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「春一君、少し歩かないかい?」
「オイオイ、俺は男とデートする趣味はねぇよ」
「ちょっと話すだけさ」
三十分の投影が終わり、二人は科学館を後にした。そのまま少し歩き、数珠公園へと入った。
「いやぁ、やっぱり外の空気はおいしいね」
「シャバは最高ってか?ふざけんな。お前はすぐに牢屋に逆戻りだよ」
「果たしてそうかな?」
「そうだよ」
リアルは少し笑って、ベンチに腰かけた。春一は彼の目の前に立っている。
「それにしても、よく暗号を解いてくれたね」
「普通におかしいだろ。十五時に星が美しい夜の下で会うのは日本じゃ不可能だ。だが、それが自然のものではなく、人工的に作られたものならどうか。俺も科学館のプラネタリウム好きでな。すぐに思いついたよ。それに、6日の15時って繰り返すから、これが席番だと思った。だからわざわざ6列15番の席を買ったんだ。そしたらお前がいた。案の定だ」
「さすがだよ。それに、爆弾も解除した。素晴らしいね」
「でもさぁ、少しおかしくねーか?」
「何がだい?」
リアルの顔が若干楽しそうに歪められたのを、春一は見逃さなかった。そして、確信する。
「やっぱりな。変だと思ったんだよ。こんな暗号なんて作って、まるで俺を試してるようだ。俺が邪魔ならさっさと消せばいい。お前ならやりようはいくらでもあるだろう。それなのに、俺を生かして俺を測量した。…俺を仲間に入れようって魂胆なんだろ?」
するとリアルは満面の笑みを顔に張り付けて、手を叩いた。一人だけの拍手が公園内に響く。まだ夕方だというのに、公園には誰もいない。この奇妙な静寂が居心地を悪くする。
「最高だよ、春一君。まさしくその通り」
拍手をやめると、リアルは春一を見上げながら笑顔で語りだした。
「春一君、君は奇異な存在だ。人間にして妖怪のことを知り尽くしている。最初は僕も疎ましいと思ったさ。自分の家の中に泥棒の侵入を許してるみたいでね。けど、僕は考えを改めたんだ。…いっそのこと、泥棒を招こうと考えたわけさ」
「そんでその泥棒を使って他の家に盗みに行かせようと?」
「それは人聞きが悪いなぁ。僕は君と仲間になりたいだけなんだ。君が仲間になってくれれば、コバルトの夢の実現に一歩近づく。一緒に世界を作り変えようよ」
手を差し伸べるリアル。しかし、春一は両手をポケットに突っ込んだまま、それを一笑に付した。
「バッカじゃねーの」
その言い草に、リアルは若干顔を顰めて手を引っ込める。鼻で笑った春一が、リアルを見下ろしながら冷たい目を彼に向ける。
「答えはノーだね。ノン、ナイン、フワッグ、ハユル、ナォン、エイ…まだ言う?」
「…決意は変わらないのかい?」
「さぁね。人間の決意なんてころころ変わるもんだから。けど、今の決意を言わせてもらうと、お前の仲間なんて願い下げだ」
「そうかい…。でもね、春一君。僕は今すぐ君に仲間になってほしいんだ。君の心変わりを待っている余裕はないんだよ」
「じゃあ諦めるんだね」
「残念ながら僕は諦めが悪い」
「ならどうする?」
「実力行使、ってのはどうかな?」
「お前、自分は非力だと前に言ってたよな?」
「確かに僕は腕力も筋力も膂力もない。だけどね、武器に頼ることはできるんだよ」
そして、リアルは懐に手を入れた。それを見た春一がその手を押さえようとした時には既に、リアルは銃を抜き放っていた。照準は春一の眉間にピタリと合わせられている。
「デザートイーグルか。殺傷力抜群じゃねぇか」
春一は両手を挙げながら冷笑を浮かべていた。それを見てリアルは春一よりも顔を歪める。
「もう一度聞くよ。僕の仲間になるかい?」
「何度だって言ってやる。なるわけねーだろボケ」
「…残念だ。春一君」
「何?」
「暗号文に書いたよね。『パーティーをしよう』と。これが、パーティー開始の合図だ」
そしてリアルは顔から笑みを消し去った。引き金にかかる人差し指に力が加えられ、そして―
バァン
重く乾いた音が公園内に木霊した。




