鬼じゃアなさそうだ
七、
ダイキチは、『先生』のひらたくしろい額に、くっきりとシワが刻まれるのをめにした。
カラスとされこうべが黒い影としてうつるふすまには、下の方からじわじわと、おおきな影がのびあがり、カラスと骨とをのみこんだ。
「 あ、あんた、あの、あの石は、」
その大きく広がる影にむかい、すがるようにおとこがといかける。
『 申し上げましたでしょうなア。水神だとねエ 』
こたえた影が、こんどはきゅうに細くなって、ひとのかたちのようになる。
だがその頭には、三本角の影がある。
「 そんな、そんな、」
おとこは力がぬけたようにまた伏せると、畳をかきむしるように泣き始めた。
「 こりゃ、鬼、 ―― じゃあ、なさそうだね」
『先生』と目をあわせたダイキチが、懐から水晶でできた数珠をとりだしてうなずく。
ふすまにうつる影がゆらゆらとゆれるようにして上へいったが、欄間にあたってそこでとまった。
『 ―― ・・・はて、ここからでられぬな、
ここはなんじゃ、そこにおるはどこのなにものじゃ 』
「 なのるのはそちらがお先。ここへ連れてこられたのもわからぬようでは、ただただ、としを経たタヌキかムジナでありましょうかねエ 」
部屋のすみに座ったままの先生が、嘲るようにふすまにうつる影にこたえる。
『 わしがタヌキかムジナであるわけなかろうがよオ。 連れてこられた?いいや、この男がわしを水神のところへと連れて行ったのじゃ。きいたじゃろオよ。この男はな、村の者が守っていた水神をぬすみだし、それを見世物にして儲けたのよオ 』
「 それを苦にして村にもどっておりましょうが 」
『 二年も三年もすぎた後よなア。このおとこに水神をぬすまれた村はそこから水にめぐまれずに、田畑は荒れてひとも病にたおれ、村にはなにもなくなった。すべてこの男のしわざによって起きたことよオ 』
「 さて、それはどうでございましょう。どうにもそのお方はたぶらかされ、片棒をかつがされたようにお見受けいたします。ああ、たぶらかすといえばやはり、オオダヌキでございましょうねエ 」
おかしそうに片手をふった『先生』が、すっと立ち上がり、畳にふして肩をふるわせる男の横に座りなおす。




