【短編版】結末から辿る、少女は巻き戻りに気づかない
本編96話+エピローグの一部を、結末から逆再生してたどります。こちらは「信頼できない語り手」かつ、ざっくりしたバージョンです。もう少し詳細な【時系列版】も準備中です。
話の流れ、概要をふんわりと知りたい方向け。もしくは、完走した方向けです。
魔物と人間のハーフである少年ミミは、幼いころ魔王城に住む祖父 今代の魔王アステルのもとを訪ねた。
アステルは金色の髪に青い瞳を持ち、美しい人間の青年の姿に見える。しかし不老不死で、もう200歳を超えているはずだ。
アステルはミミに、白い羽に青みがかった灰色の模様のはいった美しい蝶を見せて、秘密を打ち明けるようにささやいた。
「きみのおばあちゃんだよ」
「おばあちゃん?」
「シンシアという名前だよ」
アステルはミミに微笑む。
「今回は、探すのに3日もかかってしまったんだ。今日で4日目だから、あと2、3日しか一緒にいられない。本当に残念でならないよ。だからぼくは、旅から帰ってきたばかりだけど、またすぐ旅にでるつもりだよ」
「どうして?」
「ぼくは、転生したシンシアをいつも世界中から探しだしては魔王城に連れてきて、一緒に暮らしているんだ」
アステルは指に蝶を止まらせている。
ミミは、首を傾げる。
「おじいちゃんがおばあちゃんを探しては魔王城に連れてきているのなんて、魔物ならみんな知っているよ。有名な話だもの。
でも、どうしてそんなことをするの?
そんな、めんどうなこと」
「めんどう あはは!」
アステルは笑う。
「めんどうだなんて一度も思ったことがないよ」
アステルはミミをまっすぐに見つめる。
「きみの質問に対する答えでもあると思うけれど、ぼくは、シンシアを愛しているからね」
アステルはミミに、シンシアとアステルの物語を話し始める。
ーーーーーーー
アステルはもともと人間で、魔術の国コルネオーリの第四王子として生まれた。ルアンという友人にも恵まれ、何不自由ない暮らしをしていた。
アステルが19歳のとき、14歳のシンシアとの婚約が決まる。政略結婚だったが、アステルは一緒に暮らすうちに少女を深く愛するようになる。そしてアステルが22歳、シンシアが16歳のときに結婚する。
「シンシアは白い癖っ毛に、青みがかった灰色の瞳を持っていて――『ぼく』と出会った時は、黒い髪に黒い瞳だったんだけれど――とにかく、美しい女の子だった。
お花みたいに笑うんだ。可愛かったな」
アステルにとっての問題は、シンシアが聖女だったことだった。当時、魔王城には膨大な魔力のかたまりとなった先代の魔王様(人間が『魔王の遺骸』と呼ぶもの)が残っていて、人間は『魔王の遺骸』から溢れる呪いに苦しめられ、100年ごとに封印の儀式をしていた。その儀式には、その時の聖女が生贄として捧げられた。しかし聖女の近親者には、儀式の概要は伏せられていた。
アステルは妻シンシアが痛みに苦しみながら死んでいくのを見て、とっさに、時を巻き戻る(アステルのみが、過去へと戻る)魔術を使う。
時を巻き戻る魔術を実現するために『魔王の遺骸』と、自らの命を触媒として用いる。
「おじいちゃんは、魔術に、自分の命を使ったってこと?」
「気持ちの悪い話なんだけど、魔力を持つ人間は自分の体を魔術の触媒にできるんだよ、ミミ。それを『代償』と呼ぶんだ。アステルは、自分自身を代償にして、魔王の遺骸を触媒にして、時を巻き戻ったんだって――でもそのときに、シンシアを一緒に連れて行かなかったんだ」
「どうして?」
「魔王の遺骸を触媒にしたら、シンシアを苦しめているものが無くなるわけだから、シンシアの命が助かるのではないか、と思ったみたいだ」
アステルは12歳に巻き戻るが、アステルの魂は魔王の遺骸と融合してしまっていた。
「それで魔王になっちゃったの?」
「正確には、魔王の魔力を得たんだ」
時を巻き戻る魔術のアイデアをアステルに話したのは、シンシアだった。シンシアは11歳のときに左足に傷を負い、それ以前の自分に戻りたいという願いがあった。
シンシアはアステルに微笑みながらこう伝えた。
「ふたりで過去へ戻ることができたら、アステル様が私を迎えにきてください」
アステルは2周目のシンシアを儀式の生贄としないために、また、足に傷を負う前に救うために、王子を辞め、友のルアンと共にシンシアを助けにいく。
「でも、当然のことだけれど『迎えにきたよ』って言っても、10歳の小さなシンシアは『巻き戻りに気づかなくて』、アステルのことを覚えていなかったんだって。
まあ今、転生したシンシアを、ぼくが迎えに行くときもそうなんだけれどね」
シンシアを無事に救出したあと、3人は、アステルはウィロー、ルアンはロアン、シンシアはリアと名前を変えて、キアノス国のアズールという海辺の街で3人で一緒に暮らし始める。
「ウィロー?」
「変な名前だよね、ぼくも本当にセンスがないと思うよ」
「どうして名前を変えたの?」
「教会がシンシアを探し出して、儀式の生贄とすることを恐れていたようだよ。人間には探知魔法というものがあって、それを警戒していたんだ」
「ふうん」
2周目のシンシアを守り、また、友のルアンを助けるために、アステルは2周目の世界の「魔王の遺骸」を封印することを決める。そのために大切なものを捧げる必要があり、アステルは12歳以降の記憶を触媒にして、魔王の遺骸を封印する。
アステルは封印後、姿をくらますつもりだったが、ルアンとシンシア(ロアンとリア)に発見されて、ふたたび二人と一緒に暮らすことになる。
「アステルは2周目の魔王の遺骸とも融合することを恐れて、魔石にこまかく分けて封印するってかたちをとったみたい。どうも、1周目のアステルは、魔王になりたくなかったみたいなんだよね。(人間でいたい)って願っていたみたい」
「でも、魔王様になっちゃったよね?」
「まあ、そうだけれど……ぼくはね、仕事として魔王をしているだけなんだ。
シンシアがぼくに人間でいてほしいと願ったから、ぼくは今でも『不老不死なだけの人間 アステル』のつもりでいる。
でも、魔力は先代の魔王の2人分をもっている」
「すごい」
「その理由は、記憶を取り戻すために、シンシアが魔石の封印を解いちゃったからなんだ。
彼女がぼくを、愛していたためにね」
アステルはひらひらと舞う白い蝶を見ながら、照れたように笑った。
「封印を解いて、呪いは彼女が浄化して、魔力はぼくにかえって行ったんだ。
記憶を取り戻すって言ったって、シンシアにしか読めないんだよ? ぼくの頭に直接戻ってくるわけじゃなかったのに」
「でも、そしたら、おばあちゃんに巻き戻りに気づいてもらえたんだね」
「そうだね。シンシアは本当にぼくに優しかったよ。毎晩、物語みたいに、アステルの人生について話してくれた。だからぼくは、こんなふうにミミに話してあげられるってわけ」
「ぼくたちは愛しあっていたから、結婚して、子どもも生まれたんだ。
ぼくはシンシアと過ごせて本当に幸せだったよ」
「彼女がどんどん歳をとっていって、ぼくを置いていったのは悲しかったけれど」
「でも、今も一緒にいる」
ミミもアステルの目線の先を追い、ひらりひらりと飛ぶ白い蝶を見つめる。
「だけど……シンシアを見つけて、シンシアが亡くなるとき、ぼくはいっつも泣いてしまうんだ。何回経験しても、シンシアが死ぬのはつらいんだよ」
「ちょうちょでも?」
「ちょうちょでもだよ。あと3日しか一緒に過ごせないことを考えるだけで、泣きそうなんだ」
「おじいちゃんはおばあちゃんを本当に愛しているんだね」
「そうなんだよ。正直、ぼくからシンシアへの愛をとったら、もう何も残らないよ」
アステルは笑った。
(いいな、ボクも誰かを愛する――愛するまでいかなくても、好きな誰かを見つけてみたいな)
と幼いミミは祖父の話を聞いて思った。




