Kind Of A Drag
「これってヤク中の歌じゃなかったんだな」
「今更?」
ゲンの言葉にケイが呆れたように返す。
「だって60年代って金!ドラッグ!SEX!ロック!ロール!って感じじゃん?」
「なんでロックンロールを切ったんだよ、付けとけ」
「じゃあロールはどこに行っちまうんだ!」
「見えねぇだけで付いてるよ!」
「それはお星さまになっても見守ってくれていると言う事か?」
「まぁ、スターではあるからそうかも知れないが……」
なぜか押し負けたけいはペーに助けを求めるが関わりたくないのかサウンドチェックに走っていた。
トラには頼れない、ロックはわかるがそこまででもない。
「ロール、俺お前を復権させるよ」
「ロールが単体で天下取るどころか表に出たことがねぇよ」
「ドラムロールじゃダメか?」
ようやく参戦したトラはドラムロールをしながら混迷を極める一投を投げ込んでいた。
おそらくボールである。
「つまりロックンロールは……ロックとドラムロール?」
「ないだろ、言うほどやってないだろ多分」
「そもそも語源はスラングでSEXだろ」
「やはりロックはSEX」
「クスリやってる?って聞きたいけどロックミュージシャンならいいそうだからギリやってなさそうだな」
「SEXもロック」
「どうやらまだやってなさそうだな」
「女はドラッグでSEXでロック」
「女グセの悪いロックンローラーだな」
「つまりどういうことだ?」
「正気に戻った?それとも今クスリやった?」
「風邪薬を……」
「やってるやつのセリフだな、血液検査するか?」
「そんな言動はミニにタコで」
「あ、これはやってるな」
「風呂覗く前につきだそうぜ」
さんざんな言われ様ではあるがゲンをまともに相手をすると疲れるので皆チューニングや試奏、スマホを弄りながら会話を続けている。
「それで?結局なにがいいたいんだ?」
「これでクスリの歌じゃないのおかしいよKind Of A Dragだぜ?これもうクスリだろ」
「麻薬はDrugだからそもそも綴りが違うし……」
「これ浮気されてもやめられないほど愛というドラッグにハマってるって意味じゃないの……?」
「まぁ大筋は合ってるし、その意図があったのかもしれないけど……」
「つまり愛こそが究極の麻薬?」
「多分そう」
「部分的そう」
「正解あるのかそれ?」
トラのツッコミより俗物的にして哲学的な問いかけは中途半端に終わった。
「でもやっぱロックと言えばそうだろ」
「お前捕まるラッパーみたいなこと言ってんな」
「ラッパーにだけあたりが強いお前は何なんだよ……ケイ……」
「ラッパーってすぐ捕まるじゃん」
「すごい偏見、ロックミュージシャンが左派みたいな偏見」
「失礼すぎるだろ、ゲンみたいにバカだから左派に見えるだけだ。ロックミュージシャンは金のことしか考えてねぇよ」
「もっとひどい偏見持ってた……」
「お前の目指してるバンドは何だよ……セックス・ピストルズかオアシスなのか?」
「金持ちバンド」
「音楽性にもバンドの方向性に関して欠片も触れてねぇ!」
「いいのかそんなの!」
「ロックじゃん!」
「そうだろ?」
なぜか急に前向きになったゲンにケイはわかってるじゃんと言ったようにむふーと腕を組み満足げだった。
「ま、それにはまずデビューしないといけないけどね……」
「チッチッ……今はネットの時代ですよ」
「あの……オリジナル曲ないんですけど」
「そもそもメインの活動場所がライブハウス……」
「この前祭りでやっただろ」
「まさかソーラン節をロックアレンジもしないでやるとは」
「それ以降仕事は増えたね、着ぐるみで演奏とかだけど」
「このバンドどこへ向かってるんだ」
「ここじゃない何処かへ……」
「もう少し地に足つけて考えようぜ?」
「目指せパワステ!」
「急に現実的な……現実的かな……?」
「目指せロフト!」
「うーんまぁ……厳しいけどワンチャン」
「目指せ武道館!」
「それは無理だろ」
夢を見るには少しだけ年を取りすぎた4人は不可能だなと断じてとにかくハコ埋めようと語り合った。
そもそも曲を作ればいいのに。
「ノルマは?」
「達成してる」
「やはりカバーで押して年配層の箱でやったのがいい方に向かったな。ノルマに悩まずに済む」
「でもそう言うバンドだと思われてるけど」
「ジ・アルフィーってことか?」
「おこがましいにも程がある……」
「やっぱ大体カバーできるのが強いな」
「流行りの曲あんまりできないから若年層のファンがいないんだけど?」
「やはりネットに活路を見い出そう、ライブ配信だ」
「それしかないか……」
真面目にネットに力を入れようと決意したところでトラがとあることに気づく。
「機材とかどうするんだ?」
「出し合えばいいだろ」
「誰が機材セッティングとかを学ぶんだ?多分色々違うだろ?ライブのPCミキサーとかは」
「じゃんけんで決めればいいだろ」
「覚えること多くないか?」
「ある程度は出来るが……」
「そもそもライブ中にいじるの大変じゃないか?フォークバンドでもないし……」
「じゃあ……とりあえずカバー曲出して……それから考えるか」
「結局カバーになるな」
「ないよりいいだろ」
翌月、4人の雑談チャンネルが開設された。
売れないコメディバンド扱いでまぁまぁ伸びた。