蝉
ホラー企画に参加したいがために書いた《雰囲気だけ時代小説》です。設定ゆるふわ。薄目でごらんください。。。 《雰囲気だけ 》シリーズにでるご隠居。ダイキチさんのお屋敷では、《百物語会》がひらかれます。。。。。が。
一、
蝉はどこへいった。
あれだけうるさいとおもっていた蝉のこえがきこえない。
目をやった山裾の木は、ほとんどが赤茶けている。
あしもとからその山すそまでひろがった田には、なにもない。
この時期にはもう、水をはったそこに、あおい稲がのびはじめていなければならないのに。
かわいてひびのいった土が、かたく、かたく、かたくなってひろがっているだけだ。
風もふかない。
陽はじりじりとすべてを焼くように照っている。
蝉だけでなく、虫も、鳥も、生きているモノの気配がない。
すべてが、かわいて、かわききっている。
膝のちからがぬけてすわりこんだ地面が、どうしようもなく熱い。
さわった土はうまくつかむことができない粉のようで、ほこりのようにまいあがるが、風もないので、まきあがることもない。
あぜ道さえ、あおい草もみあたらず、枯れた草をのこすだけだった。
「 こりゃ、あんたのせいでございますなア 」
「っ!?」
ふりかえったそこに、こずるそうな顔をした商人のようなみなりの男がいた。
「あ、あんた、あの、あの石は、」
「申し上げましたでしょうなア。水神だとねエ」
「そ、そんな、でも、」
「儲かりましたでしょうよオ?さぞや、たんまり、と」
にい、と横にのびた口が耳元までひらき、こちらをわらった。
「ち、・・・ちがう、」
「いや、ようございましょうヨオ。さあ、みていなさいよオ。ここからもっとひどくなるのを」
「い、いやだ、ちがう、こんな・・・」
こんなことになるなんて、・・・。
「 おれは、蝉がうるせえって、そう、おもっただけで・・・・」