蒼穹に想いを馳せて
「では往ってきます。」
時が経った今でも鮮明に覚えてるあの笑顔。
あの笑顔が最後の笑顔とはあの時は気付かなかった。
またきっと帰ってくる。
ただいまと言って帰ってくる。
そう信じてた。
戦局が悪いとは聞いていたし、みんな声に出さないけど雰囲気で分かる。
どうか無事に。
当時はそれしか考えてなかった。
今思えばあの人も罪な人。
あんな笑顔されたら分かる訳ないじゃない。
これから死に往く人があんな笑顔するって想像すらしてなかったんだし。
でもきっと本当は泣きたかったんじゃありません?
今となっては分からないけど
あの人の性格だから私に心配させまいと必死だったのでしょうね
あの最後の出立の日から幾日後。
あなたの最後の手紙が届きました。
あなたの手紙通りに私はあれから泣かずにずっと前を向いて頑張ってきましたよ?
あの後に私を愛してくださる方出会えて幸せでした。
それもあなたの手紙通りです。
あなたの言葉はいつでも私の励みになりました。
泣いた顔より笑顔が見たい。
これからは隣にいれないが、誰より○○の幸せを願ってる。
○○が幸せで笑顔でいるかぎり俺は往って良かったと思える。
そんな言葉が乱雑に書き記された手紙は
今でも大事に仕舞ってあります。
あなたの言葉通り私は辛い時も笑顔であなたが上で安心出来るようにと頑張ってきました。
でもそれも終わりです。
私はあなたの分までいっぱい生きました。
もうこの辺でお休みしようかと思います。
今でも目を閉じれば
在りし日に戻れる気がして
あなたと蝉時雨に包まれながら歩いた畦道
夢をいっぱいお互いに話して
そんな何でもない日常が今では遠い世界のように思えます。
でももうそれも終わり。
ようやくあなたに会えると思うと死ぬことは何とも思いません。
残してしまう夫や子供には申し訳ないと思いますが
孫や子供に囲まれて往生出来るなんて幸せ者ですね
あなたは迎えに来てくれるのでしょうか。
またあの笑顔を間近で見たいのよ?
あぁ、そろそろかしら
もう疲れてしまいましたから、ゆっくり寝るとしますゎ
あ、あなた!
やっぱり来てくれたのね!
とてもあいたかったのよ
もう泣いてもいいでしょ?
あなたの胸でならいいでしょ?
あなたに会えたんだから…
家の寝室で終末を迎えようとしてるおばあさんを家族が見守る中
家族がふと気付くと窓際に一匹の蛍が。
そこへ一匹の蛍が飛んできました
おばあさんはそれを見て微笑むとゆっくり静かに目を閉じて息を引き取りました。
それと同時に二匹の蛍は空高く飛んでいきました
いつまでもずっと…
end