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春一達が住む数珠市には、街の中心に様々な建物が並んでいる。ショッピングモールやホテルは勿論、美術館や市役所、更に楽器博物館という数珠市ならではのものもある。そんな中心街の端にあるのが、数珠市科学館だ。様々な科学を体験しながら見て回れるという施設で、時折催し物も開催される。小学生の校外学習のコースとして定番で、春一も子供の頃に何回か来たことがある。
「大人一枚ください」
春一は、ここ数珠市科学館にやってきた。昔を懐かしむためではない。目的は一つだ。
「よぉ、リアル。脱獄ご苦労さんだな」
彼の視線の先には、椅子に座ったリアルの姿があった。前に見た時となんら変わらない姿。特に外見的特徴はない、至って普通の出で立ち。つい最近まで枢要院に捕まり服役していたはずだが、その姿には一片の変化もない。前と同じく平々凡々で、奇々怪々。その外見とは百八十度異なり、内面は謎に満ちている。
コバルトという妖怪の犯罪組織を築いたリアルは、外見的特徴からはわからないカリスマ性がある。コバルトはリアルという頭首の逮捕で壊滅したわけではない。もともとコバルトの実態すらなかなか掴めていないのだ。そんな組織が、今頭首を取り戻した。そうしたら、水を得た魚のように動き回るに違いない。
コバルトの目的は一つ。妖怪世界を支配すること。一種の革命軍的な存在だ。そして、そのコバルトが注目しているのが、四季春一という一人の人間である。人間にして妖万屋。人間世界と妖怪世界を繋ぐ者。そんな特異な存在が、リアルの目を引いていた。
「春一君、会いたかったよ」
「俺は会いたくなかった」
「つれないね」
「単刀直入に聞くけど、俺に何の用?俺もね、そんなに暇な人間じゃないんだ。それなりに忙しい。だから、さっさと終わらせたい」
「まぁまぁ、そう急がないで。ほら、もうすぐ始まるよ」
リアルが天井を指差す。すると、場内が闇に包まれ、アナウンスが響いた。
「せっかくのプラネタリウムだ。楽しもうよ」
春一は溜息をついて、座席に座った。すると間もなくして、満天の星空が天井に映し出された。星々は星座を作り、係員が一つひとつ星座について説明していた。
数珠市科学館の目玉として、プラネタリウムがある。屋内にいながらにして、星空を眺めることができる装置。科学館が大人にも人気の理由だ。春一が横目でリアルを見ると、彼は恍惚とした表情で星空を眺めていた。この現在を、確かに楽しんでいる。自分は枢要院から追われ、今も脱獄をしてきたという現実を感じさせない態度だった。
(ここで喚いても無駄か…)
春一は小さく溜息をついて、天井を見上げた。美しすぎる星々が競うように光っていた。




