表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
4/5

これから の さき



  男とむかいあったダイキチの目の端に、すい、っと黒い影がはいりこんだ。


 それはふすまのおもてにあらわれた、とんでいるさぎの黒い影で、音もなくまっすぐにふすまをわたり、むこうの柱へあたって正面のふすまへうつり、また柱にあたって、庭に面した障子に現れるかとおもったのに、そのまま消えた。




 ああ、と、


 息といっしょに男がだした声が、重りのように男の頭を下へ引く。


「 ―― あの鷺を見たのが先か?それとも、あのとき『跡継ぎ』のことをおしえてくれた子が、溜池で死んだのが先か?」


 垂れた頭をささえるように男は額を両の手でおさえる。



「『死んだ』?その子が、池に落ちたのでございますか?」



 ダイキチがきくとおさえた額をゆするようにふり、いやちがう、と動きをとめた。


「 ―― あれは、ちがう・・・あのころ流行りだした病で・・・。いや、あの夏に・・・あの夏に、せみが、・・・まるで、地面から蝉があふれるみたいで、どこの木の下にもそこらの草にも、蝉がぬけたカラがいくつもついて、あれは、あの多さはとても『ウツセミ』なんてよべるようなモンじゃあなく、山なんて蝉の『巣』になったようなさわぎで、そのうえあつくって、田んぼを手伝わないと飯を抜くなんてととさんがいいだしてかかさんまでが『これからさきも』ご先祖さんの大事な田を守っていかないとならんなどと・・・、 『これから』の『さき』も、おれはこの、田んぼにしばられたままか・・・・そう、おもったとき、その男がめのまえにおりました」






評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ