフとも話をしようとしないし、秘密主義者です。ただ、仕事でホテルを空けることが多いですね。月の3分の1はホテルに帰ってこないです」

 被害者の部屋に入っていった有村と思われる人物は、氷室たちにとって、ますます不可解な印象を与えた。

「それから、コンシェルのことなんですが、さっき、ロビーで話していたら、コンシェルは、今日の14時40分ごろから15時30分過ぎまで、記憶データがないっていうんです。ちょうどその時間は、カメラに彼の映像が映っている時間なんですが。コンシェルはうそをつくようなことってありませんか?」

「それは、まずありませんね。うそをつくようなプログラムにはなっていないはずです。実際、今までコンシェルがうそをついたことはないです」

「コンシェルが言った通りだな」滝元Jrが言った。

「では、記憶データを消去することはできますか?」

「企業秘密なので、詳しいことはお話できませんけど、データを消去することや、電源を切ることはできます。それには、あるコードを入力しないとならないんですが、それはホテルのスタッフしか知りません」

「なるほど」氷室は妙に満足した表情になった。

 エレベーターは7階に着いた。支配人は、神宮寺の部屋とは反対の廊下に進んで行く。エレベーターから数えて、4つ目の右側にある部屋の前で止まった。鍵を開けてドアを開く。部屋の中は、ホテル生活をしている部屋とは思えないほど、生活感がなかった。ハウスキーパーが定期的に掃除をしているのだろうか。窓の近くには、何着ものスーツがハンガーにかけられている。ベッドの脇にあるサイドテーブルの上には、ビールの空き缶が何本もあり、小型冷蔵庫の横には、焼酎やワインの瓶が無造作に置かれている。窓とベッドの間に、小さな本棚が置いてある。氷室が並んでいる本を見ると、ほとんどがビジネス関連の本と自己啓発本だった。カーテンはすき間なく、閉ざされている。生活感といえば、そのくらいだった。

「私は廊下にいますから、好きなだけ調べて下さい」と言い残して、支配人は出て行った。

「あのカメラに映っていたサングラスの男は、本当にこの部屋の住人なのかな?」滝元はベッド周辺を調べながら言った。

「一条さんの、あの確信に満ちた言い方からすると、そうなんだろうね」氷室はまだ本棚に視線を送っている。

「そうだとすると、サングラスの男と被害者は知り合いだったのかな」滝元はベッドの上にある男の所有物と思われる小物を手に取りながら言った。

「鍵を持っていたくらいだから、何らかの関係はあったんだろうね。それにしても、自己啓発本だらけの本棚だな。なにか人生で悩んでいることでもあるのか」

 滝元は、小物の中から1つ手にして、氷室に見せた。

「これに見覚えはないか?」

 それは、小さな数珠のような丸い玉がいくつも連なっているブレスレットだった。

「知らないな」

「君が見落とすなんて、めずらしいな。これとそっくり同じものが、被害者の部屋にあったんだ」

「本当か?まったく同じものだった?」

「たぶん、同じだったよ。神宮寺の部屋にあったのも、同じ青っぽい色をしていたと思う」滝元はちょっと得意そうな顔をして言った。

「よく観察してたね。僕は被害者の死体に気を取られすぎていたからなあ」

 と言いながら、そのブレスレットを手に取った。それを見つめながら、この事実が何を意味しているかを考えている。

「他には何かないか。身分証とか」

 滝元は、また小物の山を漁りだした。そこから1つ取り出した。それは煙草の箱だった。

「親父と同じ銘柄の煙草を吸ってるんだ。親父みたいに変わった人なのかな」

「どういう意味?」

「この煙草は『ノーブルウーマン』っていって、その辺のコンビニなんかでは売っていない、とてもマニアックな煙草なんだ。吸ってる人も、ほとんど女性かな。メンソールでね。親父は、独特の香りが良いなんて言ってるけど、ほんとは、ただ安いだけの煙草さ」

 氷室は、煙草の箱を手にした。箱の表面には、ヨーロッパの昔の貴族のようなイラストが描かれている。箱を開けると、中に4本入っていた。1本取り出して、鼻に近づけてみると、確かにメンソールの香りがした。

「僕は煙草は吸わないけど、いい香りがするね」氷室は煙草を元の場所に戻した。それから2人は、部屋の中にあるものを一通り調べていったが、これといった収穫はなかった。最後に有村のスーツのポケットを調べて、何も手がかりがないのが分かると、2人は廊下に出た。廊下には、支配人とベルパーソンの堀北が話していた。ベルパーソンは重そうな荷物を運んでいる。堀北は、その荷物を有村の部屋の正面の部屋に置いた。2人に気づくと、

「あんたたち、探偵さんなんだってね。どう、捜査は進んでる?」ホテルで、凄惨な事件があったというのに、気にしていないような様子で話しかけてきた。

「だいぶ、いろいろなことが分かってきたよ」氷室が言うと、意外そうな表情をした。

「へぇー、そうなんだ。神宮寺さんって、敵が多そうな人だったからなあ。私もあんまり好きじゃなかったし、フロントの野々宮さんも、ちょっと前に、神宮寺さんが勧める株を買って、すごい損をしたって言ってたし、コンシェルには、いたずらをして困らせてたし、前園さんには、よく『こんなまずい料理が食えるか』って文句を言ってた」

「君は何か言われたの?」

「いろいろね。あの人って、人のあらさがしをするのが趣味みたいだったから。そういう人っているでしょ。だから、事件を聞いたときも、あまり驚かなかった」

 滝元が前に出てきた。

「ところで、HMJの『ヘンリーと魔法の城』っていうアトラクションは入ったことある?」

「10回以上あるわ。まだ入ったことがないなら、いいこと教えてあげる。魔法教室にある先生の肖像画をずっと見てた方がいいよ。あそこに暗号を解く鍵が浮かんできて…」

「そろそろ階下へ行きましょうか」支配人が、話を中断して言った。

「じゃあ、また」

 堀北は、まだ話したそうにしていたが、正面の部屋に入っていった。3人はエレベーターに乗った。


 5

 ロビーには滝元警部がいた。警部の隣には、カメラに映っていたと思われる人物がいる。神宮寺の仕事仲間と思われる人物は、こんな夜更けに呼び出されたことを迷惑がっている顔をしている。ローン会社社員と思われる方は、辺りをキョロキョロとうかがっていて落ち着きがない様子だった。

「氷室君、連れてきましたよ。どこで、話を訊きましょうか?」

「お腹が減ってきたんで、レストランで訊きましょうか。赤井さん、まだやっているところはありますか?」

「中華ならやってると思います」

「じゃあ、そこに行きましょう」


 注文した料理がテーブルに並び終えると、氷室が口を開いた。

「まずは、新垣さんからお訊きします。今日といっても、もう日付が変わってしまいましたが、10時55分頃に、神宮寺さんの部屋を訪れましたね。どういう用件だったんですか?」

 新垣は、なんでこんな若造に質問されなきゃならないんだというような顔をした。煙草に火をつける。

「仕事がある日は、いつも修ちゃんのとこに寄ってるのよ。あの人、よく寝坊するから」

「仕事は何時からなんですか?」

「夕方の5時だけど、昨日は仕事前に、修ちゃんと買い物してから行こうと思って、早めに来たのよ。そしたら、ちょっと用事ができたから買い物には行けないって言われて。それで、ちょっと部屋で待っていたんだけど、帰ってこないから、1人で銀座にいったわけよ」うまそうに煙草の煙をはき出す。

「その用事っていうのは、具体的には何か言っていませんでしたか?」

「言ってないわ」

 滝元は夢中で、小龍包をほおばっている。

「神宮寺さんに、何か変わったところはありませんでしたか?」

「いつも通りだったわ。ただちょっとそわそわしていたって言うか、何か気にしているような感じはしたけど。修ちゃんは今までもそういうところがあったから。いつものことかなと思ったわ」

 氷室は餃子を食べた。

「わたしも頂くわ。こんな夜中に呼び出されて、お腹が減っちゃったわよ」新垣は餃子を一口でたいらげた。

「それから、神宮寺さんの部屋の鍵なんですが、新垣さんは鍵を持っているんですね?」

「ええ、そうよ。修ちゃんが、ここで生活するようになってから、ずっと持ってるわ。たぶん、スペアを持ってるのは、わたしだけよ」

「なるほど、では神宮寺さんが部屋にいない時も、鍵を使って部屋に入ることができるんですね?」

「それはないわ。いくらわたしでも、それはしないわよ」新垣はきっぱりと否定した。滝元警部が注文したエビチリがきた。警部は、メモを取っていた手を止め、エビチリをみんなの皿に取り分けていった。滝元Jrが、6個目の小龍包を口に入れたところで、

「ちょっといいかな」と言って、7階に住んでいる有村という男を知っているか尋ねた。

「知らないわね、そんな人は。たぶん、修ちゃんも知らないと思うわ」と答えると、滝元Jrはまた小龍包に戻った。氷室が、事件に関して何か心当たりはないか尋ねると、

「そう言えば」と言って、煙草の煙をゆっくりとはき出して、

「修ちゃん、最近、金回りがよかったのよね。わたしが、なんでそんなに金を持ってるか、訊いたんだけど、教えてくれなかったの。でもなんとなく察しはついてるの。修ちゃんには、男がいたのよ。その男に貢がせてたのよ」

「新垣さんは、その男を知ってるんですか?」

「わたしは会ったこともないわ」

 他にも、いくつか質問したが、参考になる事実はなかった。氷室が、質問はもうないと伝えると、仕事があるからと言って、急ぎ足でホテルを出て行った。

「お待たせしました、愛川さん」

 ローン会社の人間は、新垣の存在に圧倒されたのか、奥の席で、小さくなっていた。

「愛川さんは、昨日の13時頃、神宮寺さんの部屋を訪れましたね。どういう用件だったんですか?」

 愛川は、のどがカラカラに乾いていたらしく、グラスになみなみと入っている水をいっきに飲み干した。

「ローンの返済の催促です。このところ、神宮寺さんは返済が滞ることが多かったものですから」

「どのくらいの金額を借りていたんですか?」

 愛川は、ハンドバッグから、1枚の紙を取り出した。

「ここに書いてあります」

 そこには、神宮寺が5か月前に、200万円借りたことが記されていた。それを見る限り、今日まで、1円も返済していなかった。

「神宮寺さんは、今までにも、お金を借りていたことがあるんですか?」

「しょっちゅう、あります。でも今までは、きちんと遅れずに返済してくださっていました」

「返済が遅れていることについて、神宮寺さんは何か言っていませんでしたか?」

「特に理由は言っていませんでした」愛川は、水のおかわりを頼んだ。

「それで、昨日はどんな話をしたんですか?」氷室は、それとなく愛川の腕時計に目をやった。それは被害者がしていたのと、同じメーカーのものだった。

「今月までに、返済を開始してくれるように話しました。他にはこれといって会話はしていません」

 ローンの方面からは、手がかりが得られそうもないと悟ると、氷室は質問の方向を変えた。

「愛川さんは、神宮寺さんの部屋を訪問した時、スーツケースを持ってましたよね。普段から持ち歩いているんですか?」

 愛川は歯をむき出して笑った。

「ははは、あれはあの後、旅行に行くことになっていたもんですから、そのままスーツケースを持って、神宮寺さんのところに寄ったんです。結局、一緒に行くことになっていた友人に急用ができて、旅行はキャンセルになりましたけど」愛川は淡々と答えた。

 滝元警部が、箸を置いた。

「どうですか、氷室君、何か分かりましたか?」

「すでにいろいろなことが明らかになってきてますが、肝心の犯人が分からないんです」

 店の奥から、中華の料理人が料理を運んできた。皆の想像とは違って、料理人は20代半ばくらいの青年だった。それにかなりのイケメンだった。ネームプレートに『前園』と書いてある。

「特製チャーハン、お待たせしました」

「前園さん、ちょっとよろしいですか」氷室が、チャーハンをテーブルに並べている料理人に向かって言った。

「何でしょうか?」

「昨日、7階の神宮寺さんという宿泊客が、ルームサービスで麻婆豆腐を頼んだんですが、作ったのは前園さんですよね?」

「ええ、そうですが」料理人は不安そうに答えた。

「その料理を、ロボットのコンシェルが運んでいったんですが、いつもそうなんですか?」

 料理人は空いている席に座った。

「オーダーがたくさん入って、人手が足りない時には、コンシェルにも運んでもらうことがあるんです。昨日も、いっぺんにオーダーが入ったんです。それで頼みました」

「コンシェルが神宮寺さんの麻婆豆腐をカートに載せるところを見ていましたか?」

 料理人は、変なことを質問するなあという表情をした。

「もちろん、全部見ていましたよ。間違ってはいません」

「そうでしょうね、いやあ、このチャーハンはおいしいですね。訊きたかったのはそれだけです」

「これだけですか?」料理人は立ち上がって、「それじゃ、ごゆっくり」と言って、厨房に向かっていった。

「愛川さんも自由にしてもらってけっこうです。ありがとうございました」

 ローン会社の人間は、一礼して退席した。滝元Jrは10個目の小龍包を口に入れた。

「僕は、あのオカマの友達が怪しいと思う。恋のライバルを殺したんじゃないか」

「そうかもしれないね」と言ったきり、氷室はチャーハンに夢中になっている。

 皆が食べ終わって、一服していると、氷室が口を開いた。

「確か、防災センターでカメラの映像を見た時に、コンシェルと会話をしていた客がいたと思うんだけど。ちょっと話を聞いてみよう」


 コンシェルと会話したという客は、60才代の女性だった。深夜2時過ぎという時間もあって、氷室たちが部屋を訪問した時は、眠そうな、迷惑そうな顔をしてドアを開けた。

「どんなご用でしょう?」女性は、あくびをかみ殺しながら言った。

 氷室はカメラの映像のことを話した。

「ああ、あれですか。たいしたことじゃないんです。この部屋に備え付けのテレビが、どうにも映らなくてね。電源が入れてあるのに、ずっと砂嵐だったんです。それで、ホテルのスタッフに見てもらおうと思って、廊下に出たら、あのロボちゃんがいたもんですから、お願いしようと思ったんです。それより、この階で殺人事件があったんですって。犯人は見つかったんですか?」女性は、廊下に立っている全員に視線を向けながら言った。

「事件は今捜査中です。心配することはありませんが、念のため、ドアには鍵をかけて、不審な人物が来ても、ドアを開けないでください。ところで、コンシェルはちゃんとテレビを映してくれましたか?」

「それがね、あのロボちゃんには、『砂嵐』っていう言葉が分からなかったようなんです。私が、『テレビが砂嵐になってるから、見てもらえないかしら?』と言ったら、少しの間があって、その後に『砂嵐?』っていうように聞き返したんです。私は、『そうなの、全局砂嵐なのよ』と答えたの。そうしたら、『全部、砂嵐?それは、私じゃ分からないので、スタッフを呼んできます』って言って、エレベーターに乗っていったの。それだけよ」

 何の他愛もない話だなと滝元は思って、横の氷室を見ると、氷室の目がキラリと光っている。いつも彼が手がかりを嗅ぎつけた時に起きる変化だ。

「それで、コンシェルは誰を呼んできたんですか?」

「ハウスキーパーの一条さんっていう女性の人だったわ。その人が部屋に来て、テレビ画面を見るなり、『アナログ放送になってますね』って言って、リモコンのボタンを操作したら、すぐに映るようになったの。なんか私がリモコンの変なボタンを押しちゃったみたいだったの」

「僕も、たまに変なボタンを押してしまいますよ。ちなみにコンシェルと話していた時、コンシェルの声に何か異常な感じはなかったですか?」

「異常な感じって言われても、私がロボちゃんと話したのは、あの時が初めてだったからね」

「そうでしたか」と言うと、氷室は満足した表情を浮かべた。

「こんな夜遅く、ご協力ありがとうございました。それでは、おやすみなさい」氷室は丁寧にドアを閉めた。

 氷室の背後で、腕を組んでいた滝元警部が、

「たいした話が聞けませんでしたね」と落胆した声で言った。

「いえ、これで事件は解決するかもしれません。その前に、ちょっと支配人に訊きたいことがありますけど。そうすると、犯人は…」

 滝元警部は目が点になった。

「氷室君、冗談じゃないでしょうね」

「ははは、こんな時に、冗談は言いませんよ。警部、ホテルの関係者を支配人室に集めてほしいんですが」

「すぐに集めましょう」


 6

 HMJホテルの支配人は、氷室の奇妙な質問に戸惑いながら答えた。氷室はホテルの関係者の出身地をたずねたのだ。

「私が大阪出身で、野々宮さんが東京出身、堀北さんが福井出身、一条さんが北海道出身、前園君は福岡出身です。ちなみにコンシェルは愛知県の工場で製造されました」

「赤井さん、ありがとうございました。これで確認できました」

 支配人室には、関係者が集まっている。皆、不機嫌そうな表情をしている。フロントの野々宮が立ち上がった。

「探偵ごっこにつきあっているひまはありません。私は帰らせていただきます」

 ドアに向かおうとすると、滝元警部が壁になって立ちはだかった。

「もう少し、辛抱してください」

 野々宮は舌打ちをして席に戻った。

 支配人室に静寂がおとずれると、氷室が口を開いた。

「この事件には、いくつかの顕著な特徴がありました。その1つに、凶器の爆弾があります。この凶器は、水平方向から少しでも傾けると、爆発してしまう、やっかいなものでした。犯人がなぜ、こんな爆弾を凶器に選んだのかは分かりませんが、この爆弾の性質のおかげで、捜査の対象をぐっと、せばめることができました。まず、この爆弾は外部から持ち込まれた可能性は非常に低いということが分かります。犯人にせよ、第三者にせよ、この爆弾を少しも傾けることなく、持ち込んでくるのは、ほぼ不可能でしょう。車なんかに乗せてくるのは、もってのほかです。仮に、ホテル内に持ち込めたとしても、フロントで、荷物を預けなければならないし、変な持ち方をしていたら怪しまれてしまう。そう考えると、凶器の爆弾はホテル内で作られたと考えていいでしょう」

 氷室はスタッフの反応を待った。誰も口を開こうとしないので、話を続ける。

「それから、もっと重要なことは、爆弾がいつ、被害者の部屋に持ち込まれたかを知ることでした。これは、滝元警部がヒントをくれました。警部は、もし爆弾が昨日以前に、部屋に置かれたとしたら、その時に爆発しただろうと言うのです。僕は、いろいろ検討しましたが、やはり警部の言う通りだと考えました。人間は好奇心旺盛な生き物です。自分の部屋に変てこな箱が置かれていたら、やはり誰でも触りたくなるでしょう。箱の裏を覗いてみるかもしれません。そうなったら爆発です。というわけで、爆弾が入った箱は、事件のあった昨日、置かれたんです。それで、僕は昨日、被害者の部屋に入った人を調べるために、防犯カメラの映像を見ました」

 氷室の話が進んでいくにつれて、ホテルのスタッフは、興味を持って聞くようになった。

「カメラには、被害者の仕事仲間の新垣さん、ローン会社の社員、サングラスの男、それからルームサービスを運んできたコンシェルが部屋に入ったのが映っていました」

 元気いっぱいのベルパーソンが、

「サングラスの男が犯人ね。神宮寺さんと同じ7階に泊まってるし」と言った。

「堀北さん、後で説明しますが、それはないんです。僕がカメラの映像で、注意して見ていたのは、彼らの手荷物でした。すでに説明したように、凶器の爆弾は少しでも傾けると、爆発してしまうんです。だから、彼らの荷物の持ち方を見れば、そこに爆弾があるかどうか分かります。新垣さんは、ハンドバッグを肩にかけていましたが、ドアを開ける時、それを床に置いたんです。もし爆弾が入っていれば爆発したでしょう。それからローン会社の愛川さんは、スーツケースを持っていましたが、やはり部屋に入る時、スーツケースを壁に立てかけようとして、床に倒しました。爆弾が入っていれば、そこで爆発です。サングラスの男は手ぶらでした。彼ら3人は爆弾を持っていなかったんです。コンシェルはどうでしょうか」

 ホテルの何でも屋のロボットは部屋の入り口付近で、氷室の方をじっと見ている。ただ、表情が変化しないため、何を考えているのか計り知れない。

「コンシェルは車輪付きのカートに、ルームサービスの食事を載せて部屋に入りました。カートは食事を運ぶだけあって、とても安定して物を運ぶことができます。昨日、コンシェルを除く3人の人間には、爆弾を部屋に持ち込むことができなかったので、爆弾を部屋に持ち込んだのは、コンシェルしかいないという結論がでてくるんです」

「コンシェルが!犯人?」スタッフの何人かが一斉にさけんだ。当のコンシェルは支配人の隣の席に近づいていった。

「ワタシニハ、ソノトキノ、キオクガ、アリマセン」

「うそをついてるんじゃないの?」ハウスキーパーの一条が荒々しい声で言った。

「ワタシハ、ウソガ、ツケナイヨウニ、プログラム、サレテイマス」

 氷室はコンシェルのそばに行き、その肩に手を乗せた。

「コンシェルはうそをつけないようにプログラムされているようです。だから、記憶がなかったというのは本当なのでしょう。僕は爆弾を運んだのはコンシェルだと言いましたが、正確な表現ではありませんでした。正しくは、こう言うべきでした。『爆弾を運んだのはコンシェルのかっこうをした犯人だった』と」

 ホテルのスタッフは、氷室の言葉を理解するまでに、しばらく時間がかかった。中華料理のシェフがあきれたように言った。

「犯人がコンシェルのかっこうをしただって?」

「そうです、前園さん。これにはちゃんと根拠があるんです。昨日の防犯カメラの映像を見ていた時、コンシェルが被害者の部屋に行った後で、宿泊客と会話をしているらしい姿が映っていました。何かの参考になればと思い、その宿泊客に話を聞いたところ、テレビが全局『砂嵐』になってしまってるので、きちんと映るようにしてほしいと言ったそうです。するとコンシェルは少し間を置いてから分からないと答えたそうです」

 一同の視線がコンシェルに向けられた。

「キオクガ、アリマセン」

「その宿泊客は、後で一条さんに来てもらい、映るようにしてもらったそうです。そうですね?」

「はい、単純にアナログ放送になっていただけでした」

 氷室は満足そうに微笑んだ。

「地デジ化されて以降、テレビのリモコンによっては、『アナログ放送』と『デジタル放送』というボタンがあって、どちらかを選ぶことができるんです。画面が白黒で、ザーっと音がするいわゆる『砂嵐』は、デジタル放送になってからは、あまり目にしなくなりましたが、アナログ放送にすると、まだ映るんです。この『砂嵐』という言葉を知らない人はまずいないでしょう。でも、昨日、コンシェルは宿泊客に分からないと答えたんです。おかしいじゃありませんか」

「何がおかしいんです?」フロントの野々宮が尋ねた。

「だって、コンシェルは、常時ネットに接続されていて、最新のニュースや交通情報、天気やその他、何でも瞬時に知ることができるんです。もし、コンシェルが『砂嵐』という言葉の意味が分からなかったら、ネットで調べることができたんです。それをせずに、一条さんを呼びにいったことが、その時のコンシェルが本物のコンシェルではなかったことを示しているんです」

「そうなりますかね」半信半疑の口調で野々宮が言った。

「コンシェルが偽物だったという根拠は、もう1つあります。これもカメラの映像なんですが、コンシェルが神宮寺さんの部屋に向かっている時、廊下に置いてある台に接近しすぎて、つまずきました。これも、おかしいんです。僕たちがロビーで、コンシェルの動きを見ていた時、コンシェルは巧みな車輪さばきで、障害物をよけていました。どこかにセンサーが付いているんでしょう。本物だったら、廊下の台につまずきそうになることはないはずです。というわけで、カメラに映っていたのは、コンシェルではなく、爆弾を運ぶ犯人だったのです」

「犯人の見当はついてるんですか?」支配人が訊きたいのはそのことだった。

「名前まで知ってます」

 スタッフの誰かが小さくうめいた。

「これも、さっきのテレビの『砂嵐』の件から分かるんです。宿泊客が話していたコンシェルが、実はコンシェルではなく人間だったことは説明した通りです。でも、そうすると、コンシェルに化けていた犯人は、『砂嵐』の意味を知らなかったことになります。そんな人がいるでしょうか。小さい子供なら、知らないことがあるかもしれませんが、大人だったら、まず知らない人はいないでしょう。ここで困ってしまいました。コンシェルはやっぱり本物だったのか。どこかで、推理が間違っているのか。いろいろ考えて、あることを思いついたんです。人間でも、『砂嵐』という言葉を知らない人がいるんじゃないか。その人は、『砂嵐』を別の言葉で理解しているのかもしれない。つまり、『砂嵐』の方言があるのかもしれない。それで記憶をたどっていたら、あることを思い出しました。北陸地方の人は、いわゆる『砂嵐』を『じゃみじゃみ』ということを。つまり犯人はこの中で、北陸地方の出身者であるあなたです」

 氷室に指を差された堀北まみは、席から立ち上がり、後ずさった。

「ちょっと待ってよ。北陸出身なんて、いっぱいいるじゃない。どうして私なの?」

「犯人はホテルの関係者であることは、途中から知ってました。それは、犯人がコンシェルに化けるために、本物のコンシェルの電源を切っておいたことです。コンシェルの電源を切るには、スタッフしか知らないコードを入力する必要があるからです。だから、ホテルの関係者で、北陸地方の出身である堀北さんが唯一の犯人なんです」

 ベルパーソンは椅子にくずおれた。

「あいつが悪いの。あいつが私の家庭をめちゃくちゃにしたの」


 7

 堀北はハンカチで涙を拭うと、静かに語りだした。

「神宮寺と私の父は、高校、大学の同級生でした。大学を卒業してからは、2人はほとんど交流がなかったのですが、30才の時に同窓会があり、そこで父は久しぶりに神宮寺に会ったそうです。そこで父は神宮寺から、ある儲け話があるんだがどうかと持ちかけられたそうです。父は乗り気ではなかったのですが、絶対に損はしないからと、しつこく言い寄ってきたので、父はしぶしぶ承諾したそうです。その儲け話は、ハワイにある土地を買って、地価が上がったら売り抜けるというもので、父は数千万円の土地を買いました。でも父が買った数か月後に、土地が暴落して、逆に数千万円の借金を背負ってしまったんです。神宮寺は、土地が暴落する少し前に売却していたので、被害はありませんでした。父が、話が違うじゃないかと神宮寺に詰め寄ると、それは父のやり方が悪いからだと言って、父のもとから行方をくらませてしまいました。さらに追い打ちをかけるように、父の会社が倒産してしまい、絶望した父は、自ら命を絶ちました。母はそれが原因で、精神的に病んでしまい、母もまた父と同じ道を選びました。私は一人っ子だったので天涯孤独の身になったのです。さいわい、親戚の家にお世話になることができましたが、ずっと居心地の悪い思いをしてきました。私の頭の中には常に、私の家族をめちゃくちゃにした神宮寺という男に復讐することがありました。でもどこにいるか分かりませんでした。今から2か月前に、何気なくテレビを見ていたら、新宿のあるオカマバーが映っていました。そこに、神宮寺の姿があったんです。私は、神宮寺が女装している姿を写真で見たことがあるので、間違いないと確信しました。神宮寺はテレビで、今はホテル住まいをしていると話していました。ホテルの名前も話していました。私は、何回かホテルに泊まって、神宮寺と接触する機会が来るのを待ちましたが、うまくいきませんでした。そこで、ここで働けば、いくらでも神宮寺に近づけると考えたんです。求人に応募すると、すぐに採用してもらったので、あとはどうやって、神宮寺に復讐するか考えました。本やネットなんかで調べて、あの凶器を使うことにしました。本当は時限式のものにしたかったのですが、私みたいな素人には難解でした。私がどうやったのかは、氷室君の推理した通りです」

 滝元警部が堀北の肩を軽くたたくと、堀北は覚悟を決めたように立ち上がって、警部の後に続いて、部屋を出て行った。堀北と警部が去った後の支配人室は、時が止まったような空間になった。しばらくして、支配人が、

「そういえば、あのカメラに映っていたサングラスの男は何者だったんですか?」とたずねた。

「たぶん、あの男は被害者の神宮寺さんです」

「えっ?どういうことですか?」

「神宮寺さんは、ここで二重生活をしていたんだと思います。どういう理由かは、死人に口なしで分かりませんけど。僕たちが有村さんという人の部屋を調べたら、とても珍しい煙草の箱を見つけました。それは神宮寺さんも吸っているものでした。またパワーストーンがちりばめられているブレスレットがありましたが、これも神宮寺さんがしていたのと同じものだったんです。だから、それらの部屋の住人は同じ人物だったのではないかと思ったんです」

「なるほど、二重生活か」

 氷室は背伸びをしながら、立ち上がった。

「さて、ちょっと仮眠したら、HMJに行くとするか。最初に『ディノワールド』に乗ろうかな」

「やっぱり行くの?カップルだらけだぞ」滝元が気乗りしない口調で言った。

「それなら心配はいらないよ。僕が女装してやるから」

「それだけは、かんべんしてー」


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