総出撃
-第三装甲大隊司令部-
「写真を現像したところ、敵兵力は戦車2台と装輪戦車1台。あとは、火砲など数門確認できるが、それ程脅威ではないな。」
第三装甲大隊司令部要員全員が集まって会議をしている。俺は、そこに呼ばれて会議に混ざる。
「原からの報告で、敵戦車の中では一番反撃してきたこの五式中戦車が最大の脅威と考えて良いでしょう。」
写真が切り替わり、停車している五式中戦車が映し出される。俺の元友人が操り、我が部隊に最も損害を与えた戦車。
「これに対抗して、各方面からかき集めた戦車部隊が集結しました。T34を主力に、KV2、IS2などが外で待機しています。」
俺は、外に待機している戦車の数に圧倒されながらテントの中に入った。最初から、あれだけの数で一気に勝負をつければ良かったのだ。一度攻めたら、相手は対策を講じるのが当然なのだから。
「総司令部直轄部隊からの増援は?」
「いえ。一台も。」
撤退のときに援護してくれたT10は総司令部直轄の重戦車部隊の戦車だった。だから、俺はT10だけでも回してくれたんだと思った。しかし、現実には一台も回ってこない。
「では、一体どう叩けばいいんです?」
「数で圧倒せよ、だそうだ。」
まるっきり、ソ連の戦い方だった。
「整備と調節が終わったぞ。」
各性能を強化した、王虎号がダッチじいさんのガレージから出てくる。エンジンも、今までの独特な重低音から静かなエンジンに変わっている。
「静かになったな。王虎号の心臓音は。」
俺は、出てきた王虎号の側面装甲を撫ぜながら言う。側面には、増加装甲として履帯を備えている。他にも、フックなども備えている。
「エンジンはGT101を改造して、燃費を解決したぞ。速度は58kmは出せる。戦後戦車並じゃ。」
エンジンを更に交換して、ガスタービンエンジンを搭載したようだ。相変わらず、中島にも驚かされるが、このじい様は更に上を行く。
「砲身は命数に近かったみたいだから変えといたぞ。88mm68口径じゃ。」
「殆ど、ティーガーⅡ並だな。」
「砲塔も少し改造した。電気モーターで回転するため、停車時でも難なく砲塔を回転させられるぞ。ついでに、砲弾も2割ほど多く積める様になっておる。」
俺は、少しずつ説明を受ける。そして、簡単な講義も受ける。聞くと、性能的には戦後第3世代にも対抗できるそうだ。まあ、あくまでも砲安定装置など補助装備だけだが。
「正面は複合装甲だが、それ以外は普通の均質圧延装甲だから。受けるときは正面向けよ。」
「分かってるよ、ダッチじいさん。」
そこへ、中島が帰ってくる。
「対戦車塹壕が掘り終わったって。暫く、私達もこの集落から出られないわ。」
対戦車塹壕を周りに掘っているため、下手に走ればそれに填ってしまう。だから、敵が来るまではここを動けないのだ。
「仕方が無いよ。」
俺は、そう中島に言っただけだった。
‐第三装甲大隊司令部-
「全車出撃。」
外に並べられていた戦車に、搭乗員が乗り込み、エンジンを暖め終わった。そして、全車が走り始める。
「こんな大部隊を動かすのは、俺が知る限りでは初めてだ。」
T34に乗る原は、戦車長ハッチを開けて身を出している。
「今度は、前回の様な76ではなく、85だ。この前のお返しをしてやるぞ、昴。」
大部隊が基地を出撃するのを、丘の上から見る陰があった。
「あ~あ。見張って1ヶ月程。大部隊の大遠征。」
横には、90式戦車が砂漠仕様の塗装で駐車している。
「しょうがねえな。エンジン始動、追跡するぞ。」
双眼鏡で監視していた戦車長が命じて、ハッチを閉じる。90式は、超心地旋回で回り、戦車隊を後方から追いかけていった。