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「さてさて…どうしてやりますかねっと」
春一は爆弾の前に胡坐をかいて、頭を捻らせた。深夜零時を過ぎた静けさが耳に痛い。
「補色ってのは色を円で描いた時の正反対の色のことだよな。黄色の補色は確か紫だったはずだが…そうすると『足し算』ってヒントが意味わかんなくなるよな。チャンスは一度だし、安易に紫を切ってみるっていうのもできないよな」
そこまで考えて、思考が一時的に止まる。『補色』と『黄色』というヒントだけならばまだしも、『足し算』というヒントが引っ掛かる。勿論どこにも数式などはなく、ここに存在する数字と言えばデジタル時計だけだ。そしてそれは連続的に変化している。
「あと四十分か…」
このまま最後の一秒まで何も思い浮かばなかったら目を瞑って適当に切るというのもアリかもしれないな、などと思いつつ、その前にできるだけのことはしてみようとも思う。
「俺がリアルだったらどうする…?普通のヒントなんて書かないはずだ。少し捻って書くだろうな。ということは、このヒントも鵜呑みにはできないってことか。じゃあ、どうする…」
自問自答を繰り返す。出た答えに更なる質問を投げかける。そうしていくことで、少しでも本当の答えに近づくと信じて。
「何で色の指定に足し算が入ってくる?美術と数学を一緒にする必要がどこにある?」
そこまで考えて、思考を少し戻した。『足し算』はあくまで『足し算』であって、『数学』ではない。何かを足すことが大事なのだ。では、何を足すのか。
「何を足す?ここにある数字なんてデジタル時計だけじゃないか…」
そしてそのデジタル時計は常に変化をしている。時を刻んでいるのだから。これでは足しようがない。
「待てよ…」
そこで春一の脳裏に閃いた。足せるものは、何も数字だけとは限らない。そう、色だ。絵の具で紫を作りたかったら、青と赤を混ぜればいい。ピンクを作りたかったら赤に白を足せばいい。
「黄色は…黄色は、絵の具で何を混ぜれば…いや、黄色は三原色だから作れない。となると、黄色の補色の紫は?赤と青を混ぜれば…。いや、ダメだ。青いコードはない。じゃあ、一体何を足せば…」
時間が刻一刻と過ぎていく。同じようなことを考えては同じ理由で考えが却下される。そんな脳内のやり取りを何回も繰り返し、頭を回転させる。
「あ…」
そして、高回転を続けていた頭脳がついに一つの道筋を導き出す。
「『足し算』っていうのは、言い換えれば『加法』だよな…。これ、前に授業でやった…」
春一の頭が今度は記憶の引き出しをひっくり返し始める。以前受けた講義で、引っかかるものがあったのだ。
「そうだ、テレビなんかはこれを使ってんだよな。そう、加法混色だ!」
今、一本の糸がつながった。加法混色。三原色を混色するごとに明度が明るくなっていく混色のことだ。テレビなどはこの原理を使っている。
「黄色…。黄色は、赤と緑を混色すれば作れるはずだ。そうだ、そして赤と緑は補色の関係にある。つながった…!」
ヒントをすべて満たす色、それは即ち赤と緑だ。補色の関係にあり、足し算、つまり加法混色で黄色を作る。赤と緑が、答えだ。
春一はハサミを手に取り、赤と緑のコードを切断した。
すると、ピーという音と共にデジタル時計の表示が全てゼロになり、液晶が消えた。爆発は、ない。
「冷や冷やさせやがって…」
春一は汗を拭って、爆弾を見下ろした。よく見ると、機械の一部が外れて、そこから一枚の紙が覗いている。春一は慎重にその紙を取り出した。するとそこには、カードに書いてあったのと同じ筆跡で、リアルからのメッセージが書かれていた。
『嬉しいよ春一君。ここまで来てくれて。最後は僕と一緒にパーティーをしよう。6日の15時に、星が美しい夜の下で会おう。忘れないようにね。6日の15時だ』




