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Down In The Tube Station At Midnight

「地下鉄ってさ……だいたい治安悪いよね」

「そりゃあ……洋楽だし?ロックだし?」


 ペーの質問に答えになってない答えを出すゲン。


「これモッズじゃないの?」

「え?パンクだろ?」

「ニューウェイブだろ?」

「全部でいいか」


 曖昧な質問と分かれそうな質問をケイがぶった切り終わった。


「どうするんだ?モッズというやつに語る資格がないとか言われたら?」

「資格がないって認定するやつに語る資格がないよ」


 トラのバッサリした物言いに全員が笑った。


「ジャズもうるせぇからな、だから新規が入ってこない」

「それはロックも……」

「何が資格だよ!マイルス語る資格ってなんだよ!言ってるやつ生のマイルスも見たことねぇじゃん!」

「おう、なんかトラの怒りのツボを踏み抜いたぞ……。ゲン、どうする?」

「いや、でもわかる、ビートルズ語る資格がないのが初プレスのレコードだったりしてアホらしいってなったし」

「だいたい音楽を語る資格ってなんだよ!国家資格でもあんのか!音楽って聞くもんだろ!ジャズで初心者にテクだなんだと話してこれくらいもわからないのに聞いてわかるの?って舐めてんのか!お前のご高説を聞くためのBGMじゃない!」


 トラの怒りに若干引きながら、そうだね、うん、わかるわかるとどしたん?話聞こか?並みの雑で応対しつつも、あるよなそういうの……と3人はそれぞれ思っていた。


「まぁ、そもそも音楽を語る資格がないのって逆になに?」


 ケイの質問に対して3人ははて?と首をかしげた。


「その音楽を聞いてない人?」

「ああ、それはそうだろうな。いるもんな、ジャズは最高!他は聞くに値しない、芸術性の欠片もない!ってやつが!なぁトラ!そうだろトラ!だよなぁ、トラ!」

「お、おう……悪かったよ……本当悪かったからそこつくのやめてくれない?そろそろ泣くけど?いいのか?」

「あーあ古傷をえぐっちゃった。かわいそうかわいそう」

「これも尖ってた時期のトラのせいだ。じゃあロック聞こうね」

「お、おう……」


 尖っていた頃の発言をいじられたトラは意気消沈してネコになっていた。

 彼らも彼らでどの音楽で行くか、ロック性の違いで揉めてはいたのであるが。


「逆に語る資格はなに?」

「資格制度がない以上は別にその音楽を聞きさえすれば何でもいいのでは?」

「じゃあ、やっぱねぇんだ」

「そりゃそうよ。別に好きなら何でもいいだろとは思うけど。老害は権威を欲しがるからしょうもない」

「ロックで権威持ち始めたらあんまロックじゃねぇな……」

「ゲン、間違えてはいけないが権威あるロック自体はあるぞ、バンドが権威を持ってしまったと言うべきだが。やたら先輩風ふかして気前も悪く触れづらいおっさんになってるのもいるけど」

「というか、一番たちが悪いのはそのミュージシャンやバンドが権威主義なんじゃなくてファンのライターが権威主義なのでは?」

「それはそうだな」

「一番ろくでもないやつがろくでもないことしてる。神の声を聞いて神託を下すイカれた宗教家じゃないか」

「いいかい、ペー……。ロックは──宗教だよ?」

「お、おう。ケイがそういうならそうなんだろうな……うん……」


 非常に気まずい雰囲気を打破すべくゲンが話し始める。


「とにかく治安が悪いって話だよ」

「ライター界隈が?地下鉄が?」

「どっちもだけど!どっちもだけど!楽曲!」

「これ70年代の英国の夜で歩くなってことじゃないの?」

「多分そう、NYの地下鉄系もパンクだと治安悪い書かれ方だし地下鉄自体が治安良くないんじゃないかな?」

「ロックは地下鉄を貶す形から入るんだな」

「いや、多分パンク路線だよ」

「ロックだぜ……」

「まぁ、パンクもパンクロックか……」

「東京は?」

「使わないからしらない、いいイメージ以前にイメージがない」


 きっぱりと返したケイにじゃあしょうがないと話を打ち切る3人。


「後、楽曲で治安悪いのってどこ?」

「コパカバーナ」

「その曲だけじゃないか……?」

「実質1なのになんでこうもそんなイメージが悪いんだ、もうダイヤ着飾ったリコのせいだろ」

「殴ったトニーじゃないのか?」

「でもめっちゃ売れたからその分治安悪いイメージがあるよ、治安悪いボルテージが溜まっている」

「治安悪いボルテージってなんだよ」

「MAXになると治安が悪いライブハウスくらい治安が悪い」

「頭悪そうな文章なのになんかわかるな……」

「ジャズクラブ」

「トラ、お前がそれを言っていいのか?」

「騒いでるとこも聞き入ってるとこも治安が悪い。いい曲だけど何って聞くとマウントしか取ってこないから不快」

「治安の理由よ……」


 トラの傷をえぐり続けながらも会話は続く。


「あと楽曲で治安が悪いところは?」

「地獄」

「天国」

「社会」

「あれ?ロックって夢がないのか?」

「ロックだけで食ってるやつは夢があるし金も持ってるから社会批判したところでお前に何がわかるってなるんじゃねぇかな?」

「じゃあ売れないロックミュージシャンの言葉にこそ真実があるってことか?」

「売れないロックミュージシャンは政治批判よりノリが良くてウェーイ!みたいな曲しかやらねぇよ!」

「偏見まみれじゃねぇか!」

「そのうち犯罪しないやつ以外は認めないとか言い始めるぞ」

「ロックは人間のクズが行き着くゴールじゃねぇんだよ……」

「バンドで成功して一攫千金って思ってる発想がすでにクズの行き着く先なんだよ……。好きでやってるのも成功したいのもいいけどプランなくバイトしながらまぁ成功するっしょのノリでやってるのがダメなんだよ……」

「ああ、ゲンが深く考え始めてしまった。考えなしのゲンが……」

「おそらくブーメランが刺さったと思われる」

「うぅ……ドラムでは稼げない……人気ない……」

「こっちにも刺さった」

「まぁ趣味で食っていくってそういう話だしな」

「もういいよ!ご飯いこ!」

「リセットされた」


 ゲンの忘却術で雰囲気を取り戻したメンバーはしょうがないなと片付け始めた。


「なんにする?」

「この曲だしカレーにしよう!チーズ入ってないカレーが好きじゃあいカレー好きはカレーを語る資格がない、お前らは違うよな?」

「お前今日の会話忘れたのか?」

「地下鉄は治安が悪い」

「ジョーンズ氏はお疲れだ、とっととカレー食って帰ろう」


 チーズを力説していたゲンは店ではカレーに納豆を入れて困惑されていた。

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