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春一は、早速佐伊達が住むアパートへと足を向けた。夏の日差しがじりじりと体力を奪う。
「お邪魔します」
春一が部屋のドアを開けると、小さい影がこちらに走り寄ってきて彼の腰に抱き着いた。
「福良」
「ハル兄ぃ~!」
福良は春一に抱き着くと、そのまま大きな声で泣き出した。可愛がっていた犬が連れ去られたことがよほどショックでさっきから泣いていたのだろう。目は既に腫れていた。
「ハル兄…っ!いなくなっちゃったよぉ…」
「よしよし、辛かったな、福良。けど、もう大丈夫だ」
春一はしゃがんで、福良の視線の高さに自分の視線を合わせた。福良の頭に手を載せて、優しく撫ぜる。
「俺が、連れ戻してやる」
「…本当?」
「俺ってこういう時に嘘つく人だっけ?」
「ううん」
「じゃ、信じな」
「うん!」
福良の顔がぱっと明るくなる。春一はもう一度頭を撫ぜて、福良と一緒に家の中へ入った。
「その柴犬ってのは、なんて名前なんだ?」
「オスとメス、一匹ずつなんですけど、オスが晴太でメスが晴羅です」
その名前を書きとめながら、春一は次なる質問を投げかける。
「誰か見た人いないの?連れ去られる所とか、犯人っぽい奴とか」
「います。俺が独自に調べた結果ですけど…」
「うん、言って」
佐伊は目を閉じて、その特徴を思い出すように一つひとつ確かめながら言った。
「狐目で、やせ型。長身。男だったみたいです。リードを鋏で切って、そのまま連れて行ったみたいですね。その人が警察に通報してくれたんですけど、警察はあんまり相手にしてくれなくて…」
「連れ去られたのって福良が帰ってくるどのくらい前?」
「ほんの十分前くらいです。福良が帰ってきてすぐ警察が来たくらいですから」
「成程ね…」
春一はペンを顎にコツコツと当ててメモを見た。この特徴にあてはまる人物が、二匹の犬を連れ去った。目的も意図もわからないが、とにかく今はこの人物を探し当てるほかない。
「わかった。俺は俺で当たってみるよ。佐伊達も、新しい情報入ったら教えてくれ」
「わかりました。ありがとうございます、春一さん」
「困った時はお互い様、ってね」
春一は優しく笑って、福良の頭を撫でてから立ち上がった。