穏やかな昼下がり
朝の騒動から数時間後。
畑はすっかり落ち着きを取り戻し、森の中にはいつもの穏やかな風が吹いていた。
「……というわけで、反省の意味も込めて、今日の昼はお前が作る番じゃ」
エハルオーが腕を組みながら言うと、ユリアはうなだれた。
「えぇー……わざとじゃなかったのに……。ていうか、なんでじゃがいも残すんですか……?」
「全部処理するのももったいなかろう。食える分は食うさ」
その言葉を流しながら見渡すと、畑の片隅に、見事に育ったじゃがいもがいくつも転がっている。
朝の暴走の名残だ。
「……これ、どうやって食べるつもりですか?」
「皮をむいて茹でるだけでもうまいが、せっかくだからじゃがいも料理を沢山作ろうか」
エハルオーが小屋の中から取り出したのは、鉄のフライパンや木べらなどの1式。
火の魔法でぱっと焚き火を起こすと、手際よく鍋を温めた。
「おぉ、なんか料理人っぽい!」
「わしは昔、旅の途中で料理も学んだのじゃ。魔法だけでは腹はふくれんからな」
エハルオーがにやりと笑い、ユリアに包丁を渡した。
「ではまず、じゃがいもを切るんじゃ。いちょう切りに。指を落とすなよ」
「ひ、人聞き悪いこと言わないでください!」
慣れない手つきでじゃがいもを切りながら、ユリアはふと笑ってしまう。
昨日まで薪を割っていた手が、今は包丁を握っている。
「……なんか、毎日いろんなことしてるなぁ」
「生きるとはそういうものじゃ。森の暮らしは、学びが多い」
じゃがいもが鍋の中でぱちぱちと音を奏でている。
揚げ物の良い匂いが小屋の中に広がった。
「うわぁ……いい匂い!」
「焦るなよ、じっくり火を通すんじゃ。急けば焦げる。魔法と同じじゃ」
その言葉に、ユリアは思わず口元をゆるめた。
今朝の暴走を思い出しながら、小さく頷く。
「……うん、待つのも大事だね」
しばらくして、鍋の中でこんがりきつね色がついたポテトフライが出来上がった。
表面はカリッと、中はほくほく。
他にもエハルオーはスープやサラダを作っていたようで、お腹が鳴り止まなかった。
数十分後。
「「できた!」」
皿に盛りつけて、二人で木のテーブルに向かう。
「いただきます」
一口食べた瞬間、ユリアの目がまんまるになった。
「おいしいっ! これ、本当に私が作ったの!?」
「うむ。魔法で生まれた芋を、自分の手で調理したんじゃ。立派な成果じゃよ」
ユリアはさらに、じゃがいもスープをすくい、ふんわり湯気を立てるサラダを混ぜ、余ったもので作ったカリカリのじゃがいもチップスにも手を伸ばした。
どれも香ばしく、ホクホクと食べ応え十分だった。
そのとき、窓の外からカサリと音がした。
振り向くと、森の木陰から小さな影がいくつも覗いている。
リス、ウサギ、小鳥たち……
どうやら、漂う香ばしい匂いに誘われて集まってきたらしい。
「……ふふ、みんなお腹すいてるのかな」
「みんな、料理の匂いにつられたのさ」
エハルオーが笑い、ユリアもつられて笑った。
森の昼下がり。
テーブルの上に並んだじゃがいも尽くしの料理と、優しい笑い声、そして小さな観客たちのきらきらした瞳が、穏やかな時間を彩っていた。




