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この作品には 〔残酷描写〕が含まれています。

異世界召喚したら父親が飛んできたんだが

作者: 稲井田そう
掲載日:2026/02/16

 父親は異世界転生を書く小説家だった。


 嘘が大嫌いだが物語で嘘をつくのは大好きな男だ。


 そんな父親の描く物語はこうだ。


 とある滅亡世界の魔王の元へ転生者が現れる。転生者はその世界の人間に味方せず、異国の知識を魔王に伝え、魔王や魔族が統治することで世界の平和を保とうとする。戦闘少なめ内政多め領地改革ベースのファンタジー。


 150万字に渡る大作ハッピーエンドは、ややウケし俺の養育費になった。


 しかし、軽くヒットしても精神は摩耗するのか、それとも作家は皆変わっているから教育も変わっているのか、父親は俺に対し、度々架空のキャラクターを引き合いに出した。


 父親は「かつての友人」と前置きして話すが、物心がついてきて父親の小説を読むようになると、父親の息子に対する理想像、こうなってほしいという願望が完全に投影されているキャラクターが出てきた。


 それが父親の書く物語に登場する魔王である。


 魔王は比較的ドライだが情に厚く、色々悩むが結局のところ最後には行動に移し、常に大局を見据える。全体の為に犠牲になれる人間だ。そんな人間、現実にはいない。二次元の理想を生きてる息子に求めないでほしい。


 だというのに父親は秋になると必ず俺を海に連れて行って、友人というテイで魔王の話をした。「かつての友人はこうだった、お前にもそんな風に生きていってほしい」そういう話の繰り返し。俺より小説が大事だったのは確実だ。お前の名前の季節、コスモスが見頃だからなんて枕詞をつけるけど、コスモスも海も物語の中に登場する。


 なんでこんな話を長々しているかといえば、俺は父親の書いた物語の世界とよく似た異世界の魔王に転生したからだ。


 しかも、異世界から転移者──救世主ががやってくる前の段階で気付いた。物語では異世界からやってきた転移者によりどんどん状況が良くなっていく。つまり異世界から誰か転移してくるまでは散々たる状況なわけで。


 一応、父親の物語に沿った行動を取りつつ、改善できることは現代知識で改善していったが、それでもどうにもならない部分はあり、転移に頼ることになった。人さらいに他ならないが、最後は転移門を設置しこの世界と転移者の世界と繋げてウキウキ行き来が出来るようになるので、やむを得ない。


 そうして異世界召喚を試みたわけだが、現れたのは明らかに若い頃の父親だった。


 クーリングオフ出来ないのか試みたけど、魔王が死ぬ──つまりこの世界が救われるか、完全に滅ぶかしないと人間は帰れないらしい。ということで転移してきた父親は俺を早々に殺そうとしてきた。


 びっくりする。


 「息子の顔を見ずに死ねるか‼」と飛んできて家臣に押さえつけられていた。話を聞けば妻が妊娠中、ブラック企業で働いているところ転移したらしい。「俺は死にたくないんだよ」と言うがブラック企業勤務な時点で死のうとしてることに変わりはないしそのままでも十分死ぬだろという労務環境だった。


 物心ついた時点で、父親は小説家だった。ブラック企業勤務にも驚くし、「息子の顔を見ずに死ねるか」と、息子にそこまでの関心があることにも驚いた。


 一応、魔王軍は俺──現代感覚のある者の統治下なので、労務環境はホワイト以上、福利厚生しっかりなので相応にもてなしたが、まーあ隙あらば殺しにかかってくる。「息子が見たい」「これは誘拐だ」などなど。


 ただ、俺には魔力がある。俺を倒せるのは人間の勇者だけ。転移者に俺は殺せない。それを早々に理解したのか、対話が続くうち父親はこちらに協力するようになった。


 いわゆる領地改革みたいなことだ。父親の物語をもとに最善を尽くしていたつもりだったが、やっぱり本家大元には劣る。転移チートに加え主人公補正もあるのだろう。魔王軍はどんどん躍進した。


 しかし、戦いはどうにもならなかった。


 物語の戦闘描写はアッサリしていたが、現実はそうはいかない。魔力を持っていても、そもそも勇者には敵わない。敵わないから、転移者を呼んだのだ。逆転の一手として。


 戦の果ては、鮮やかなくらいよく見えた。魔王軍の敗北。それによる世界の統一。


 父親の描いた物語と異なる展開に、すべてを察した。


 父親は嘘をつかない。それでも魔王については、まるで見てきたかのように話をしていた。おそらく時間のねじれが起きている。


 父親は俺が生まれる前、魔王の俺の世界に転移した。


 何かあって現代に戻ってきて、魔王が救われる物語を書いた。俺はそれを読んでいた。つまり俺は父親の描いた物語に転生していたわけではなく、父親の居た世界に転生していた。


 父親の描いた魔王の物語は、そうなってほしかった希望の物語だった。


 ともすればこの後の結末は分かる。


 父親は秋になると必ず俺を海に連れて行った。「コスモスが咲く時期だから」と言っていた。現代では秋にコスモスが咲くが、この世界ではコスモスは春に咲く。コスモスは漢字で秋桜と書くので、なにか繋がりがあるのかなぁなんて思ったこともあった。


 この世界では、もうすぐ春が来る。近く、海の傍での決戦が控えている。


 魔王軍は滅び、世界は統一されていくだろう。


 父親は国を救うという神の任期を解かれ現代に戻るだろう。


 そして、こうあってほしかった物語を書いて、息子の俺に伝えるのだ。きっと魔王が俺であることなんて知らないまま。俺に生きていてほしかったと願う150万字の物語を書き続ける。


 魔王が幸せになる方法を模索していく。


 抗うすべはないのだろうし、下手に抗って父親が帰れなくなる未来も避けたい。だから俺は、静かに滅びの時を待つ。


 かつて疎んでいた150万字の物語に、希望を見ながら。


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