炎
むせかえるような熱気。
体が熱いのか、吹き上がる炎で空気が熱せられているのか。
意識が擦れ行く中、煙の匂いと鉄の匂いが鼻につく。
やけに耳に残るのは、下卑た男たちの声。
砂の上にあった煤と血で汚れた右の中指と薬指がピクリとかすかに動くのがわかった。
何があったんだ?
思い出そうとする前に、答えが出る前に意識が完全に途絶えた。
次に目を覚ましたのは、燃えるような熱さを全身に感じ、もだえ苦しんだ時だった。
うめき声を上げ、助けを求め体を動かそうとすると全身に針が刺さったような激痛が体を襲った。かすんだ視界、腕さえ少しも持ち上げられない。
「うわああああっーーー!!!」
喉からしぼり出た声さえも体に痛みを与え、数分の目覚めはそこで潰えた。
次に目を覚ましたのは、頬に風を感じ柔らかい日差しが瞼の上に降り注いだのが、わかったときだった。鉛のような重たい体を起こそうとすると、やはり体のそこらかしこに痛みを覚えた。しかも視界が半分になっているのに気が付いた。
なんだ?
包帯だらけの腕をゆっくりと上げて、自分の顔を確認する。
頭から顔半分に布が巻かれていた。
どうなっているんだ?
まさかっ!
目がっ!!
引きちぎるように包帯を外そうとすると、
「ばかめ。動くでないわ。」
しゃがれた男の声がした。声をしたほうに目を向けると、老いた白髪の年寄がいた。
「誰だ?」
「命の恩人に対して、そのような目を向けるな。無礼なやつめ。」
「命の恩人?」
「あらかた盗賊にでも狙われたんじゃろうて。生き残ったのはお前さんだけだ。」
盗賊?
俺は混乱しきった頭を振った。
思い出すのは、叫び、血の匂い、顔に走った痛み、逃げ惑う・・・・・。
アルナっ!!
「女、女はいなかったか?」
「さてな、おったようなおらんような・・。」
俺は痛みを我慢しながらも必死にで起き上がろうとした。が、無様にもベッドから転げ落ちるだけだった。爪を立て床に這いつくばった。
「何をしておる! 死にたいのか! お前は一週間ほど意識がなかったのだぞ!」
傍に来て、俺の体を起こそうとする老人の服を掴み、
「アルナをアルナを探しに行くっ。」
「お前の女か・・・。」
その質問に首を縦に振って肯定する。
老人はその言葉に、深いため息をついてから、
「わかった。おとなしくしておれ。わしが探してきてやろう。何か特徴はあるのか?」
「左手に指輪をしている。指の付け根から一関節ほどある指輪だ。文字が刻まれている。頼む。」
老人が戻ってきたのは、それから数時間後だった。俺の祈りも空しく老人がもたらした情報は、襲撃現場には、いくつかの死体と焼け焦げた荷馬車の残骸だけだった。遺体の中には、女の姿が全くなかった。それは盗賊団が女達を連れ去ったということを意味していた。
アルナ。
アルナッ!!
怒りで目がくらんだ。
傷の痛みと怒りで自分自身がどうにかなってしまいそうだった。
「ここ最近、暴れている奴らじゃな。酷いことをするものじゃ。」
盗賊団に捕まった女の扱いは酷い。奴隷として扱われたうえ、慰み者になり、そのまま捨てられるか、はたまた人買いに売られるか。どちらに転んでもアルナにとって苦痛でしかない。
一か月後、俺は体が動かせるようになると、老人に礼を言って、盗賊団の情報を仕入れるために町に向かった。俺はアルナを助けるために傭兵になった。時にはグループを組み、隊商の護衛をしながら各地の町を転々として盗賊の行方を追った。
一年後、片目の隼と呼ばれるまで強くなった。