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「お前みたいなタイプは、長生きできないぜ」
「いやぁ、俺は老後をエンジョイするよ?将棋とか指しながらね」
春一は銃を向けられながらも、犯人の男と話をしていた。春一はいつもと変わらない飄々とした調子で話し、犯人の男はそれに高圧的に対する。しかし、その圧力を春一がひらりと躱す。そんな会話を続けていた。
「まぁ、仮に俺が長生きできないタイプだとしても、君は長生きしそうだね?」
春一が含みのある視線を犯人に向けると、犯人の男は春一を睨みつけた。春一はそれに小さく笑って、口だけ動かし声は出さずに「妖怪」と言った。
犯人の男は、春一が乗る前からバスに乗っていた。そして春一は、乗車の時点で彼が妖怪であることを見抜いていた。さらに、妖怪のほぼ全種に共通する特徴は長寿だ。妖怪は種族の差こそあれ、人間よりは遥かに長生きをする。
「…確かに俺は長生きをするだろうな」
「じゃあ、ちゃんと罪を償うんだね。ながーい時間、牢屋の中で」
にやりと笑う春一に、犯人の男は銃を握った手で春一の頬を殴った。春一は床に転がり、乗客の中にはどよめきが起こった。
「黙れ、ガキ。お前は人質だ。立場を弁えろ」
「…わーったよ。だけどさ、今の衝撃で、銃にロックかかってるぜ?」
「何?」
犯人が銃を見た。その瞬間、春一がばねのように跳び上がって妖怪の右腕にタックルした。手はがっちりと銃を押さえている。
「嘘でした」
春一の膝蹴りが、妖怪の右腕に命中する。銃が手からこぼれ、前部ドアの階段に転がる。
「テメェ…ッ!」
「憎みたきゃ、憎んでいいぜ」
春一はぎゅっと拳を握り、渾身の一撃を妖怪の顔面に叩き込んだ。
警察がバスを取り囲み、犯人の妖怪を車内から連れ出した。きっと、この後警察の上層部と枢要院との間で犯人の引き渡しが行われるはずだ。
「残念だったね。アンタにとっては」
パトカーに連行される妖怪に、春一が話しかけた。
「…お前に言いたいことがある」
「何?恨み節なら聞き飽きてるから言わなくても結構だけど…」
「死が二人を別ち、まだ幼い長息だけが残った時、全ては無になりそこから全てが始まる。申命記一章八節」
「…何だ、それ」
「じゃあな、万屋」
それだけ言うと、犯人はパトカーに入れられ、連れられていった。
「何だったんだ…」
妖怪の言葉に言い知れぬ不安を覚えた春一は、今の言葉を即座にメモした。