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森と湖と砂漠  作者: まある
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神の使い

エンリトリオでの生活は、自分が想像していたよりも穏やかに過ぎていった。


ただ、皆が私を神の使いとして扱わなければの話だ。

あの神殿での儀式は、私が神から使わされた使者ということを信者にお披露目をしたのだった。それから、毎日、神殿の最上部の広場から一日三回、眼下に跪く人々に手を振っている。後は、祭壇に供え物をしたり、身を清めたりと生活のパターンは決まっていた。その中で余裕が生まれた私は、彼らの持つ知識を教えてもらい、言葉、文字を必死に覚えた。そして、ある程度言葉のやりとりが行われるようになると、私が神の使いではなく、イギリスから来た、ただの人間だと説得を始めた。が、彼らの宗教に対する盲目的な思いを間の当たりにするだけだった。


一介の人間が神の使いに昇格してしまうことは、私には大罪に思えて仕方なかった。そのストレスを晴らすため、森と湖の家に一週間ほど戻ったことがあった。が、私がイギリスに帰るためには、どうしても第三者の助けがいることを痛感し、エンリトリオに戻ると、姿を消したり現れたりすることが、さらに私の神秘性を増したようで、再会を果たした折に、「お姿をなぜお隠しになられた。」と皆に嘆かれ、ひどく疲れを感じた。


エンリトリオは、砂漠のほぼ真ん中に位置するオアシスである。

だからか、交易がとても盛んである。色々な物資が行きかい、人種も様々だった。それに加え、信者の来訪もある。

エンリトリオは、とてもにぎやかで豊かな町だった。私は、つたない言葉を駆使して町に下りて行っては、色々な人たちと交流を図った。私の護衛をしてくれている、ジンムとナビアはそのことをあまり、快く思っていなかったようだけれど。


神の使いとして生きていくなんて、私には無理。だって、なんの力もない。本当にただの人間なのだから。なんとかイギリスに帰らなくちゃ。大きな都市に行くには、砂漠を越えなくてはいけない。それには、砂漠を旅する商人、信者の手助けが必要。なんとかして私の味方になってくれないものかしら?


商人たちと話をしていく中で、この国の名、隣接している国の名を教えてもらったのだけれど、イタリア、スペイン、ロシア、トルコなどヨーロッパの国々の名称が出てこなかったのに驚いた。


おかしい。

ここはどこなのかしら?

アフリカ大陸のどこかの国でもないらしい。

誰か、私に教えて欲しい。

お願い。

私を助けてちょうだい。


私は、その頃から精神的に不安定になっていた。神の使いというストレスと故郷に帰れない現実に打ちひしがれていた。神殿で過ごす時間よりも森と湖の家に滞在する時間が増えた。かなりの期間を開けて、神殿に戻ったときに私を愕然とさせる出来事が起こっていた。神殿で私の身の回りの世話をしてくれていた女性がことごとく、処罰を受けていた。私の身を隠す原因を作ったことが罪とされて、処刑されていたのだ。


私は驚愕した。


どうなっているの!

どうしてそんなことをしたの!


私は叫んだ。


私はただの人間なの

あなたたちと同じなのよ。

なぜ罪もない人たちを罰したの!


皆を問い詰めたけれど、神官長も神官も皆、ゆるぎない信仰の象徴である私にひれ伏すばかりだった。


確かナビアの恋人は私の身の回りの世話をしていた女性の一人だったはず。

ああ、私は自分の勝手な行動で彼から、最愛の人を奪ってしまったのだ。確か神官をしている人の娘さんもいたはずだ。私は、彼女らの未来を途絶えさせてしまったのだ。


これは、私の罪なの?

私は望んで神の使いになったわけじゃないの。貴方達が勝手にしたてあげたんじゃない。他人に罪を擦り付けそうになる心を必死に押さえ込むと同時に沸き起こる深い罪悪感。私は彼らの視線に耐えることができなかった。


私は途方に暮れた。

一刻も早く、この場から逃げ出すことを考えた。が、次に森に帰れば、次は誰が犠牲になるの?

森に帰るに帰れず、私は神殿の中でひっそりと静かに神の代弁者として暮らすしかなかった。


新たに身の回りに世話をしてくれる女性達は、私を腫れ物のように扱った。私の不興を買えば、罰が待っている。

恐怖で支配された空間で、人は長いこと耐えることができるはずもなく、何人もの女性が入れ替わり立ち代りやってくるようになった。私は全ての人間を極力避けるようにした。これ以上の犠牲は嫌だった。


そんな中、私自身のことを心配してくれるのは、ジンムだけだった。悲しみに暮れ憔悴しきっていた私を慰めてくれた。私と彼の距離は次第に短くなり、彼は私のかけがえのない人間になった。


二人の恋は決して許されるものではないことは十分理解していた。


私は神の代弁者。


一人の人間だけに愛を注ぐこなど許されない。それでも私は、つかの間の幸せに酔った。森と湖の家、エンリトリオに来てから初めて、全てを話せる人。心から安心できる存在だった。このまま二人で、どこか遠くに逃げられたらどんなにいいだろう。でも何度試しても、あの神殿の奥から、森と湖の家に行けるのは私だけだった。


そんな中、この国、レモートラ国の王の来訪が神官長から告げられた。もし、王が私を神の使者と認めれば、二度とこの神殿、いや国から逃れることができなくなる。


私と彼は覚悟を決めて、この町から、国から逃げ出すことを決めた。

逃避行です。純愛ですねぇ。主人公出番ナッシング・・・。

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