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核戦争後の生業  作者: 橘花
集落編
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奇襲 後編

集落は炎上している。家は焼けている。砂でできている家も、油を撒かれて炎上している。


「敵は中戦車約40台。それが、数台規模で突進してきます!!。」


大和さんが指揮する装輪戦車やダッチじいさんのガレージに預けた王虎号事タイガー戦車で応戦している。戦えないものは集落を脱出したのだ。



「目標、右側面戦車。撃て!!。」


5式中戦車で到着した俺達は、砂の窪みに身を隠しながら、一発だけ側面を向けているT34に向かって発射した。そして、スコープを覗いていた俺は、命中して炎上するT34を確認した。


「命中。もう一発撃った後、陣地移動。」


俺はそう中島に指示をし、自動装填装置で装填されたのを確認して次の目標に狙いを定める。


「照準良し、撃て!!。」


発射ボタンを押し、砲弾が放たれたのを確認したと同時に、中島は陣地移動を始める。砂の上を何の苦も無く走れるのは、履帯戦車の良い点である。



「どうやら、昴達が助けに来たようだな。」


集落で防戦を行っていた大和さん達は、戦車の爆発を見て助けが来たことを感じ取った。


「俺たちも、負けていられないな。」


残った集落の家から、トーチカの様に居座って攻撃を続ける装輪戦車を動かし、陣地移動を始めた。




「敵の増援だと!?。」


現場で指揮を執っている原の元に情報が入った。


「はい。5式中戦車で、既に2台も破壊されました。」


無線手が、戦車長の原に現在入ってきている情報を伝える。


「エンジン始動、並びに残存全車に通達。集落攻撃を一時止め、増援の戦車を撃破せよ。」




「敵、一斉回頭。こっちへ向かってくるな。」


スコープで敵の動きを見ていた俺は、敵が進路を変えてこちらに向かってくるのが分かった。


「敵の指揮官は中々だ。直ぐに現れた増援を潰そうと兵力を全て差し向ける。増援を潰せば、士気の下がった集落に全兵力で突撃できるからな。」


俺はそう言いながら、砲弾を発射した。空の砲弾が落下し、自動的に車外に排出される。そして、次弾が装填された。


「もう、陣地に隠れなくてもいいんでしょう?」


中島が言ってくる。戦車の運転中なのに、余裕のある声だった。


「何十倍の戦車が向かってきているのに、声は余裕だな。」


「アンタの腕を信用しているからよ。」


戦車が砂漠の上を縦横無尽に走りながら、相手の戦車を次々に撃破していく。時には相手の車群に入って同士討ちを狙い、ある時は砂を掻き上げてその中から敵を狙い撃ったり。


「敵の数は減っているのに、何故引かない?」


敵は自分たちの車両が次々に破壊されたのに、未だに後退していない。


「これが、無法者の維持ってやつか?。」


一台だけ、車体が微妙に違う塗装が成されている車両が目に付いた。俺は、それが指揮官車と判断して


「発射!!。」


砲弾を放った。だが、敵からの砲弾が砲塔直撃。500m為にギリギリ貫通はしなかった。が、装甲が凹んだ。


「うわぁ。危なかった。」


もう少し右に逸れていたら、砲身内部を伝って内部に砲弾が届く所だった。砲口径の関係で、それはないが、それでも砲身に中れば修理は時間が掛かった。


「敵は離れていくぞ。」


指揮官車を破壊したことで、敵はようやく散って行った。中島は戦車を前進させ、炎上するT34から脱出してくる兵を追いかけた。


「あの背格好・・・見覚えがある。」


俺は、その中で背格好に見覚えのある人物だった。


「あいつを追ってくれ。」


中島にそう指示を出した。


「いいけど、彼は一体?」


「見覚えがある。」


中島は言われたとおりにしてくれた。逃げる男の目の前に車両を出し、砲身を向けて威嚇した。



「まさか、お前も生き残っているとはな。」


ハッチを開けて、身を出した俺には、目の前の男が信じられなかった。同じ高校に通っていた同級生、そして俺の友達だった男。


「昴か。そっちは学校サボってたから生き残ったんだろうけど。こっちは生き残るのに大変だったよ。式で体育館に居た奴は、俺以外全員が熱線で影を残して消えちまった。俺は運よくステージに居たから、熱線を浴びずに済んだけどな。」


原は怒りを込めて言う。


「何故怒っている?。生き残ったんだから、喜べよ。少なくとも、俺達は生きている。」


「生きている・・・だと?。こんな世界、生き残って何の意味がある!?。南の地域は放射線で汚染されていると聞く。貴重な水を争って、人はまるで原始時代の様に醜い戦いをする。もう、沢山だ!!。」


原は膝を付いて言う。


「大丈夫だ。必ず、復興する時が来る。失った文明は、また築けばいい。人が居る限り、文明が滅ぶ事なんて無いんだ。」


「誰が纏めるって言うんだ?今や、世界は原始時代も同然。纏められる人間なんて居ないんだよ。」


「人が、国家という集まり、概念を抱く以前から。集落を作って暮らしていた。人々はそこに集まり、発展し、そして次第に国家が形成されていった。そして、その国を纏めたのは他ならぬ人の信じる神であった。」


俺は、天を見ながら言う。空はやけに澄んでいて、綺麗な空である。


「この世界も、同じ状態になると思っている。今、世界中に集落が築かれている。生き残った者達のね。その者達が集まり、やがて国家を形成していくと信じている。巨大化した生物も、言ってみれば原始時代に人々が狩っていた生物。そう思えば、歴史は繰り返していると分かる筈だ。」


「・・・・俺はもっと早く、お前のその理想を聞けたら良かったと思うよ。」


「何!?」


その時、砲撃音が聞こえたかと思うと、それと同時に車体前方に砲弾が命中した。





「この距離じゃあ、装甲を貫通できないか。」


3kmの彼方から放たれた砲弾は、五式中戦車の正面装甲に命中。しかし、距離があるために弾かれた。


「まあ良い。これでエンジンは止まった。さっさと回収して、陣地まで後退するぞ。」


ka25が4機、編隊を組みながら砲撃を行ったT10の上空を通過していく。そして、脱出した兵の近くに降下して、回収する。



「何故、そいつ等に従うんだ?」


「俺は、こいつ等に救われた。そして、こいつ等の目指す理想に共感したんだ。お前はお前の理想があるように、俺には俺の理想がある。」


ヘリに乗りながら、原は言う。一体、彼は何の理想を掲げているのか


「お前の、理想とは何だ?」


「俺はこの崩壊した文明を、更に徹底的に潰す。そして、力による新しい秩序を目指す。世界が、統一された新秩序だ。」


「お前は、矛盾している。崩壊した文明を、何故更に破壊する必要がある?」


「世界が、一つの国主導で動いてはならないからだ。人種平等を謳いながら、世界での人種差別の現実は終わっていない。だから、国家という概念を超越した存在、世界国家を作る。云わば、地球を一つの国家とする。」


原はヘリに乗り込み、ドアを閉めた。


「お前の掲げる理想は間違ってる。力による統一は、更に強大な力による反発を招くだけだ。」


ヘリは上昇し、集落を離れって行った。俺の声が聞こえたかどうかは分からない。例え聞こえても、考えは変えないだろう。昔から、頑固な一面も持っているからだ。俺はハッチから車内に入る。


「追えるか?」


「無理ですね。エンジンが止まっちゃいましたので。エンジンが掛かったら、無理な負担をかけずにガレージに戻って調整しないと不味いです。」


だろうな。それに、例え追えてもヘリと戦車。速度で、勝ち目は無かった。


「仕方が無い。戻るか。」


戦車を反転させ、自分達のガレージに戻り始める。

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