2-7
2-7
「んだよ、何もねぇじゃねぇか」
春一は例の空き地にバイクを停めると、ヘルメットを脱ぎながら呟いた。誰かが待ち構えているのかとも思ったが、そんなことはなく、春一がポツリと立っているだけだ。
「まさか解読方法間違えたとか…」
そんな思いも脳裏によぎったが、それはすぐに解消された。空き地の隅に、箱が置いてあったからだ。どこにでも売っていそうなギフトボックスで、「for you」と書かれている。靴が入るくらいの大きさだ。
春一はその箱を開けてみた。そして、絶句した。
「おいおい…こんなプレゼントはいらねぇぞ」
デジタル時計の表示板に何本かの色がついたコード。それらが何やら大きな機械に取り付けられている。デジタル時計は刻々と時を刻んでいるが、不可解なのは時が減っていっていることだ。残りは五十八分ほど。つまりこれは、時限爆弾だ。
「マジかよ…」
春一は一介の大学生であり、勿論爆弾の解除方法など知らない。だが、これを解除しないというまでもなく爆発する。どの程度の威力を秘めているかは知らないが、恐らくここにいる春一はひとたまりもないだろう。
枢要院の長老どもに連絡をして警察の爆弾処理班を寄越してもらおうか、と考えたところで、それを思いとどまる。ここまで用意周到な犯人が、春一のことを監視していないとは思えない。怪しい行動を見せたら爆破される可能性だってある。寧ろその可能性の方が大きい。
春一は小さく舌打ちをした。箱の蓋を地面に置くと、そこであるものが目に留まった。それは一枚のカードと小型のハサミだった。蓋の内側にテープで留められている。
春一はテープを取って、カードを見た。するとそこには直筆の文字で以下の文が書かれていた。
『僕はいつも見ている。君がそこから動いて助けを求めればそれをすぐに爆破する。この爆弾を止める方法は一つ。コードを切って時計を止めること。ヒントは(1)補色(2)黄色(3)足し算、以上だ。健闘を祈るよ Real』
署名は筆記体で本人のものらしかった。カードの前半部分は春一に対する忠告。そして後半は爆弾の解除方法だ。ハサミの方は何の変哲もない安物のハサミで、どうやらコードを切る時に使うものらしかった。
春一は爆弾をもう一度よく見てみた。真ん中にデジタル時計のパネルがあり、それは一秒一秒、残り時間を削っていく。そこから伸びるコードは全部で四本。赤と緑、そして黄色と紫。このどれかのコードを切って爆弾を止めない限り、春一に明日はやって来ない。
「全く、厄介だね」
春一は溜息をついて、シャツのボタンを一つ開けた。




