異世界転生させるためにトラックで毎日付け狙うのはやりすぎだが、人生は謳歌させてもらう
速水カケルが十七歳の誕生日を迎えた。彼の魂には、生まれ持った『殻』が存在したのだが、十七歳の誕生日を迎えた今日、ついにその殻が音を立てて割れた。
すると、まばゆい光が魂から溢れ出す。金色の魂。天界の神々が使う天界レーダーの針が軒並み振り切れ、天界にアラートが鳴り響く。
(最上級クラス!最上級クラスの魂を発見!繰り返す。最上級クラス!…)
天界は突如大混乱となった。
「……彼だ!彼こそが我が世界を救う勇者だ!間違いない!」
剣と魔法の世界を統べる神が叫べば、機械文明の女神も続く。
「あの子、あの輝き。絶対に私の世界に迎え入れたいわ。きっと何をやらせても世界を、考え得る最高の方向に導いてくれるはず」
そこへ獣人世界の神も身を乗り出してきて、邪魔立てをする。
「馬鹿を言うんじゃ無い。あいつはオレ様の物だ!お前らみたいな上品な輩には合わねぇよ!」
他の神々も続々と集まり、言い争いが終わる気配を見せない。で、神々は各々一つの結論に達した。
「話し合いじゃ埒があかない。じゃあ、どうする?先に魂を引き込んだ者が勝者だ!」
翌日の通学路、カケルの前に、不自然なほどピカピカに磨き上げられたトラックが現れた。時速80キロ。ブレーキを踏む気配はなく、カケルの方へ暴走。猛スピードで迫るトラックだが……。
「……ん?」
カケルは教科書を読みながら、一切視線をあげる事無くバックステップ。トラックをひらりと躱してしまった。トラックはガードレールに衝突し、運転席の神の使い(天使)が「ええい、避けられた!」と悔しそうにハンドルを叩く。
魂の覚醒は、カケルの反射神経を神の領域にまで引き上げ、身体能力もトップアスリート並の水準に引き上げていたのだ。
その後も、通学路の曲がり角、コンビニの駐車場、果ては学校の廊下(!?)にまで、神々はトラックを送り込んできた。
「いやいや、何で3階の廊下にトラックが走ってるんだよ……」
カケルは呆れながら、窓から飛び降りてトラックの突進を華麗に回避した。
「トラックだけでは生温い!他の神々に後れをとるわけにはゆかん!我が世界の精鋭を差し向けるぞ!」
業を煮やした神々は、地球に向けて異世界転移を開始し、エルフ、戦士、魔法使い、暗殺者、ロボ、獣人あらゆるリソースを使い、カケルを轢かんと全力を費やした。
魔法、弓、ミサイル、獣、暗殺術、果たして「ここは日本なのか?」と目を疑うような光景が日々目の前で繰り広げられたが、カケルは避け続けた。
そんな日々が続く中で、神々はある事に気付いた。
(あれぇ……カケル君の魂の光が弱くなってるようなぁ……)
神々は、緊急会議を招集した。議題は『カケルの魂の輝きについて』である。
「あなたたちやりすぎなのよ!私は彼が疲れているときは狙わないようにしているのよ!」
「そうだな!歴代最高の勇者だって、連戦続きの時は弱っていたのを思い出したぞ」
「そうは言ってもだなぁ、オレ様が手を休めたとして、その間にお前らが抜け駆けするに決まっている!信じられたものか!」
各人がそれぞれの言い分を伝え、内容を十二分に整理し、神々の間で一つの同盟が結ばれる事となった。後の歴史書にも記録される事になる歴史上初めての神々な同盟『カケル君の魂の輝き保持同盟』締結の瞬間である。
まず、神々はカケルの前に正式な代理人を送り、平身低頭で転生を依頼した。
「豪華な城と、美少女軍団と、不老不死を約束しよう。だからどうか、トラックに轢かれてはくれないか?」
カケルは冷ややかに答えた。
「あれだけトラックで追い回しておいて、良くそんな事がいえますね。断固拒否します」
交渉は決裂。そして、神々は自分たちで決めた過酷な制約を課す事とした。
・休日、祝日の接触禁止。(心身のリフレッシュを優先)
・授業、塾、仕事の時間帯は接触禁止(魂の研鑽を邪魔しない)
・午後5時から翌朝8時までの接触禁止(睡眠による回復を優先)
・公共物、民間施設の破壊は厳禁(カケルの罪悪感を煽るのは魂の質を下げるので禁止)
それから十年後。二十七歳になった速水カケルは、都内のIT企業で働く中堅社員になっていた。
「速水さん、お先に失礼します!」
「お疲れ様。……そろそろ5時か」
カケルがオフィルビルの自動ドアを出た瞬間、空気の質が変わった。歩道の脇、交通の邪魔にならない絶妙な場所に、ピカピカに磨き上げられた「異世界行き」の4tトラックが待機していた。
「よう、カケル。今日はいい仕事ができたみたいだな!魂の光が最高だぞ」
運転席から身を乗り出したのは、異世界から来たドワーフの戦士。今はガイドラインに基づき、定時後の『紳士的な暗殺』を担当している。
「今日は結婚記念日なんです。悪いですが、すぐに終わらせますよ」
カケルは鞄を握り直すと、猛然と脱すしてきたトラックに向かって真っ向から走り出した。
トラックとの距離が縮まると、遠くから魔法の詠唱の声。カケルが足下に視線を落とすと、路面がわずかに発行しているのを発見。発行位置を避けつつ、華麗なステップを踏み、トラックの寸前で跳躍。空中で身動きをとれなくなったタイミングを見計らい、左からは麻酔付の吹き矢、右からはしびれ薬付きの矢が飛んでくる。
鞄の中から出した折りたたみ傘(特殊仕様)を使い、足下を通過するトラックのわずかな引っかかり部分に持ち手を引っかけ、体勢を変えて矢を躱しきった。
「あいつ、また腕をあげたみたい」
「ちっ、今回はいけると思ったんだが……」
家に入れば、愛する妻と、自分によく似た瞳を持つ3歳の息子が駆け寄ってくる。
「パパ、おかえり!外にまたピカピカの車がいたよ!」
「あぁ、いつもの挨拶みたいなもんだな」
カケルは息子を抱き上げた。その時、息子の背中からも、淡い、しかし確かな黄金の光が漏れているのをカケルは見逃さなかった。天界では今頃、「次世代の転生者の争奪ルールの話し合い」が行われたりしているのであろうか。
夕食後、窓の外では、午後8時の「活動終了時刻」を告げる天界の鐘の音が鳴り響く。トラックはアイドリングを止め、静かに去って行く。
守るべき家族ができ、人生を謳歌すればする程、カケルの魂はますます輝きを増していく。それを「最高の獲物」と捉え、よだれを垂らしながら見守る神々。
「明日から休みだな。……明後日の朝8時まではゆっくり休めるな」
カケルは微笑み、家族と共に穏やかな時間を過ごす。
彼がこの世界の天寿を全うするのか、あるいは神々の執念が実るのか。 極上の魂を巡る、世界一礼儀正しくも過酷な戦いは、この先も続いていく。




