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三題噺もどき4

ご機嫌

作者: 狐彪

三題噺もどき―ろっぴゃくごじゅうなな。

 



 時計の針の音が部屋に響く。

 たまに聞こえるマウスの音と、えんぴつが紙の上を走る音。

 光に照らされる白い紙の反射って、あまり目に良くないような気がする。さすがにずっと見ていると目が痛くなる。

「……」

 机の上に広げられた紙と、パソコンに表示されているものを見比べる。

 見逃しがないように、1つ1つ丁寧に見ていく。

 こういう細々とした作業をするのは好きだったりする。

 このタイプの仕事の時は気持ち集中もしやすいし、作業もよくよくはかどる。

「……」

 いつもなら、今こうしてパソコンに表示しているものもプリントにして出すので、紙の反射に困ることはない。が、生憎このタイミングで家庭用コピー機のインクが切れたので、書き込み用だけ紙に出したのだ。

 普段と違うこともあって、個人的に楽な仕事なのに、どうにも手が止まる。目が疲れるのが大いに関係しているだろう。

「……」

 ギシ―と、椅子の背もたれに体を預け、少しパソコン画面から離れる。

 机の上に置かれていた手を膝の上に落とす。

 手に持っていたえんぴつを、くるくると指で回してみる。

 ぼうっと画面を眺めながら、そろそろ時間だろうかと考える。

「……」

 暗い部屋の中で、煌々と光る画面から目を離し、時計に目をやる。

 すこし光に疲れた目は、ぼんやりと時計の針を写し出す。

 カチカチと動き続ける秒針、短針と長針の指し示した時間。

「……、」

 廊下を歩く足音が聞こえてきた。

 心なしいつもより足取りが軽い……表情にはあまり出ないが、アイツは結構態度が分かりやすいんだよな。行動にいろんなものがにじみ出ている。

「……ご主人」

「……、」

 いつまでたっても覚えないノック。

 廊下の光が部屋の中に入り込み、思わずしかめそうになる。

 逆光のおかげで、影のようになってそこに立っているのは私の従者だ。

「休憩にしましょう」

「……うん」

 短いエプロンをしているようだ。腰回りにくるりと巻き付けるタイプで、影になっているとスカートに見える。見目は中性的だから、スカートでも違和感はない。

 珍しく明るい黄色のエプロンで、端の方に向日葵の小さなアップリケが施されていた。夏はまだほど遠いのに。案外こういうビビットカラー?のモノを着ることがあるよなコイツ。

「持って行きますよ」

「あぁ……」

 机の上に置かれていたマグカップを手に取り、リビングへと先に向かう。

 ……ホントに今日はご機嫌が良いようだ。

 何かいいことがあったのか、菓子作りが上手くいったのか。

 後ろ手に結ばれているエプロンの紐が、ひょこひょこと踊っている。

 猫の尻尾のようでとても可愛い。本人は猫の姿になるのはあまり好かないらしいが。

「――くぁ」

 ご機嫌のいい従者を見送り、軽く体を伸ばす。

 凝り固まった体は、所々が悲鳴を上げている。

 姿勢が悪いのも手伝って、仕事の後はこうなってしまう。肩こりや首コリまではしたことがないが、それも時間の問題かもしれない。腰は常に痛い。

「……ふぁ」

 思わず漏れたあくびに、寝不足なのかと自分を疑う。

 睡眠時間なんて、人間に比べたら多いはずなんだけどな……人間は寝なさすぎだと思う。この時間に連絡して、返事は明日でもいいと言っているのにその数分後とかに返ってくるとホントに驚く。同じような生活リズムならわかるが、そういうわけでもないはずなのだ。昼間に連絡着ていたりもするからなぁ……。

「……」

 まぁ、こちらが心配するようなことでもないかもしれないが。

 仕事相手が居なくなるのは少々寂しいものがあるので、できれば健康的に生きていて欲しいものだ。……私が言うことでもないだろうが。こんなこと言ったらアイツに怒られそうだな。ご主人が言うことじゃないですよってな。

「……なにしてるんですか?」

 開きっぱなしになっていたドアから、いつまでたっても来ない私に痺れを切らした従者が顔をのぞかせた。さっさと来いと言うことらしい。

 そんなにうまくいったのか。可愛いやつめ。

「今行く」

 さて。今日の菓子は何だろうな。




「大福か」

「はい。あんこは甘さ控えめです」

「中のあんまで作ったのか……」

「当然です」

「……そうか」








 お題:えんぴつ・スカート・向日葵

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