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森と湖と砂漠  作者: まある
18/25

悲しみと懺悔の間

私は、ジェライドの元に戻りました。そして彼に、10人ほどの仲間が生きていたことを伝えました。


彼はゆっくりと体を起こして跪くと私の足にキスをしようとしました。私は、慌てて彼の行動を止めてから、彼の目を覗き込み、


<私、あなた、同じ、人間。 お礼、ありがとう。 跪く だめ。>


私は、彼の手を握り、


<私、ジェライド、友達 >


彼は、私と彼とを結ぶ手を不思議そうに眺めてから、顔を上げて微笑み、


<助け、ありがとう。>


紙を指差しました。そこでようやく私達は、笑い合いました。

私は明日再び、洞窟を訪れることを約束して、森と湖に帰りました。






家に着くなり、ボロボロととめどなく流れる涙を止める術などありませんでした。


私は、恵まれていました。遭難しても、家が見つかり、水があり、食べ物があります。望みの木を通して、生活になんの支障もなく生きていけます。私は、その上に胡坐をかいていました。今まで観光気分だった自分。自己嫌悪に陥りました。


でも今私が泣いているのか。

それは、彼らの身の上を同情しているからだけではありません。自分が恵まれていることに安心をしてしまったんです。あの人たちと私とは違うことに安堵したんです。そのみにくい心に気がついてしまった。


そして、人の死がいかに簡単に訪れるのか。生きている人たちの命が私の手に委ねられている責任の重さ。入り混じった気持が、私を混乱させ、制御できません。


私は、望みの木に向かって走り出しました。


これが私をここに連れてきた理由なの?

私は、彼らを助けるために、この世界に連れてこられたの?

そんな勝手が許されるの?

なぜ、私だったの?

なぜ私一人がこんな目に合わなくちゃいけないの?

答えなさいよ!

何か言いなさいよ!


私は望みの木に向かって、泣き叫びました。森の中には、私の声だけが響いていました。






私は、木に寄りかかり、ボーっと空を見上げました。

木の葉が風に揺らめき、太陽の光が葉を照らし、キラキラしてまぶしいです。


ここは、平和です。

静かです。


久しぶりに大泣きしました。


私の母は、病気で亡くなりました。

余命3ヶ月って、いきなりお医者さんに言われたそうです。私は、保育園の年長さんでした。病院から戻ってこない母を私は、泣いて待っていました。

そして、二度と母は家に戻ってこなかったです。

お見舞いをしに、病院に行くたびに、必死で一緒に家に帰ろうと泣いたのを覚えています。

亡くなる間際、小さな子供でも理解できたのか、母が遠くに行くとわかっていました。そうなると、今度は泣くに泣けなくて、必死で笑っていました。あの時以来ですかね。こんなに取り乱して泣くなんて・・・・。


泣いて、すっきりしました。





私は、2ヶ月ぶりに、どんな形であれ人に再会をし、会話をしました。

その出会いを無にするわけにはいきません。私は、この森と湖の世界に一人きり生きていくつもりはありません。元の世界に帰れなくても、人の中で暮らしていたいのです。


笑いあって、怒りあって、慰めあって。


私には、彼らを見捨てることなんてできやしません。できなければ、やることは決まっています。


彼らを救う。


その後の出来事は、わかりません。彼らを救うために、出来る限りのことをしてみましょう。


私は、行動を開始しました。





***********************************




ああ、これで終わりだ。結局、俺は首に巻きついている鎖を引きちぎることなどできなかったんだ。

先に意識を失い倒れたアルナの体を引き寄せ、俺は、延々と続く死の砂漠の上で意識を失った。


次に目を覚ましたのは、テントの中だった。俺達は、運よく旅の商人によって助けられた。


俺達は、助かったんだ。生き延びたんだ。

あの村の戒めから、解き放たれたんだ。俺とアルナは喜び合った。

隊商の人たちに、俺達がどこからやってきたのか、どうして行き倒れていたのかを話すと、リーダーらしき男が、


「そうか・・・。」


口ごもり、黙った。


誰もがその村の名を口に出すことを恐れる。耳に入るだけでも忌み嫌う。この土地では、それほど禁忌とされている。なぜそれほどまでに避けるのかは、誰もが知っている周知の事実だ。隊商の皆も俺達二人を哀れんだ目、さげすんだ目、憎しみの目、様々な視線を投げかけられた。

それでも俺達は、何とか頼み込んで、助けられた隊商で働くことになった。


俺は、荷運びとラダの世話をアルナは、食事の仕事を任せられた。

この年まで、村から一歩も出たことがない俺たちは、本当に何もしらない赤子も同然だった。

俺たちは、必死になって仕事を覚えた。村での生活は、あまりにも原始的すぎた。見るもの全てが目新しく、驚きの毎日だった。道具の使い方、文字、数の数え方、剣の使い方。水を飲むように、ありとあらゆるものを吸収していった。


俺とアルナは、隊商の一員として働き、各地を点々とする生活が始まった。

知らない町を訪れる度に、人の多さ、華やかさ、豊かさに驚く。村での生活が、いかに悲惨であったか、閉鎖的であったかがよくわかった。


なぜ奴らは、ああまでしてあの村にしがみついているのだろう。

馬鹿な奴らだ。そう心の中で、ののしり、蔑んだ。

が時が経つにつれ、忌まわしい村のことなど、きれいさっぱり忘れた。


俺たちには、ゆめがある。


仕事の休憩中に、アルナと二人で未来を語り合う。

二人でお金を貯めて、どこか平和な町で小さな店を開こう。俺とアルナの店だ。お前の腕の中には、俺たちの子供がいるんだ。家族で、支えあい、笑いあう、そんな時を一緒に過ごすんだ。


俺は持っていた指輪を彼女の指にはめて、将来を誓いあう。

俺たちは、着実に未来へ向かって歩き始めていた。




そう、あの出来事が起きるまでは・・・・・・。



************************************





泣くのは、自浄作用があるのですよ。

だから、思いっきり泣くのは良いことです。

「アレ買ってー。」の泣きには、当てはまりませんが。

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