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森と湖と砂漠  作者: まある
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対価

物には対価が必要で、身の丈に合わない望みには、どこかに亀裂が入る。それを実感したのは、ある望みを私が口にしたからです。不思議系が出てこないことは、何度かの願いで充分理解していました。それでも口にしたのは、ほんの出来心でした。本当に何も考えずに、気軽に言葉にしてしまいました。


私は悩み相談室に来たかのように「のぞみ君」に話しました。


「あの人たちを助けるためには、どうしてもオアシスが必要なの。なんとかならないかな?」



突然、バリバリッーと雷が落ちたかのような大音響とともに、ドッシーンと何かが落ち、大量の木の葉が舞い散りました。


バサッバサッーと一面の緑の嵐。

息もつけないほど降ってくる葉。


唖然とする中、音が静まったかと思えば、辺りは緑一色に染まった景色でした。

慌てて、望みの木を見れば、こんもりと茂っていた大木が、まるで片方の羽をもがれた鳥のように、片側の緑がちぎれ、三分一が消失していました。地面に散らばる木の葉が、一瞬、血に見えました。


「ごめん。ごめんなさい。本当に、本当にごめんなさい。」


自分勝手でした。自分は何の苦もなく、望めば何でも手に入ることに依存しすぎ甘えていました。


望みは次第に膨らみ、人を飲み込む。


嫌だ。私はなんて強欲になったのだろう。おごり高ぶった態度を取ってしまったのだろう。


「ごめん。本当にごめん。何も考えなしだったよね。いたかったよね。」


木を見上げて、ただ、ただ謝り続けました。自分の手で起こしてしまった出来事を償うには、どうしたらいいのでしょう。頭の中で考えました。謝るだけなら誰にでもできます。じゃあ、どうしたらいいんでしょうか?


私は幹に寄りそうように、体をもたれかけ座り込み、一面に広がる緑の海を眺めました。


なんて愚かな事をしてしまったんだろう。なぜ身に余る願いをしてしまったんだろう。


人の命を助けるために、何かを犠牲にしていいなんてことは、自分の行為を正当化させるための常套手段です。良くないことです。でもこれは所詮きれいごとなんです。人の命を助けるために、背負わなければならない私の罪。これからも私は、こうやって決断を迫られ、罪を認識し背負っていくことが増えるのでしょうか?


心がむちゃくちゃ痛いです。


この目の前に広がる景色を享受しなければいけません。


パパ、ママ。

お願い助けて。私に力をください。私に立ち上がる力をください。この現実を受け入れ、罪をあがなう力をください。


どれぐらいの時間を木の側で過ごしたのか分かりませんでした。ただ、陽がオレンジに染まり始める頃になって私は、のそりと起き上がりました。彼らが私を待っているのです。私は簡単な食事を作り、ジェライドとネルドに渡しました。そして明日は村に行かないことを伝えました。二人は、私の様子がおかしいことに気がついていました。何かを聞きたそうにしているネルドと静かに私を見ているジェライドの二人に、少しの言葉をかけ私は森に逃げ込みました。


彼らに何を言えばいい?

何を話せばいい?

私が求めた願いは、正しかったのかと彼らに尋ねればいい?

今は、話すことができない。自分が起こした行いを彼らの所為にしてしまう。


私は一晩、望みの木の下で座りこんでいました。ただ呆然と暗い森で一人過ごしました。





朝早く、私は果物を集め、水筒に水を入れ、食料庫にあったマカロニを彼らに渡し見送りました。

その後、望みの木の周りの葉をかき集めました。その葉の中に、キラリと光る棒を見つけました。


一mあるでしょうか? 細長い水色をした透明の棒です。

これがもしかして、オアシスを出現させるための道具なのでしょうか?

望みの木に、意思があるかどうかわかりません。痛みがあるかわかりません。でも身を削って出してくれた物です。


「ありがとう。あなたに心からお礼を言うよ。私の我が侭を聞いてくれてありがとう。彼らを助けるために、これを使わせてもらうね。そしていつか、貴方の力を借りずに生きて行けれるように努力をする。それまで、よろしくお願いします。」


私は非力です。それを自覚して、自らの手で体で頑張って行きます。彼らを救ってみせる。そして私自身も幸せになる。



私は急に砂漠を見たくなり、白い木の洞を潜りました。熱された空気が私を包み、ジリジリと焼けそうなほどの陽が体に突き刺さります。


「ハクア。」


ジェライドが私の目の前にいました。彼は無言で私を抱き寄せました。


「村に行かなかったの?」


「君の様子がおかしかったから、戻ってきた。」


彼のくぐもった声が私に伝わります。


「そう。」


「なにがあったか話してくれないの?」


「・・・・・。」


「わかった。ハクアが話してくれるまで待つ。でもいつか話してくれる?」


「ごめん。ごめんね。」


急にあふれ出る涙を止めることなんて、できませんでした。声を殺して泣く私をジェライドは背中をさすってくれました。


「僕達と出会ってから、君は泣いてばかりだね。ごめんよ。」


彼の胸の中で、首を振り無言で彼の言葉を否定しました。


「ハクア、案外君って頑固者だよね。」


おどけたように話すジェライド。


ありがとう。


私は、いつか貴方に全てを話せる日がくるんだろうか?

メリンダさんが出会い恋をしたジンムさんのように、私の心の内を曝け出すことができるのだろうか。全ては、シスタニタータが村として再生するまでの間、私は誰にも私自身のことも「望みの木」

のことも話すことはできない、そんな気がしました。





久しぶりの更新となりました。悩みつつ書いたので再び訂正するかもです。すいませんです。

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