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裏の《百物語会》 ― 隠し井戸のはなし ―  作者: ぽすしち


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11/18

ミズチ


 たしかに、入れた石とはちがい色は黒いが、おなじようなかたちにみえる。


「そうだ、井戸は?」

 竹筒も取りはらわれたその岩の割れ目からは、まだ水があふれでていて、水が尽きていないことに安堵する。



 だが、男は、くすり、といやなわらいをもらした。


「まアだしばらくは、水も湧きましょうなア。なにしろ、《ミズチ》が棲もうとするようなところだアなア」


「『ミズチ』?」


 眉をよせたこちらへ、男が手にのせた石を、ずい、と出す。


「そうでうよオ。ほら、のぞいてごらんなさいなア」

 

 ゆびでしめす石のくぼみが、くぼみではなく、穴だというのに気づき、いわれるまま目を近づけた。



 石の中だというのに、ぼんやりと光ってみえる。その、ぼんやりとした光の中で、小さな細長いものが、狂ったようにぐるぐるとまわりつづけている。



「それがねエ、ここの『力石ちからいし』の正体でございますよオ。《ミズチ》ともうしましてねエ。大昔から水の力がつよい川や淵なんかにすみましてねエ、ほら、ひとをまるのみしたり、おそろしいものでございますよオ。それこそお坊さまに退治されたなんてはなしもございましてねエ、ですから、それと『力石』のはなしを合わせますと、お坊さまは《ミズチ》を石にとじこめて、その石を、水がなくてこまるところへ分けてやったのが、杖で刺して水を湧かせた、なんてはなしにかわったのでございましょうかねエ」



「こ、これが、井戸の水をだしてたってことか?」

 こんなちいさな虫のようなものが?



「まあ、《ミズチ》を《スイジン》とするところもありましょうからなア。みずにすむうえ、長いからだは蛇か龍かというところで・・・、なんにせよ、おそろしいモンでございますよオ」

 そういうと、こちらの手をつかんで石をおしつけた。


 見た目とはちがい、いやに軽い。


「それをかわいた盆にでものせておけば、なかの《ミズチ》が水をだす。つまりは、その『石』が水をだすのでございますよオ。さあさあ、それをもってはよウ村をでなされよオ。あんたはこの村の井戸をこわしちまった」


「お、おれじゃねえ!あんたが、」


「親類縁者は許してくれるかい?一族でずっと守ってきた井戸はなくなった」


「こ、この石をかえせば、」


「返せば祟るぞ!水にもどった《ミズチ》はちからをとりもどして、井戸をこわしたおまえを祟るだろうよオ」


「おれじゃねえ、」


「おまえが井戸のありかをおしえたのによオ」

 男はおかしそうにわらった。




 おしえた、のか?おれが?



「 おしえたさ  蝉のこえにつぶされそうでがまんがならぬとおもうたじゃろお? ここの田にしばられたままなのかとおもうて、田を、稲を、水を、憎くおもうたろお?

   

     まわりまわって 


         この村が 憎くてたまらんかったろお?   」










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