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TRUMPⅤ  作者: 四季 華
第2章
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「何だヨ、そレ」

「昨日捕まえた妖怪に渡された」

 数珠市にある国立北神ほくしん大学。全国にある国立大学の中でも最難関と言われる一番有名な大学だ。そんなキャンパスに、凡そ似つかわしくない三人組がいた。

 春一よりも明るい茶髪の右サイドに三本の黒メッシュを入れて、両耳に三個ずつピアスをつけている童顔の彼は七紀丈ななきじょう。ちなみに、彼の兄であるごうは夏輝の友人である。春一と同じくバイク好きで、ホンダのアメリカン「シャドウ400」を愛馬としている。シャドウのアップハンドルは丈こだわりの角度で決められている。専攻は物理学。

 そして、セミロングの髪全体を金色に染めた彼女は五木琉妃香いつきるひか。薙刀の有段者で、護身術や柔術の類も身に付けている。それとは裏腹に、その愛嬌のある美しい顔立ちは男達を魅了してやまない。彼女も春一と丈につられてバイクに興味を持ち、現在ではホンダの「スティード400」に乗っている。専攻は天文学である。

 彼ら三人は幼馴染であり、そして「トランプ」というチーム名を周囲からつけられていた。伝説の不良チームとして語り継がれている三人だが、彼らはそれに良い顔をしない。彼らは自分達のことを不良だと認めていないからである。唯一、琉妃香が「トランプってなんかカッコイイ」と言っているくらいだが、彼女もまた自分が不良であることを認めてはいない。

 由来は春一の「一」が「エース」、丈が「ジョーカー」、琉妃香の「妃」が「クイーン」を想起させて、何より三人が負けなしの強さだったため「切り札」という意味の「トランプ」という名前を周囲からつけられたのだ。

「何これ暗号?」

「それがよー、わっかんねーの」

 そんな三人は、大学のカフェで紙片を見つめていた。春一の手には先日渡された紙片。数字とひらがなが書かれているだけの紙きれだ。

「すいちりって何?しかも2354って、2345ならまだわかるのに」

「俺が聞きたい」

「ハル、お前恨まれるようなこと何かしたんじゃねーノ?」

「馬鹿言うな。俺は数珠市一善良な市民だぞ」

「お前の頭でこの大学に入れたのがあたしは未だに不思議でしょうがないよ」

「お前に言われたくない」

「ハル、歯ァ食いしばれ」

 間もなく琉妃香の平手打ちが春一の頬に直撃し、彼の顔には一足先に紅葉が咲いた。

「いって!お前、本気で殴るなよ!」

「ハルが悪いんだろーが!」

「ああー?ちっと表出ろテメー」

「上等だ馬鹿ハル」

「はいはい、お二人さん、座ってネ。今はこの紙片が問題なわけで、お前らの些細な痴話喧嘩は必要ないかラ」

「ジョー、テメーなに一人だけ大人ぶってんだコラ」

「お前が一番馬鹿なくせに我関せずみたいな顔してんなよ!」

「んだコラ!テメーら言わしておけばペラペラと…泣かしてヤンカ!」

「やれるもんならやってみろコノヤロー」

「お前を泣かしてやるよ!」

「ハル、琉妃香、言ったナ!話は裏で聞くゼ?」

 三人は椅子を引き、それぞれが険しい顔をしてカフェを去った。彼らが去った後のカフェは何とも言えない空気が漂っていた。しばらく沈黙が場を支配したらしいが、それはまた別の話である。


「くっそ~マジで痛ぇ…」

 春一は愛車であるドラッグスターを車庫に停め、玄関がある二階への階段を上っていた。

 カフェを出た後、結果的には春一も丈も琉妃香に散々投げ飛ばされ、節々を痛める結果となった。おまけに琉妃香は立てなくなった二人を正座させて、それぞれに一発ずつ拳をお見舞いしていたので、横面も痛い。

「女はフツー平手だろぉ?何でグーで殴るんだよ、あいつ」

 独り言をブツブツと言いながら玄関を開けると、甘い香りが鼻をくすぐった。これは、アップルパイの匂いだ。今日は定休日だから、夏輝が作っているのだろう。

「ハル、お帰りなさ…。…どうしたんですか、その格好」

 今の春一と言えば、投げ飛ばされたせいで服は土砂だらけだし、顔は赤く腫れているし、散々な状態だった。

「なんでもねーよ」

 不機嫌そうに言う春一に夏輝はそれ以上の追及をやめておいた。この家で暮らすようになってから得た教訓「触らぬ春一に祟りなし」である。

 夏輝は今焼き上がったばかりのアップルパイを皿に載せて、テーブルの上に置いた。

「二人では多いですから、琉妃香さんに持っていったらどうです?」

「あ?琉妃香が何だって?」

 春一は最恐のガンを夏輝に飛ばして、着ていたTシャツを脱いで放った。よく見れば上半身の至る所が赤くなっている。

「琉妃香さんにやられたわけですか…」

 夏輝のため息が春一の神経を逆撫でしたのか、彼は夏輝に近づいて、下から彼をねめつけた。

「テメーが行ってくりゃいいだろ、な・つ・に・い」

 夏兄というのは琉妃香なりの夏輝の呼び方である。そんな琉妃香の口調を嫌味ったらしく真似て、春一はくるりと踵を返した。

「俺は知らねー」

 夏輝は頭の後ろを掻いて、五つに切ったアップルパイの内三つを袋に入れた。

「丈君にも渡してきます。行ってきますね」

 夏輝は家を出て、春一の家から近い丈の家にまず寄った。玄関を開けてもらうと、彼もまた春一と似たような容貌だった。

「おおーナッちゃん、どうしたんヨ?」

「アップルパイ、作ったのでおすそ分けに。…あの、何があったんですか?」

 話を聞くと、丈は顔を歪めながらも事の顛末を話してくれた。夏輝は礼を述べて、アップルパイを渡した。

「豪にもよろしく言っておいてください」

「おおー。兄貴、今ナンパに行ってるから、帰ってきたら言っとくワ」

「…そろそろ一途になれと、伝えておいてください」

「りょーかい」

 続いて琉妃香の家へと向かう。玄関が開いた瞬間はしかめっ面だった彼女だが、目の前にいるのが夏輝だと視認した瞬間、ぱっと顔が輝いた。

「夏兄!」

「あの、アップルパイ、作ったのでどうぞ」

「夏兄サイッコー!ありがと!」

「気分直しになったようで何よりです。…ハル達と喧嘩をしたと聞いたものですから」

 夏輝が言うと、琉妃香は頬を膨らめて子供のように目を逸らした。

「だってー…」

「だって、じゃありませんよ」

 優しく諭すように夏輝が言うと、彼女は余計に頬を膨らませてうーと唸った。

「ハルの態度にも問題はあったと思いますが、それが全てではない気がします。お互いが許す心を持てば、仲の良い三人組に戻れると思いますよ」

 こんなことを言うなんて自分も年を取ったものだ、と実感する。こういう時だけは成人を迎えた春一達三人も幼く見える。

「夏兄…ハルに、ごめん、って、言ってくれる?」

「ええ、承りました」

 ふくれっ面で恥ずかしそうに言う彼女が本当の妹のように見えてきて、夏輝は微笑んだ。

「あと、例の暗号の意味わかった、とも」

「え?」



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