水はつながっているようで
ここでおわりです
「 ・・・水神さまとなって、空へゆかれたか・・・」
庭の木々の葉が揺れおさまり、池の蓮の震えもおさまったころに、いつまでも空をみているダイキチの横に『先生』が寄り添った。
「 ―― きっと、あのお人は、村をでてからはずっと、《力石》を拝んで、悔いていたのでございましょうねえ」
「ああ。そうしてようやく里にかえったら、もう村もなく、ただの荒れた地になっていて・・・《隠し井戸》の水がなくなったせいで、村がなくなったと思ったのかもしれないねエ。ずいぶんと昔のお人であるようだったから、ほんとうはきっと、ほかにも村が廃れたわけはあっただろうが・・・、それもこれも、ぜんぶ、《力石》を盗むのをてつだったおのれのせいだと・・・。 あのひとは親戚の子を殺めてはいなかったよ。そんなこどもはみえなかったけど、そうおもいこんでいたとしたら、川でおぼれたこどもを助けようとして溺れた死んだのは、わざとかもしれないね。 ―― ただそうすると、残した《力石》が気がかりでしかたない」
「ええ。残された石に閉じ込められた水神様も力が溜まり、あとすこしで石を割って出られそうなところだったのでございましょう」
「そこでここの《百物語会》のことをききつけて、『百物語』として語りにきたのか・・・。いやいやまさか。『先生』がどこかで水神さまに頼まれましたか?」
この屋敷でひらく《百物語会》が、そんなものを呼ぶものとは思えない。
だが『先生』は、にこりとして首をふった。
「ダイキチさん、『水』というものは、どうやらあちらこちらでつながっているようでございますよ。ここの《蓮池の水》も、抜けたものがこの先の川と合ってまたどこかの川とつながって、それを木や草が吸えば、またちがうところへもつながるというものでございましょう。おもいのほか、この《お屋敷》の《百物語会》、名が知れ渡っていると、このさきも覚悟したほうがようございましょうねえ」
『先生』のいつものころころとした笑い声をここちよく感じながら、ダイキチは懐にいれたままだった石をとりだしてみた。すっかり乾いた白い石が、手のうえでいきなり二つに割れた。その石の中は、なにか細工してくりぬいたように、丸い空洞になっている。
この石の中にとじこめられたミズチは、きょうまでずっと、ぐるぐるとまわりつづけていたのだろうか。
ダイキチは部屋の中にもどり、男がすわっていたあたりの畳をなでた。
水たまりどころか、しめってもいないそこへ割れた石を置き、むかいあって座ると石にむかって頭をさげた。
「 それでは、 ―― おはなしをひとつ、いただきました 」
ぼっつ
黒く太い燭台にのった蝋燭の火が、音をたてて消えた。
目をとめてくださったかた、おつきあいくださったかた、ありがとうございました!夏の企画に参加できまして、よかったです。。。。。




