表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
7/13

石を持ち村をでろ


「 ああ、あなたはこの『力石ちからいし』のはなしをご存じない。その石はさるお坊さまがじょうを突いたところから生まれ、水に苦しんだ村をすくったというはなしがございますよオ」



「坊さん?じゃあ、ちがうな」

 言ってしまってから、しまったとおもうがもうおそい。



「ああ、ここの『力石』は、そういうはなしではないのでございますなア?」



「いや、その、」



「まあ、ちがうはなしで伝わっておるところもございましょうヨオ。 ―― それよりも、」


 ずい、寄った男がネズミをおもわせる顔をよせ、くちもとに手をあてると声をひそめた。


「ここで村を出たほうがよオございましょおよオ。それとも、まだここにおりますのでエ?わたくしは、その『力石』をさがして集めているンでございますよオ。これがまた、あちらこちらに散っているふしぎな石でございましてねえエ。それを集めてほしがる、もの好きな金持ちに売り渡すのが仕事でございましてねエ。 ですが、―― どうもおまえさん、みたところ、この村を出たくってしかたがないって顔をしておいででしょうよオ。よろしいよろしい。わたしもあんたぐらいの歳のころに村をとびだしましてなア、こうしていまの仕事にありつけたわけでエ、気持ちはわかるんでしょうヨオ」



「そんなこと、」



「 井戸のありかをおしえてくれたら、そこに沈む『力石』をあんたにゆずってやろう 」



「・・・・おれに?」



「いやなにねエ、わたしも苦労してみつけた不思議な石を、かねをもらうとはいっても、いつも金持ちたちに簡単に買い上げられるのが、毎度なんだかくやしくってしょうがなくってねエ。だからさア、ここでみつけた『力石』をおまえさんに渡すことを思いついてエ、なんだか胸がはれたような気がいたしましてねエ」



「いや、おれアぜになんて持ってねえし、」



「いやいや、いらんいらん。わたしはねエ、おまえさんみたいな若いひとに、もっとひろい世をみてきてほしいよオ。だからといって、こんなわたしがおまえさんをどこかに紹介もできないでしょうよオ。 いちばんいいのはねエ、井戸から出した『力石』をおまえさんが見世物みせものにして渡り歩くのがいいよオねエ。こりゃア、客があつまるよオ。なんなら、高い金をはらってくれる客だけをあいてにするのもいいよねエ。いいかねエ、わたしがあいてにしてるような金持ちたちはきっと目にした『力石』をほしがって、高い金で買おうとするだろうがア、けっして売ったりしてはだめだよオ。見せるだけの商売をすればいいんだからようおオ」

 男は前につきだした首をゆするようにわらい、こちらの肩をつかんできた。

「 ―― ほかへ売ったりしないで、ずっとおまえさんが持つといい。 それだけ守れば、『力石』はずっと水を出し続ける。飯もくわない文句もいわない石のおかげで、おまえさんはずっと楽にくらしていける」



 男の真っ黒で小さな目がこちらの目をのぞいてくるのが嫌で目をぞむけようとしたのに、気づけば案内したおぼえもないのに、《隠し井戸》のある山に二人で立っていた。









評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ