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森と湖と砂漠  作者: まある
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畏怖との対決

薄暗い穴の中で、出会った男の人は、テレビで見たことがある、アフリカの難民の人たちにそっくりでした。

骨の浮き出た体、かさついた肌、くぼんだ瞳。まるでガイコツに皮をかぶせただけの人形。その骨格だけが人間であることを証明していました。


男の人は、すでに自力で動ける状態にないのか、地面に転がり、震える細い腕を私のほうに伸ばしてきました。その時の彼の表情は、よく理解できないものでした。私の後ろから太陽の光が漏れ、きっとまぶしかったのだと思います。目を細め恍惚とした、それでいてなぜか悲しい顔をしていました。


<・・・・・。>


なにか、か細い声が聞こえてきました。私は、その力のない声に我に返り、彼を助けるために行動を開始しました。

私は、リュックからペットボトルの水を取り出し、


<水。>


彼の体を抱き起こし、支えてペットボトルの飲み口を彼の口に当てると彼は、ものすごい勢いで飲み始めました。体全体が水分を欲しているようで、あっという間にペットボトルの水が、彼の体の中に吸収されていきます。


それにしてもなんて軽いんでしょう。これが本当に同じ人間なんでしょうか?

私よりも背が高いはずなのに、体重は私の三分の一もないんじゃないかな。私は、彼を壁に寄りかからせると、リュックから食べ物を取り出しました。自分用に用意したオニギリです。


<食べる。>


彼は無言で私の様子をこれ以上開くの無理じゃないかなというほど目を見開き、私とオニギリとの間を往復させていました。


ああ、お米を食べる習慣がないのかな?

私は、ほんの少しオニギリを口に入れ、咀嚼しました。そして、再び彼にオニギリを差し出し、


<食べる。>


そういったと同時に、私の手からオニギリを受け取り、ガツガツと勢いよく食べ始めました。指についた米一粒ずつ、手に残った塩気も舐め取っていました。食べきった後、彼は私を見て、何かを話しましたが、私は理解できませんでした。私の言葉は、所詮、紙の上のことで、実際、ヒアリングしているわけではないので、イントネーションが違ったのでしょう。メリンダさんの単語帳を広げて、


<わからない>


話すと、彼は私が見ていた紙を不思議そうに眺めました。そして、紙を見せろと言わんばかりに、私の腕を引き寄せました。紙を地面に広げると、ある単語に指を指しました。


<ありがとう。>


おおっ!

ようやく彼の話していた言葉を理解できました。そうか、この紙を利用すれば、彼と意思疎通ができます。


メリンダ師匠、ありがとうございます。貴方の努力が報われましたよ! それに乗っからせてもらう弟子の怠慢をお許しくださいませ。


私は、単語帳を利用して彼と情報交換をしました。


彼の名前は、ジェライド。19歳です。私が16歳なので、お兄さんですね。


ここからが、重要です。


彼以外に、この洞窟で暮らしている人間がいるそうです。最後に会ってから、随分日数が経っていて、生きているか

彼自身もわからないそうです。最低でも20人ほどは、いたそうです。でも井戸が枯れてから、皆、洞窟の中から出てこなくなったそうです。


水もなく

食べ物もなく


死を待つだけ?


どうして、なぜという疑問は置いといて、まずは生きている人を助けなくてはいけません。


私にできるのでしょうか?


< 人 助け 行く >


紙を指差して、彼に伝えるとジェライドはうなづきました。もし、まだ人がいるなら、残りの食料と水を彼に渡すわけにはいきません。私は、リュックを背負い、墓地といわれてもおかしくないほど、静まり返った岩だなを歩き始めました。



ここは、私が知っている世界とは違います。生命の溢れる緑、鳥のさえずり、水の音、人のざわめき。今、私が立っている場所には、それがないのです。色が全くありません。どこもかしこも砂の黄土色と岩の赤茶色だけ。命の息吹が全く感じないのです。途端に、この場にいること自体、うすら寒くなってきました。


岩穴の中だからか、外気の熱気は遮られています。それでも乾燥した空気、高い温度、暑さを感じるのに、ブルブル震える自分の体を止めることが出来ません。


嫌だ。

怖い。


そんな心を必死に押さえ込み、無理やり足を前に出します。


私は、それから目を覆いたくなるような光景を何度も目にしました。そう、人が死んでいる姿を見ました。


「うっ。」


口を押さえて、その場から逃げ出します。さっきは、女性でした。その前は、子供。その前は、老人。その前は・・・。


それでも彼らが生きているのか、確認をしなくてはいけません。近づいて、胸が上下しているのがわかると、ゴザの上に乗せて、移動をして生存している人だけを集めます。自分の帰りの飲み水だけを確保して、少しずつ、彼らに飲ませてドライフルーツや果物を分けました。自力で食べれない人は、噛み砕いた果物を口の中に少しずつ、入れました。


私は、無言で黙々と作業を続けました。しゃべる余裕や、笑う余裕なんてありませんでした。ただ、淡々と繰り返すだけでした。


食べ物や水が全員にいきわたったのを確認してから、全員に向かって、


<さようなら。くる。>


声をかけると、意識のある何人かが私に手を伸ばしてきました。その一人ひとりに、私は手を握り、


<あした くる。>


なんとか必死に笑顔を作り、話しかけました。


主人公の年齢がここに来て、ようやくでました。

高校生設定です。

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