披露会
講義、実習が終わり俺は3人で寮に戻ろうとしていた。
「ねぇ、このドランどうする」
レアリーが俺に聞いてきたが
「ドラン!? 」
俺は一瞬何だろうと思ったが、「ドランって名前つけたのか? 」あの金色ドラゴンだとわかった。
とりあえずしばらく様子見るしか無いよなと話してドランを見つめた。
「よし、とりあえずそいつは何かを説明してくれ! 」
そうライルが驚きながら割り込んできた。
俺は、かなり手短に秘密の部屋があってそこに居たと説明した。
その部屋に何があったと聞かれたが、説明するのが面倒だったので今度連れて行くと約束をすることで、その場はおさまった。
ドランはとりあえずレアリーが面倒見てくれると言う。優しい子だと改めて再認識した。
しかし三人で相談した結果、念のためドランには小さな姿で居てもらうことにした。
俺はお土産といい手に入れたアイテムを2人に手渡した。
正義の大剣を手渡したライルはやはり軽々扱ってみせる。
重くないかと聞くが、全然と応えむしろ軽く、しっくりくると言う。
そして、聖者のローブを羽織ったレアリーになんか変化あるかと聞いたが、特になしと返ってきた。
三人が寮に近づくと
「残念だったね」そうレアリーが俺に声をかけてる。
今度の披露会の対戦のことかと気づくと、寂しそうに仕方ないと俺は応えた。
一瞬三人とも黙っていたが、俺は「負けてやろうかと? 」聞くとライルがうるせぇと言い、俺の頭を殴ってくる。
上から目線が気に入らなかったみたいだ。
しかし三人に会話が戻り、ライルは俺を叩き切ると言い、レアリーは魔法以外取り柄の無いくせに生意気だと言ってきた。
それを見るドランも楽しそうだ。
この学校には、毎年学習の成果を確認するため、成績上位の6人が3対3に別れ対戦する。
場所はシュミレーション部屋だ。この部屋は特別で、校長の祖先が作ったと言われる魔法空間に移動できる。
部屋に入ると席が用意されている。
そこに座ると意識が魔法空間に行き、別世界を体験できる。
魔法空間内ではごく普通に、会話も出来れば痛みも感じる。
対戦はポイント制で10ポイント盗られるとその人は失格。
有効打で1ポイント、連携攻撃で2〜3ポイント一気に盗ることも出来る。
それと致命打というポイントもある。2〜10ポイントだ。
10ポイント盗られたり、強力な致命打を受け、倒れると席に居る自分に意識が戻ると言う感じだ。
向こうにいる間は、精神力をかなり消耗し、ダメージが多きすがると2、3日意識が回復しない時もある。
死なない分思いっきり戦えると言うわけだが、向こうにいる時は痛い。痛いのは嫌いだ。その他ルールは何でもありと言う感じだ。
この大会に3年連続勝利の掛かっているのは俺だけ。ライルは2年連続、レアリーは今年初選出。
先輩さしおいて出場して、勝っていることから俺の実力はかなりのものだ。
しかし今年は微妙になった。なぜなら、今年こそは、ライル、レアリー、俺がチームで勝とうと約束していたが、俺が秘密の部屋に居たこともあり、二人が対戦相手になってしまった。
俺は特別と言うことで、6人目に入るのが精一杯だ。
対戦相手は剣のライル、回復のレアリー、そして俺の後輩にあたるナナギだ。
ナナギは女性の魔法使い。もちろん魔法使いとして俺とほぼ互角だし、魔法使いの副リーダだ。手強いこと間違い無し。
でもこちらは忍者の修羅、弓のティカだ。
修羅は男だ。暗闇でも動け素早い。速さを利用しての攻撃力はかなりの戦力だ。
そして、ティカだ2年連続のパートナーだ。ライルと同じく二年連続の勝利が掛かっている。
この女性弓使いは魔法の矢を放つ。だから弾切れはしない。
本人の話だと普段魔法は使えないが、弓を使うと魔法を放つことが出来る。
回復の弓に、炎、氷の矢がメインだが昨年ピンチに立たされた時、俺が放ったライトニングを素手で掴んで弓から放つという攻撃を見せた。
器用であり、想像力もある。この攻撃は普段より貫通力を増し、相手の鎧を貫き前回は勝利をおさめることに成功した。
おそらく良い戦いは出来るだろうと思えた。
そして当日を迎えた。
教室には大きな画面が置かれ、俺達の様子が見られるようになっている。
この島の島長や偉いさん達も招待されている。
もちろん夜に行われ、校長も見ている。しかしペドロさんはいないようだ。
6人はシュミレーション室に向かう。
「ナナギ、始まったらすぐまいったって言ってね」
俺はそう声をかけるが、ナナギは全力で行きますと、全く緊張すること無く声を返す。
「ライル〜 ジュース奢ってやるから負けてくれ」
そういっては見るが、まじめにやらないと現実の世界でもぶっ殺すと返ってきた。
「レアリー、大好きだよ〜」
と言ったら、教室の方から地鳴りのようなブーイングが俺に浴びせられた。
レアリーはと言うともっと気の効いた所で言いなさいと返してくれた。
修羅とティカにも緊張の様子は無い。よくしゃべるのは俺だけかと思った。
「普段必要なことしかしゃべらないのに、今日は特別うるさい男ね」レアリーが俺に笑いながら言ってくる。
緊張して倒れそうだとおれは返し
そして真顔で
「3年連続勝ってみせる! 」
と言った瞬間6人の顔つきは変わり戦闘モードに入った。
席に座りそれぞれが魔法空間に意識が飛ばされた。今回は周囲を海で囲まれた孤島のようだ。
ゾイルの声が聞こえ対戦のルールが説明される。
その後対戦開始された。
6人は向かい合いそれぞれの間合いに移動してきた。
ライルを前にし、レアリー、ナナギと続く。魔法を放ってもおそらくライルの空間切りは魔法を消滅させてしまう。
こちらはほぼフラットの陣だ。
忍者は素早さはあるが防御には長けていない。本来なら2列目だろう。
それはティカにも言える。むしろ俺とティカは三列目と言うイメージだ。考えるだけでもバランスが悪く苦戦しそうだ。
行くぞと気合いを入れてライルが突っ込んできた。
牽制とばかりに俺はファイヤーを唱えライルを狙うが、正義の大剣で威力を増したライルはことごとく炎を消し去った。
「ライトニング頂戴!」
ティカが叫ぶ
俺は迷うこと無くライトニングをティカに向けて放つと、ティカは光速とまで呼ばれていたライトニングをキャッチし弓を構えた。
ライルが突進してくるがまだ打つ気配はない。そんなティカがライルを挑発した。
「逃げた方がいいんじゃないの? 」
ライルは、この攻撃はぶんが悪いと思ったのか前に進みながらも左右の動きを入れてきた。
しかし
「ヒット!!」
ライル、レアリー、ナナギにマイナスポイントが宣告されて。しかも連携の2ポイントだ。
矢が見えなかったのが言うまでもない。ティカはこの一年の成果で矢のスピードを増す技術を習得したのだ。
ライトニングのスピードは更に速くなっていた。
「ぼやっとしない! 」
そういうとティカは俺に矢を要求する。
そして矢を受け取り構えた。すぐには矢を放たずレアリーを挑発した。「レアリー、顔でも整形してあげようか? 」
そして矢が放たれた
「…… ん!? 」
矢が途中で消滅した。
俺は、ライルが空間を切って矢を消したかと思った。
しかしこのスピードは不可能に近い。何が起きたのかわからなかった。おそらく一人以外わからなかっただろう。
「マジックバリアです」
力強くナナギの口から言葉が発せられた。
魔法の壁を作って相手の魔法を無効化した。
そしてライルに思う存分戦えと。
その言葉にライルはとっておきを見せてやると言うと。
剣を構え修羅との間合いをつめた。そしてまだ距離がある所で思いっきり一振り!
その後どういう訳か、次の攻撃が完璧に修羅をとらえた。全く修羅は動けなかったようだ。
「ヒット! 」
攻撃は8ポイントの致命打と判定された。大打撃であった。
慌ててティカが回復の矢で回復させるが修羅のダメージが抜け切るには時間がかかりそうだ。
修羅はライルが一振りしたあと、全く動けなくなったと言う。二度受ける訳に行かずライルから俺たちは距離を置く。
そんな俺達を見てライルが種明かしをしてくれた。
一振り目で空間を切り、切られた空間が元に戻ろうとする。その間は付近の物は動けなくなると言うことだ。
俺は修羅のダメージを見て最後に一矢報いるかと声をかけた。
修羅の言葉はやらせてくれと力弱く返ってくる。
俺はポケットから小さくしていたローブを元に戻し着替え、両手を前に出し闇魔法を唱えた。
「ダークネス! 」
周囲は次第にやみに覆われあたりは見えないくらいになった。
これには画像の前の一同や俺以外の5人も驚いたようだ。
「修羅今だ! 」
そういうと修羅は動ける限りライル、レアリー、ナナギを攻撃した。
忍者は暗闇の中で自由に動けると言う能力があるからだ。
その後、おそらくライルが闇雲に振り回した剛剣がヒットしたのだろう。
周囲の闇が晴れ、対戦相手の3人が見えた。修羅はその場に居ない。
それは10ポイントもしくは致命打でこの空間から出たことになる。
状況がつかめないゾイルは、対戦を中断し、ライル達にどうなったかを聞いた。
ライル達は修羅に与えられた攻撃を正直にゾイルに話し、3人にはそれぞれ致命打の判定が与えられマイナス3ポイントが加算された。
これには一同納得だが、不思議だったのはレアリーが最後修羅に攻撃をしたことだ。
レアリーの攻撃は打撃の杖、魔法と言えば平均的な回復魔法とレベルの低い攻撃魔法。
有効打でも1ポイントで修羅が消えることは無いはず。レアリーは秘密と応えたが、本人もまだ半信半疑だ。
ゾイルが再開しようとしたが、校長と島長がそろってトイレと言ってなぜかしばらく待たされた。
そして再開し攻防が始まる。2対3の戦いは徐々に俺もティカもポイントを失って行く。
ドラゴンソウルを装備して近距離に強くするが、盾、剣と形の変わりは速いが使いこなせない。
ライルの攻撃を受けては、吹き飛ばされるままだった。
俺の攻撃はマジックバリアで防がれ、ライトニングを受け渡せばマジックバリア。まさに俺対策だった。
既に体力的に限界だった。
しかし
「ライトニング頂戴! 」
ティカのこの言葉は途切れることは無かった。
俺は考えながらの戦いで冷静さを失ったかと思ったが、ティカは、きつい口調で俺に悔しくないのかと言ってくる。
副リーダーにいいようにやられバタバタして逃げ回るだけかと。マジックバリアを破壊でき無いのは俺の魔力に問題があると。
そんな声がナナギに聞こえたのだろう。俺を目標に頑張ってきたと。その成果がこれで俺を超えてみせると。
それとナナギは
「アンティさんの力はこんな物ですか? 」
ナナギから見ても俺の姿は情けなかった。
その言葉がこの学校に入って一番を目指した俺を思い出させた。
「俺だって必死なんだよ! 」
そう言うとライトニングをティカに放った。
今までより鋭く輝き、そして真っすぐな矢が。
「あんたの気持ちは受け取ったよ! 」
そう言うと当たり前のごとく矢をキャッチし、ティカはナナギに向けて矢を放った。
いつもよりスローだったのか、時間が止まったのごとく矢はマジックバリアに突き刺さった。
そしてマジックバリアを通り抜け、ナナギの体を貫通した。ナナギは声も上げる間もなく消えて行った。
「ヒット! 」
致命打ですと響く。まるで昨年の再現だった。負けそうになったときティカに煽られ勝つ。
「俺、全然進歩してないな」そうつぶやく俺に、あと2人とティカは肩を叩いた。
今の所、ライル−5、レアリー−5、ティカ−7、俺−3と言った具合だ。ほぼ互角だった。
「ちょっと待ってください」ゾイルの声だった。
今の所互角の勝負だがこれからは、ライトニングの受け渡し攻撃を禁じてほしいとのことだ。
校長と島長がそうしないとそれで終わってつまらないと言ってきたようだ。
勝手なことだ。俺もティカもそう思ったが、その答えは学生の俺たちを「はい! 」と素直に返事をさせた。
そして再開されるが、圧倒的に不利になった俺たちは次の攻撃に戸惑っていた。
「よぉ、本当は使いたくなかったけどこの剣ってすごいんだぜ」
ライルはそう言うと俺たちから距離をとった。そうして剣を地面に突き刺し
「俺の闘気を受け止めてみろ! 」
そうライルが言った瞬間衝撃が俺たちを突き抜け、吹き飛ばされた。
俺自身が消え去った気分だった。
かろうじて動く体を起こし辺りを見渡すと、周囲は十字に荒れ地になり、ティカの存在は無かった。
致命打かと俺は思いライルの方に目をやった。
「聖なる十字架とはよく言ったもんだね」
そう言うと動こうとしない、ライルの後ろからぼろぼろのティカが弓を構えた。
別名グランドクロスと呼ばれ聖属性攻撃の最大奥義だ。
普通の剣なら闘気に負けて威力を発揮できないが、今回普通ではなく最大威力で攻撃を発揮した。
しかし十字の枠から外れていると致命打にならない。
闘気のコントロールは難しく、剣に闘気をすべてを吸い取られてしまうと戦闘不能になってしまう。
今のライルがその状態だ。
しかし雷がティカを直撃した。雷はあきらかに頭上からではなく、水平に放たれた。
俺でも雷雲を利用して、頭上からしか出来ないのに。
今回の雷は雷雲は全くなく、雷の発生要素は無い場所だ。
レアリーだ!
雷を使う者は神に力を授かり者と言われている。
しかしレアリーは使ってみせた。おそらく修羅もこの攻撃にやられた。
そして雷を使えたのは、あの聖者のローブで眠れる力を開放したからだ。俺はそう考えるしかなかった。
レアリーは無言で俺の方へ向く
ティカは消え残るは俺だけ。
そんな時だった。
「ドラゴンを纏う者よ我らを呼び出せ」そう頭に響いてきた。
俺は何者かと問うが
「爆発は両手を高く、水は水の中に手を入れ、雷は祈りを、地は手を地につけよ」そう言ってきた。
俺はこの場を切り抜けたい一心で、今はでかい花火でも上げたい気分だ。
そう言って、両手を上げると一体のドラゴンが頭の中に浮かび上がった。
そして轟音とともに大きなドラゴンが現れ、うなりを上げた。地面だけでなく空気すら爆発し辺り一面を爆発が包み込んだ。
俺は知識と歴史書に書かれていたこれが召還魔法だと思い、ふらふらしながら爆破がやみあたりが静まるのを待った。
だんだん辺りが見えるようになってきた。ライルの姿は見えない。
「レアリーは?」
「ここだよ」
レアリーはまだ周囲まだ晴れないうちに俺を見つけ側まで来ていた。
ダメージはあったようだが、聖者のローブがダメージを軽減した。
レアリーは自分たちはこの不思議な力を、平和の為に使おう。と静かに俺に言ってくる。
レアリーは俺やライル、そして自分の攻撃力におびえていた。
俺も辺りを見渡し、そうだなと応え地面に倒れ込んだ。
そして俺はシュミレーション室の席に座っていた。今年は負けてしまった。
俺はそう思ったがそれでもいいような気がした。
強くなりたいと考えている毎日は他の5人に間違いなく劣っていたような気がしたからだ。
そして今回の対戦を終えたことで、俺はまだまだ強くなれると。