石を受けとる
『先生』については、よろしければ『蓮池の 』をひろい読みしてください。。。
八、
むかいでずっと数珠をまわしていたダイキチが手をとめて、その水たまりの中に残った布へと手をのばす。
「 ・・・ああ、・・・、この石をわたくしどもに届けるために、ここへ《百物語》を語りにまいられたのでございましたか・・・。では、この《力石》、しかと受け取りましてございます。あとはどうぞ、おまかせくださりませ」
ダイキチは水にぬれた布をつかんで膝へとのせた。
ひらいた布の中には、ちろちろと水をこぼしつづける黒い石がある。
『先生』が、おとこの残した畳の水たまりへ手をつけ、それに気づいた影が肩をいからせた。
『 ほお、ひとではないとおもうていたが、おぬし、そうとう歳を経ておるのオ。すこしの神力も得ておるか。 だが、このわしと張り合おうなどとおもうなよ 』
『先生』は水に手をつけたまま、おかしそうにわらった。
ダイキチはまた脇から冷や汗がたれるのを感じながら、肝のすわった『先生』のようすに感じいるしかなかった。
この『先生』がおのれのことを《ヤオビクニ》だと称し、人魚の肉を食べたときから歳をとらなくなったというはなしは、きいたときから疑ったこともなかったが、こうして『疫病神』などという大物を相手にできるのをみれば、やはり《ひと》をこえているようだとあらためておもうしかない。
こちらなど、部屋に満ちた禍々しい気配に、冷や汗がとまらぬというのに。
「 『張り合おう』などとは考えてもおりませぬ。ただ、 ―― すこしばかり、《水》とはむかしからかかわりあいのある身の上でございましてねえ。 すこしばかりのことでございましたなら、このわたくしでも『力』になれるかと」
『 たわけたことを。そこな年寄り、その膝にある石を、《力石》として、こんどはおまえが見世物にして手元におけよ。断れば、おまえにも災いをふりかけようぞ 』
黒い影が三方のふすまをのっとるように影をひろげてみせた。




