Virtual Insanity
「いいライブだったな!」
満足気にするゲンに対して3人は疑問げだった。
「いや、あのさ……皆コメディバンドだと思ってるよ?コメ欄がそうだったし」
本来であれば音楽発信チャンネルであるそれは雑談チャンネルになり、気がついたらそう言えばこの4人楽器演奏できるんだよなというコメントをみるまで完全に何をするチャンネルかを忘れていた。
そこで苦肉の策として生配信でライブします!と言ったものはいいものの、今まで歌枠をやってるわけでも演奏枠をやったわけでもないため雑談の視聴者はあまり来ず、時間つぶしにちょうどいい生配信してるという新規がそれなりに来た。
普段から歌枠をやっているんですか?に対して普段は雑談です。
ではなぜバンドチャンネルなんですか……?に答える人間はいなかった。
少ないいつもの視聴者達が本当にバンドだと思わなかったというコメントを書いたおかげでああ、キャラ付けね……今まで練習してたんだみたいな空気に包まれた。
のだったが、一応それなりに場数は踏んでいるバンドでありなんとかそれなりにやりきっていた。
視聴者もリクエストを飛ばしかろうじて知ってる曲はできる人間でアレンジと言い張りやりきり、誰もしらない場合は練習不足ですとの嘘で乗り切り、傾向を知った人間からはレパートリ-に合うリクエストを投げられ消化していた。
完全に乗ってきたところで最後のリクエストが問題だった。
「まさかPVの動きをほぼ再現するとはな」
「PVがPVだから俺達端っこにいるしかないし」
「『PVを生放送で再現した男』でちょいバズしてる」
「よっしゃ!」
PVのダンスを踊りながらきれいに後方に下がっていったり横に動いたりと3人にとって目障りな動きをし続けるゲン。
少しだけイラッとしてるが問題はそこではなかった。
「どっかのVtuberの中の人疑惑が出てる」
エゴサするケイが困惑したように呟く。
「なんでだよ……」
「むしろゲンだけVtuberだと思われてる」
「「「なんでだよ!?」」」
楽曲を歌うような見事なハモリを見せたもののレスポンスはあっさりめであった。
「いや、あんなスムーズに下がるとこ再現できんだろって。これVtuberの3Dライブだろってめっちゃ言われてるぞ」
「だったらかわいいガワ作るわ」
「かっこいいのにしろよ……」
「それはどっちでもいいよ……どうでもいいよ……」
3D扱いされたゲンは少しだけ考え込み、パンと手を叩いた後で満面の笑みで提案した。
「俺達Vtuberにならないか?それで演奏しよう」
「なんでだよ」
「本末転倒だろ」
「Vになる意味がないんだよ!」
「俺達には……ダンスがある!」
「お前にしかねぇよ!」
「顔バレした後にVTuberに?いや、最初っから出してるから顔バレもクソもないけど……」
「俺達にジャクソン5になれというのか?一人いないのに?」
「問題はそこじゃねぇよ。こいつしか踊れないんだよ」
「そこでもねぇよ……」
ゲンはきょとんとして。
「でも歌と踊りを届けられるぜ?」
「バンドだぞ、アイドルじゃないよ。踊りはお前しか届けねぇんだよ」
「それになんか投げ銭多かったし」
「なるほど……検討の余地がありますね」
「そっちじゃねぇか!真面目にやってるVtuberに謝れ!ペー乗り気になるな!」
「いや!Vtuberじゃなくて音楽チャンネルの方に謝れよ!トラもズレてんだよ!」
「VじゃなくてももらえてるのにVにする意味は?」
「ちょっとまってくれググる」
ケイがちらりと適当なサイトを漁り、またおかしいものは避けて適当に情報を探していた。
「多分だけど人気の人の話を取捨選択すると一人数百万から一千万くらいかかるぞ?安く済ませたいならもう少し抑えられるけどライブで動き見せるなら厳しいと思う、あとそれに合わせて人を雇うから……どっかのドーム貸し切って俺等だけ演奏したほうが安上がりかな。技術とかライトとかそのへんなしでやったほうがいいよ?そもそも生配信でやるなら別に適当なスタジオでいいけども」
「やっぱ俺等バンドだしさ、Vtuberとかブレると思うんだよね」
言い出しっぺが清々しいほどの手のひら返しをしたのを見ると3人はすべて切り捨てにかかっていた。
「そもそも雑談チャンネル化の時点でだいぶブレてんだよ!」
「お前一人で配信してる時あるじゃねぇか!」
「ゲーム配信してた時マジで困惑したからな!」
「いや、だって4人揃ったら基本演奏するから……」
「当たり前だろ!練習終わった空き時間に動画取ったりスタジオ抑えられないときに雑談配信してるだけなんだからよ!」
ギャーギャーと騒ぐ中で退出時間が迫ったメンバーは急いで片付けに入った。
「でもVになって一発当てたら……」
「今6,7万人いるらしいけど、普通のバンドでライブに出てる数より多いぞ?普通に売れてないのにVtuberバンドで売れるか?」
「…………はい、地道に頑張ります」
「未来は実質的な狂気でできてるな、自分を電子化しようとしているとは」
「個人のチャンネルを持たないバンドVtuberとかニッチな挙げ句にVtuberという激戦区に入ろうとするあたり現在ですら実質的な狂気だろう」
なお、バズったゲンはMAD素材にされたためメンバーは心の底から変な道にいかなくて良かった、ゲンだけ目立って良かったと安堵した。