転生と、小さな家と、ふしぎな出会い
目を覚ますと、そこは静かな森の中だった。
木漏れ日が差し込む緑の天井、鳥のさえずり、そして——
「……ここ、どこ?」
少女は上体を起こし、呆然と辺りを見渡した。彼女の名はユリア。十代後半、元は日本の書店でアルバイトをしていた普通の女子高生。ある日のバイト帰り、居眠り運転のトラックにはねられて……気がつけば、ここにいた。
「まさか、……異世界転生?」
信じられない思いで自分の体を見る。服装はどこかで見た黒いローブ。手には奇妙な身長くらいの、素朴な木製の杖。
「これ……魔法使いってこと?」
混乱しながらも歩き出すと、森の奥にぽつんと小さな木造の家が見えてきた。煙突から煙が上がっている。誰かいるのかと近づくと、ドアが突然バン!と開いた。
「やっと来たか、新米!」
現れたのは、小さな背丈の老人だった。長い白髪にとんがり帽子、そして深い皺だらけの顔には満面の笑み。
「え? 誰?」
「俺か? 俺はエハルオー。ここの森の番人さ。で、お前は、ここに呼ばれた“選ばれし魔法使い”さ」
「……え、いや、聞いてない、聞いてないですけど!? 転生はしてるっぽいけど、そんな重要キャラじゃないと思いますけど!?」
エハルオーはユリアの肩をバシバシ叩きながら笑った。
「細かいことは気にするな! とりあえず、俺の弟子になれ。まずは薪割りから!」
「……魔法は使わないの?」
「甘えるでない!」
そんなこんなで、ユリアの異世界スローライフは、森の奥の小さな家から始まった。