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TRUMPⅤ  作者: 四季 華
第3章
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「春一君、少し歩かないかい?」

「オイオイ、俺は男とデートする趣味はねぇよ」

「ちょっと話すだけさ」

 三十分の投影が終わり、二人は科学館を後にした。そのまま少し歩き、数珠公園へと入った。

「いやぁ、やっぱり外の空気はおいしいね」

「シャバは最高ってか?ふざけんな。お前はすぐに牢屋に逆戻りだよ」

「果たしてそうかな?」

「そうだよ」

 リアルは少し笑って、ベンチに腰かけた。春一は彼の目の前に立っている。

「それにしても、よく暗号を解いてくれたね」

「普通におかしいだろ。十五時に星が美しい夜の下で会うのは日本じゃ不可能だ。だが、それが自然のものではなく、人工的に作られたものならどうか。俺も科学館のプラネタリウム好きでな。すぐに思いついたよ。それに、6日の15時って繰り返すから、これが席番だと思った。だからわざわざ6列15番の席を買ったんだ。そしたらお前がいた。案の定だ」

「さすがだよ。それに、爆弾も解除した。素晴らしいね」

「でもさぁ、少しおかしくねーか?」

「何がだい?」

 リアルの顔が若干楽しそうに歪められたのを、春一は見逃さなかった。そして、確信する。

「やっぱりな。変だと思ったんだよ。こんな暗号なんて作って、まるで俺を試してるようだ。俺が邪魔ならさっさと消せばいい。お前ならやりようはいくらでもあるだろう。それなのに、俺を生かして俺を測量した。…俺を仲間に入れようって魂胆なんだろ?」

 するとリアルは満面の笑みを顔に張り付けて、手を叩いた。一人だけの拍手が公園内に響く。まだ夕方だというのに、公園には誰もいない。この奇妙な静寂が居心地を悪くする。

「最高だよ、春一君。まさしくその通り」

 拍手をやめると、リアルは春一を見上げながら笑顔で語りだした。

「春一君、君は奇異な存在だ。人間にして妖怪のことを知り尽くしている。最初は僕も疎ましいと思ったさ。自分の家の中に泥棒の侵入を許してるみたいでね。けど、僕は考えを改めたんだ。…いっそのこと、泥棒を招こうと考えたわけさ」

「そんでその泥棒を使って他の家に盗みに行かせようと?」

「それは人聞きが悪いなぁ。僕は君と仲間になりたいだけなんだ。君が仲間になってくれれば、コバルトの夢の実現に一歩近づく。一緒に世界を作り変えようよ」

 手を差し伸べるリアル。しかし、春一は両手をポケットに突っ込んだまま、それを一笑に付した。

「バッカじゃねーの」

 その言い草に、リアルは若干顔を顰めて手を引っ込める。鼻で笑った春一が、リアルを見下ろしながら冷たい目を彼に向ける。

「答えはノーだね。ノン、ナイン、フワッグ、ハユル、ナォン、エイ…まだ言う?」

「…決意は変わらないのかい?」

「さぁね。人間の決意なんてころころ変わるもんだから。けど、今の決意を言わせてもらうと、お前の仲間なんて願い下げだ」

「そうかい…。でもね、春一君。僕は今すぐ君に仲間になってほしいんだ。君の心変わりを待っている余裕はないんだよ」

「じゃあ諦めるんだね」

「残念ながら僕は諦めが悪い」

「ならどうする?」

「実力行使、ってのはどうかな?」

「お前、自分は非力だと前に言ってたよな?」

「確かに僕は腕力も筋力も膂力もない。だけどね、武器に頼ることはできるんだよ」

 そして、リアルは懐に手を入れた。それを見た春一がその手を押さえようとした時には既に、リアルは銃を抜き放っていた。照準は春一の眉間にピタリと合わせられている。

「デザートイーグルか。殺傷力抜群じゃねぇか」

 春一は両手を挙げながら冷笑を浮かべていた。それを見てリアルは春一よりも顔を歪める。

「もう一度聞くよ。僕の仲間になるかい?」

「何度だって言ってやる。なるわけねーだろボケ」

「…残念だ。春一君」

「何?」

「暗号文に書いたよね。『パーティーをしよう』と。これが、パーティー開始の合図だ」

 そしてリアルは顔から笑みを消し去った。引き金にかかる人差し指に力が加えられ、そして―


バァン


 重く乾いた音が公園内に木霊した。



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