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裏の《百物語会》 ― 隠し井戸のはなし ―  作者: ぽすしち


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疫病神



『 ええい、タヌキやムジナがここまでの災いをもちこめるわけがなかろうて。いいかよくきけ、わしは《疫病神やくびょうがみ》じゃ。疫病をはやらせていくつもの村をなくしてきたは、このわしじゃア。だがこのわしが力をだすには、まず《清く力のある水》をおいはらわねばならぬ。そこでな、まずは、めをつけた村に水をもたらす水神を、さきにどかすことにしたのだわ 』



「 『どかす』、とは、もしや、石にとじこめることでございますか? 」



『 おう、わかったか?わしもだてにながくあり続けておるわけではないからのオ。まあだ神になりきっておらぬミズチをつかまえ、石の中におしこめてしまうのがはやい。その石を《水が湧き出る石》と《名付けて》ひとにくれてやれば、ひとはそれをただ、《水が出る石》としてしか見なくなる。 ―― ひとにあがめられ、おそれられてこその神ぞ。とじこめられたミズチは《神》としての力をどんどんとなくしてゆき、最後は水もだせぬような、ただの石となる 』



 ふすまにうるつ黒い影がゆれながらこぼす耳障りなわらいごえが部屋にあふれ、ダイキチのむかいにいる男は耳をふさぎ身を縮めた。



 その笑い声にかぶせるように、女の高いわらいごえがひびきわたった


「 ああ、やはり。水神さまのやどる石が、『ただの石』になるとおもいこむとは、けもの浅知恵あさぢえあかしよ」




『 獣のものか。わしは、厄神ぞ 』



「 さて厄神とは、疱瘡ほうそう神とでも申されるか 」



『 そんな病のごときの神ではないぞ。すべての《わざわい》を引き連れて、病から天災までを操るのよ 』



「 はて、それにしては『力』もなく、この座敷の《ふすま》からさへ、出られぬほどにみえまするなあ 」



『 それは、そこなおとこが《力石》をみせものにするのをやめおいて、まいにちまいにち、石をいのりはじめたせいよ。石を神のようにあがめていのれば、中におる《ミズチ》もまた神として力をとりもどしてゆくわ。 だがな、そうなるまえに、またわしが先にまわって、この男に災いをふらせることにしたのよ。めのまえでこどもが川に落ちるようしむけてな。それを助けにとびこんだこの男の方が死ぬことになったわ 』



 ふすまにうつる影がまたゆれながらわらいごえをあげると、『先生』のよこで伏せる男を囲むように畳が色をかえはじめた。みればおとこから、じわじわと水が染み出しはじめ、丸まったおとこは着物のなかへかくれるように小さくなってゆく。

 染み出す水を吸った着物が色を変えシボをもたせた布のように縮れて小さくなってゆくと、畳にできた水たまりには、鼠色の布のかたまりが残るだけだった。









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