地味だけど、初めての魔法
森の畑に、ユリアとエハルオーは並んでしゃがんでいた。
「ここに種イモを植える。芽が出る方向を上にして、土をかけるんじゃ」
「……地味だなぁ」
ユリアは腰を伸ばし、汗をぬぐった。昨日の薪割りで腕も脚も筋肉痛。そんな中また負担のかかる仕事をさせられる。
魔法で一瞬で終わるなら、その方がとてもいい。
「ねぇ、エハルオーさん。やっぱり魔法で育てちゃダメなの?」
「ほう?また楽をしようとする気か」
老人は白いひげを揺らし、じろりとユリアを睨んだ。
「楽をすれば、その分身につくものは減る。土をいじり、待つことを覚えてこそ、魔法の真価もわかるのだ」
「はぁ……薪割りに続いて、畑仕事も修行扱いですか」
「そういうことだ」
「昨日頑張ったんだけどなぁ......」
しぶしぶながら、ユリアは種イモを土に埋めた。
手のひらに残る土の感触は、都会では味わえなかったものだ。
「はぁ......」
その日の畑仕事が終わり、ユリアは疲れた体を休めるように畑の端に腰を下ろした。
視線の先にあるのは、まだただの土の塊。
(……でも、本当に芽が出るのを見るのは、ちょっと楽しみかも)
そんなことを思った時――胸の奥に、ぽっと火が灯るような温かさが広がった。達成感からだろうか。
自然と、埋めたばかりの土へと意識が向く。
(……早く芽が出たら、どんなにいいのだろう)
両手のひらがじんわりと熱を帯び、土の中へと流れ込んでいく感覚があった。
「ん……?」
次の瞬間、土の表面がわずかに盛り上がり、小さな緑の芽がひょっこり顔を出した。
ユリアは目を見開き、思わず声を上げた。
「――で、出た!? これってもしかして、魔法……?」
慌てていると、いつの間にかエハルオーは腕を組み、にやにやと口元をゆるめて横に立っていた。
「……ふむ。芽吹きを“待つ”心があったからこそ、土が応えたのだ。ま、最初のご褒美ってところだろうな。昨日からのお前の頑張りが見られていたんだろう」
芽を見つめながら、ユリアは小さく息をのんだ。
「……本当に、私、魔法を使えたんだ」
「あとはコントロールか。はぁ......そろそろ魔法の練習を始めてもいいかもしれんなぁ」
「や、やっと雷とか使えたり!?」
「そんな危険なものまだ教えられんわ、まずはさっき使えた魔法からさ」
「えぇーーー!?」
ユリアが望む魔法が使えるのはいつになるのだろう。