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「よう、夢亜。久しぶり」
「久しぶり、ハル。こうやって会うのは高校以来だな。懐かしい」
春一は自宅からほど近い居酒屋で、高校の友人である夢亜と会っていた。この夢亜という男こそ、裏の世界で名を轟かせる一流の情報屋だった。妖怪の存在も知っており、春一は何かと夢亜を頼りにしていた。枢要院と春一は犬猿の仲なので、枢要院からの依頼を春一に伝えるという両者の橋渡し的な役割も担っている。
いつもはメールや電話のやり取りばかりで、こうして顔を合わせるのは約三年ぶりである。夢亜は春一よりも一つ年上なので、一年先に卒業していた。二人はお互いの変わらない姿を見て、しばし高校時代の話に花を咲かせた。
「乾杯」
話が盛り上がりを見せていた頃、絶妙なタイミングでビールが運ばれてきた。ジョッキを手に、二人はそれを打ち鳴らして豪快に飲み込んだ。
「何で酒ってのはこう、昔話に合うんだろうな」
「年寄り臭いこと言うなよ、まだ二十歳になりたてのくせに」
「お前な、生まれてから二十歳までと、二十歳から八十歳までって体感時間は一緒なんだぞ。つまり、俺らの人生はもうあと半分しかない同然なんだ」
「嫌なこと言うなよ」
夢亜はビールが余計苦くなったと言わんばかりに顔を歪めてそれを飲んだ。春一は鼻で笑って、やはり同じように飲む。この居酒屋は全個室になっていて、掘り炬燵式になっているため寛いで飲める。そのせいか、酒がどんどん進む。これが店側の策略だろうか。ならば、それに乗るのもたまには悪くない。そう思ってしまえば、酒はどんどん美味くなる。二人は高校の頃に戻ったように馬鹿話をしながら、ジョッキを空けた。
「んで、話って何?」
二杯目として春一はジントニックを、夢亜はソルティードッグを傾けていた時。夢亜が本質である要件について切り出した。今日は、話があるから飲みに行こうという春一の誘いで集まったのだ。話をするなら喫茶店でもいいのではないかと思ったが、春一の口ぶりからすると、前日に飲み損ねたらしい。
「実はさ、妖怪から依頼が入ったんだ。飼ってた犬が誘拐されたから探してくれってな。それで、何か情報がないかと思ってさ」
夢亜は一瞬だけ考える素振りを見せて、すぐに口を開いた。
「最近、ペットを誘拐する事件が結構多いんだ。そいつの仕業かな。しかも、その犯人は妖怪ときた」
「マジか」
「尤も、まさか自分が同じ妖怪のところから誘拐したとは思ってないだろうが」
「まぁ、種族が違えば世界が違うからな。…その犯人、どこにいるかわかるか?」
「その妖怪が拠点としているのは、数珠灘の小さな港にある倉庫だ。数珠灘から様々なルートを経て、ペットを海外に飛ばしてる。…実は、枢要院からお前に依頼が来たとこだ。その妖怪を捕まえてくれってな。今日会ったら伝えようと思ってたが、まさかお前から持ち出されるとは思わなかった」
春一は頷いて、大きなため息を吐いた。やることは決まった。後は、決着をつけるだけ。
「サンキュー、夢亜。ここは奢るぜ」
「さっすがハル」