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核戦争後の生業  作者: 橘花
集落編
4/16

予備戦車

依頼を終えた俺達は、とりあえず報酬の砂金5kgを貰った。


もはや、前世紀の金の価値など国家が消滅した時点で価値も消滅した。なので、新たにお金としての価値を見出したのが周辺地域では砂金だった。


砂金が、今では金の替わりとして取引されている。その為、報酬も砂金が一般的である。


「それで、砂の中に戦車が埋まってるって話。」


集落に戻ったときに住民に聞いた話、ここから東に150km程行った所に戦車の砲塔らしき物が突き出ていると言う話を耳にした。


現在、王虎号事タイガー戦車は整備を必要とした為、その間に使用できる戦車が欲しかった。燃料のストックはあるので、予備戦車としても必要であった。その為、夜に中島と相談する。


「そりゃあ、疲れている虎さんを休ませるって意味でも欲しいけど。どうやって持ってくるのよ?」


彼女の言う事も尤もである。俺は戦車の操縦が全く出来ない。だから、持って来ようにも出来なかった。


「タイガー戦車に、フックを付けて引っ張るのは?」


戦車には、故障した車両などを引っ張る為にフックが装備されている。しかし、使っているタイガー戦車はエンジンの消耗も激しく、とても運んでこれる調子ではない。


「疲れている虎さんを酷使するって言っても、これ以上負担かけたらエンジンが焼き付いて、修理に費用が掛かりすぎるのよ。」


報酬で貰った砂金と、元々持っていた砂金合わせても、生活に余裕があるとは言えない。だから、何とか費用を抑える意味でも無理な使用はやめたかった。


「やっぱり、大和さんにお願いするしかないわね。」


原生生物捕獲の護衛依頼時にも彼は若い人達のリーダーとしてセミトレーラーで指揮を執っていた。そのセミトレーラーと彼の人望を使えば運べない事もなかった。


「明日、頼みに行くしかないわね。」




翌日、朝一で彼らの集落に向かった。目的は、戦車の運搬である。俺が運転できれば、こんな苦労はしなかっただろうが、残念ながら時既に遅しだ。


それに、戦車を回収するのは予備の戦車が必要ってだけの理由ではない。その戦車が無法者達の手に渡れば、彼らの戦力が多少なりとも上がることになる。それだけは、阻止したかった。


「まあ、言いたい事は解る。こっちとしても、無法者の戦力アップだけは勘弁だからな。」


大和さんの自宅で会えた。彼も、一応はこの集落の若い者代表的な立場でもあるので、集落の安全に繋がる事は積極的に参加したいのだろう。


「しかし、現実に君達に護衛を依頼したときにモンスターに襲われただろ?。その時に同行していた者が何人か怖気づいたのでな。人数確保までは保障できん。」


コモリグモの襲撃には、若い者の間で相当なショックを与えたらしい。この集落に直接関係の無いが、流浪BDの戦車を破壊したのだから、恐怖をより一層持ってもおかしくない。俺だって、もしBDじゃ無ければ恐怖して、今後の同行を行ったか疑問だ。


「まあ、やるだけの人には当たってみるが、期待はしないでくれ。最悪は、俺一人がセミを運転して行く事になる。」


「すみません。本当に、無理を言ってしまって。」


俺は謝る。恐らく、大和さんは本当に人数が集まらなければ一人で運転して付いてくるのだろうと思ったからだ。




「新しい部品は入荷した?」


私は昴さんが大和さんと交渉している間、何でも屋のダッチじいさんの所に行った。本名不明で、ただ集落の人間にダッチとしか名乗っていない為に皆、彼の事をダッチじいさんと呼んでいる。私も、ダッチじいさんと主に呼んでいる。


「あいよ、お嬢ちゃん。愛車のタイガー戦車に積める様にその辺に落ちてたエンジンとかを切り詰めて組み上げといたぜ。出力は100馬力ほど上がっている。あとは、マフラーとかだな。」


ダッチじいさんはそう言って、奥から作業用のクレーンでエンジンを運んでくる。続いて、台車でマフラーも運んでくる。


「本当にダッチじいさんは凄いね。」


そう言って、私はエンジンを見る。確かに、タイガー戦車のエンジンルームに合うように大きさを調節している。並みの技師では、絶対に不可能な芸当だ。


「シリンダー一つとっても完璧に同じ大きさなんて、ダッチじいさんは凄いわね。」


「な~に、お嬢ちゃんも自分で90式を見て自動装填装置を組み上げるんだから大した腕じゃ。」


それを聞いて、私は照れる。昔は、機械弄りが好きで周りからは女の子として扱ってくれない日々が続いていた。だけど、今では純粋に技術を生かせて、それに褒められる。その点では、私はこの世界が好きである。


「今度タイガー戦車を持ってくるから、その時に積み込むね。マフラーと一緒に取っといて。」


「はいよ。じゃあ、取っとくね。」


そう言って、ダッチじいさんはまたエンジンとマフラーを奥に持っていく。私は礼を言って、待ち合わせの戦車の置いてある場所に向かった。




「どうだった?」


着くと、彼女は待っていた。俺は彼女の収穫を聞く。


「エンジンとマフラーを取っといて貰ったわ。これで、戦車の出力が上がって速度もより出せる様になる。で、そっちは?」


彼女は自分の収穫を説明した後、今度は俺に交渉の結果を聞いてくる。俺は、数回頭を掻いてから


「正直、絶対と言えない。一応、大和さんは出来る限りの人に当たると言ってくれたけど、前回の事があったし。集落の人間は怖気づいた人も多いらしい。」


恐怖が出ている以上、同行を強要する事はできない。もし強要したら、後々までこの集落と危険な関係を築く事になる。それだけは、俺も避けたい。


「兵器回収は我々(BD)の仕事でもあるし、彼らを巻き込むのは申し訳ないと思っているが、何分俺は運転できないってのが弱点なんだよな。」


測量が出来るから、砲撃は正確なのだが。その分、機械に対しての知識は殆ど無い。だから、戦車の運転など以ての外である。


「まあ、暫く待ってみるか。」




暫く待ち、ようやくセミトレーラーが到着した。同行するのは、大和さんも入れて5名。前回の原生生物捕獲時の13名に比べたら、人数が少ない。


「待たせたね。人数は少ないが、それでも俺が信用できる人間を集めた積もりだ。」


人数こそ少ないが、それでも砂漠での経験が多い人間を集めたらしい。まあ、今回は戦闘を目的として行くのではないから、別に5人でも足りる。


「ええ。これだけ入れば十分ですよ。」


俺は、一応断りを入れる。


「そうか、すまないな。じゃあ、戦車を積んでくれ。行きはその戦車をこいつで運ぶから。」


大和さんは、行きは王虎号をセミトレーラーに積み、帰りに目標の戦車を回収してタイガー戦車で燃料補給をしながら帰ってくる。その為、親切にもセミトレーラーに燃料タンクが積んである。


「お願いします。」


セミトレーラーから、スロープを降ろす。タイガー戦車をそれに乗せて、スロープを登って荷台に固定する。俺達も荷台に乗って、砂漠を走った。





「夕日か。日が落ち始めてるね。」


目標までもう少しという所に来て、日は既に傾き始めている。砂漠の砂が、綺麗な黄金色で光っている。今走っているのは、元太平洋の海の中である。その為、僅かな塩が残っており、それもキラキラと輝いている。


「夕日の進行か。どんどん夕日に離れていく感覚だな。」


車両は夕日とは逆方向に走っている。離れていくのは当然だと、言った俺自身思う。


「な~に、感傷に浸ってるのよ?」


中島が隣に来て、座る。夜になり始めているため、モンスターの活動は消極的になり始める。どういう訳か、モンスターの殆どは昼間活発に動き回り、夕方になると何処かへ。恐らくは自分の巣に戻って近づいた獲物以外殆ど襲わなくなる。例外なのは元々が夜行型の生物だけである。


「何か、昔の夕日を思い出してね。昔、両親との旅行で、海沿いのホテルに泊まったんだ。その時の事を思い出してね。・・・・・そう言えば、あの子は生きているだろうか?」


「あの子?」


中島が聞いてくる。普段、人のことを根掘り葉掘り詳しく聞きたがらないが、今回は珍しく聞いてきたので、俺は驚いた。


「いや、何と言うか。その・・・・、夕日の浜辺である女の子と出会ってね。」


俺は、夕日の方を見ながら言う。こんな昔の事を人に話すのは、初めてだった。


「その子は、綺麗な髪でね。いや、黒髪なんだけど。何と言うか、そこら辺の平均的日本人の黒髪と何かが違ってたんだよね。その、見る者全てを魅了するような。」


俺は、照れながら話す。


「その、顔も綺麗だったし。う~ん・・・・こんな事言うのは、君が初めてだな。その、初恋って奴?をしてしまってね。」


途中から、中島は驚いたような顔をしている。俺は、自分の初恋体験を聞いて驚いているのだと思った。


「驚かないでくれよ。・・・・その、こういう話は初めてなんだよ。あまり、モテる人じゃなかったしさあ。驚かれると、ちょっと悲しい。」


俺は、照れながら中島に言う。


「あ、うん。御免。本当に驚いたわ。」


俺はちょっと傷つく。中島は夕日に目を移した。


(そう言うと、中島もあの子と負けるも劣らない容姿と言えば容姿だよな。)


俺は彼女の方をもう一度向いて、そう思った。




「まさか、これが出てくるとは。」


砲塔を見つけて、掘り出すと、そこに埋まっていたのは5式中戦車であった。


「なるほど、輸送中に何らかの原因え海に落ちたのね。それで、ずっとここに埋まっていた。」


錆びている部分があったが、殆どが砂に埋まっていた為、錆びは砲塔部分しかなかった。しかし、驚いたのはまだある。


「こいつも、一緒に出土するとは。何で、こんな物も一緒に埋まってたの?」


5式中戦車を掘り出したのに、まだ砂に手応えがあったので引き続き掘ると、現れたのはSdkfz234/3であった。簡単に説明すると、ナチス・ドイツの装輪戦車である。


全くもって解らない。5式中戦車は理解できるが、何故太平洋方面に無関係なこいつまで出土するのか。


「恐らくは、研究用か何かの目的で日本が輸入してたんでしょ。それで、連合軍に接収された5式と一緒に運んでいる最中に同様の理由で海に落ちた。で、一緒に埋まった。」


中島はそう推察する。恐らく、そう考えるのが一番妥当だった。俺も、その答えしか行き着かない。


「まあ、何にせよ予定を変更だ。王虎号と5式はセミトレーラーで運ぶ。この装輪戦車に燃料を入れて、こいつに乗って戻るぞ。」


俺はそう中島に伝える。そっちの方が、燃料補給を一回で済ませれるので、早く着く。




燃料補給を済ませて、装輪戦車とセミトレーラーを並んで走らせている。中島が今までと勝手が違う装輪戦車に慣れるのはほんの僅かな時間しか割いていない。本人曰く、機械はどれも同じとの事。


「それにしても、一人向こうから乗ってくれれば良かったんだが。」


装輪戦車にも、俺と中島しか乗っていない。これでは、俺は主砲の装填と砲撃を一人で行わなければならない。


「仕方が無いでしょ。その代わり、向こうに見張りをお願いしたから。」


中島はそう言ってくる。装輪戦車のため、運転手は常に車内で運転していなければいけない。その為、従来の操縦手前方、砲手後方警戒が出来なくなってしまっている。だから、セミトレーラーに周辺に警戒をお願いした。


『こちら、後方警戒員。後方より、追跡中の車両あり。』


突然の無線に俺は驚く。しかし、直ぐにマイクを取って応えた。


「了解。そっちは重さで30km/hしか出ない。そっちは構わず走ってくれ。応戦は、こっちで行う。」


そうセミトレーラーに指示を出し、中島はハンドルを切って反転させた。


『すまない。無事を祈る。』


無線から、大和さんの声が聞こえてくる。しかし、今はそれ所ではなかった。向かってくるのはM3A3戦車。車体正面に赤い星、右側に102、左側に6019。間違いなく、担克博物館に飾られているM3軽戦車である。


「止まれ。」


俺は中島にそう命じる。もう、中島も慣れている為、どのタイミングで止めれば良いか解り始めている。言う前から、速度を落とし始めていたのだ。


「敵発砲。M3軽戦車を無法者と見なす。」


M3が発砲してきた。それに、俺たちは応射する。だが、やはりM3の前面を撃ち抜くことなどできなかった。


「やっぱ、正面50mmの厚さは伊達じゃないって訳か。」


M3戦車の正面装甲は50mmの厚さを持つ。短砲身の7.5cm砲じゃあ威力が少し不足している。


「後ろに回りこんでくれ。それしか、撃ち抜く方法は無い。」


徹甲弾を装填できないので、装甲目標を撃ち抜くには側面か後ろしかない。俺はより確実な後ろを狙うことにする。


「中島、後ろに全速力で回りこんでくれ。装輪戦車の機動力なら、それも可能な筈だ。」


「分かってるわよ。暫く揺れに我慢して。」


砂を巻き上げ、砂煙を起こさせる。それで、相手の視界を封じさせる計画だろう。俺は、いい考えだと思った。それに、不整地では装輪戦車が不利。なので、少しでも有利になるように行っているのだろう。


「整備された土地じゃないのよ。少しは私の腕を信じて、砲身を右90°俯角4°に向けてなさい。」


中島はそう言って、急発進させる。俺は、言われたとおり砲身を右90°俯角4°に向ける。そして、砂煙を抜けてM3が俺たちを視認したとき、俺たちもM3を視認する。そして中島はM3の側面で停車した。


「後ろじゃないのか?」


俺は、指示と違うのを戸惑った。しかし、照準は中島の指示通りだと覆帯に向いている。


「こんな奴を破壊する必要なんて無い。履帯を切って、さっさと逃げるわよ。」


中島はそう言ってきた。俺も、運転は彼女に任せている。彼女が生かすのを望んだのだ。俺も、それに従おう。


「発射。」


M3は信地旋回を行っており、丁度履帯カバーの間に着弾。履帯カバーは吹っ飛び、履帯は切れて脱落する。転輪も一部が破損した。


「逃げるわよ。履帯を切って、追って来れなくても。主砲を撃つ事ができるんだから。」


中島は急いで車体を反転させて、走らせた。もう、M3から発砲も無かった。

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