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Up, Up And Away

「俺さ、高所恐怖症なんだよね」


 トラの発言に皆が納得するようにうなづく。


「だから地に足ついたドラマーやってるんだな」

「いや、別にそうではないが……」

「もうギターなんてバンバン跳ね回るからな」

「嘘つけ、お前全然動かないだろ……」

「もうベースも大忙しよ」

「ベースラインに反して直立不動だろ、エントウィッスル並に動かないだろ、演奏能力に比例してくれないか?」

「それだけ上手いやつなら動画サイトで稼いでるかセッションミュージシャンやってると思わないか?」

「……違いない」


 ペーの指摘に反論できなくなったトラは両手を上げて降参のポーズをした。


「最近はライブ配信でも稼いでる人いるもんな、俺等もやる?」

「そもそもチャンネルとかないの?」

「ある?」

「いや、知らないが?」

「誰も作ってないのか?」

「勝手に作ってましたって言われたほうが怖いだろ」

「……それもそうだな。じゃあ考えておくとしよう」

「上げる動画ないもんな」

「そもそも固定ファンもいないのに作ったところで再生回らんだろ」

「収益化も通らないだろうしな」

「カバーばっかだしな」

「珍しく邦楽やったらとうとう新曲書いたのかって言われたから」

「80年代の曲は通じなかったか……」

「逆に考えたらリバイバルブームじゃないか?いけるかもしれない」

「よし、ケイ!80年代邦楽チックな曲を書いてくれ!」


 ギターを爪弾くケイはその言葉を聞いて、ちらりとゲンの方を向いてまたギターを弄り始めていった。


「趣味に合わないから嫌だけど?」

「ロックでないか?」

「日本のロックはロックじゃない、死んでいる」

「思想が強かった……」


 そんな事を言いつつツッパリHigh School Rock’n Rollのギターソロを引いているが誰も気が付かず、ただ邦楽アンチのような言動をしただけで終わったケイはキーボードでIsolationのイントロを弾く。


「本当のロックを教えてやるってことか……?」

「今のロックに対する孤独感か?」

「あいつこそがロックのNowhere Man」

「じゃあハーモニーもついてないんだろうな」

「やっぱプログレやってるやつってそういうやつしかいないんだよ」


 意味は伝わっていなかった。ネタが伝わらない孤独を演奏で表現したら尖ってるなコイツという目で見られたケイは諦めてギターに戻した。

 プログレに対する風評被害を聞き流して……。


「上に登りすぎた風船だな、やはりトラみたいに地に足をつけたほうがいい」

「いや、高所恐怖症とドラムには因果関係がねぇよ」

「ビートは浮いてるのに……」

「まだ覚えきれなくてすみませんねぇ!」

「そもそも音楽性が統一されてないのが問題なのでは?」

「したら崩壊するだろ、それぞれやりたい曲を覚えて貰ってライブでやる形式なんだから」

「プログレ大変なんだよ、長いのあるし」

「ジャズも大概だろ。今日は一曲だけで持ち時間全部使ってジャズやって帰った時俺達ってなんだっけって思ったわ」

「ゴメンって、なるべく一曲づつ歌えるように短く編曲したから」

「トラも編曲はできるのになぁ……」

「カットしてくっつけてつなぎ考えるだけだよ?ゼロから作るのに比べたらコピペみたいなもんよ、それにペーも手伝ってくれるしな」

「まぁ、つなぎ考えるだけだしな、どこ切ってくっつけるかはわからん。そもそもジャズよくわからん」

「クラブで今日はレゲエだろうなって思ったらジャズを強行した時普通にびっくりしたフュージョンジャズかとおもったらすごく古典演奏して白けたしな」

「気分じゃないなって」

「すごいメンタルだな、お陰でもう来なくていいって言われたけど」

「あんな男女がいちゃついてる場所で誰が演奏するかバーカ!」

「私怨に巻き込むな!」

「演奏した俺達も俺達だけどな」

「演奏する楽曲は覚える、演るだけは決めてるからな」

「あの日は一曲で追い出されたから……。本当だったらもっと俺がプログレで盛り上げたのに……」

「ケイは何演る予定だったっけ?」

「Hocus Pocus」


 楽曲のイントロを弾きつつ歌い始めるケイ。ペーもそれに答えてベースを弾く。


「あの空気では盛り上がらんだろ」


 手持ち無沙汰になったゲンはぼやきながらトラを見るがすでに演奏体制にあった。

 リハーサルだし仕方ないな、と思いケイがメインでギターをやってるときは自分がキーボードなので渋々配置につく、彼のギターソロの時はしれっとリズムギターに復帰するので地味に面倒である。


「やっぱ浮いてないか?」

「風船にくくりつけたんだろう」

「気球にしてやれよ」

「いいんだよ、演りたいんだから、じゃあ練習に戻るか」


 ライブで演奏する際どこにいれるんだろうと悩みながらもやりたいから演るだけで生きてる人間は違っていた。

 デビューしてイマイチな曲がヒットしてしまったら延々演るしかないのだが本当にそれでいいのか?

 ヒットしなくてもデビュー曲をプロモーションで延々演奏させられるのはこのメンバーではフラストレーションしか溜まらなそうである。


 珍しく全員が歌える曲でもあり、それぞれの趣味にぎりぎり被っていることから名曲なのは間違いないと勝手に彼らは思っている。


「この曲ってさ」

「うん?」

「薬キメたのかな?」

「まぁ、この時期の楽曲って多いしな。わからん」

「でもいい曲だと思うぜ?地に足はついてないかもしれない」

「歌詞はそうかもしれんが楽曲としてはしっかりしてるだろ」

「やっぱ地に足つけるって大事だと思うんだよな」

「薬はダメってことだな」

「俺達薬漬けだけどな」

「まずこのビタミンの錠剤とコンドロイチンと……」

「ブルーベリーのやつと」

「若いうちから薬用の黒いお酒」

「楽器重いしライブハウスの環境って悪いし……」

「風邪ひきやすい」

「ドラッグと酒か、まさにロッカーだな!」

「内訳見たら疲れた会社員でしかないんだよ」


 ゲンのノリにペーが冷徹な一撃を下した。


「そりゃあ……俺達だって10代で青春ロックみたいなのやってアニメになった2クールくらいやりたかったけど」

「実際のバンドでアニメで何クールもやったやつビートルズしか知らねぇよ」

「あれ3クールくらいやってただろ」

「じゃあ逆にアニメを俺達が再現すればいいのでは?」

「それもう声優がそのアニメライブでやってるよ、あっちは本人みたいなもんだから劣化にしかならんだろ」

「お前はこのバンドをどこに持っていきたいんだ……」

「俺達にはゾンビにもスクールアイドルにも学園アイドルにもなれないのか……」

「お前本当に何をめざしてんの?あとスクールアイドルと学園アイドルって違うのか?」

「事務所でアイドル活動も出来ないのか!」

「お前アイドルやりたかったのか?」

「アイドルからアーティストに脱皮したい」

「その路線うまくいったやつ世界見てもごく少数なんだわ、アイドルのまま消えるかアーティスストとして消えるか、方針転換で人気落ちて消えるかなんだわ」

「成功という地に足つけた考えで図れるものか!」

「まずアイドルで成功しようとしてる時点で地に足つけてるのか浮いてるのか疑わしいよ」

「そもそもさ……手に職持って合間にバンドやってる時点でだいぶ地に足ついてない?」


 ケイの無慈悲な一撃が全員を貫いた、自分でさえも。


「地に足ついてないミュージシャンを地に足ついた状態でやってる時点で別にロックではなくないか?バイトしてる学生とか大学生ならそれっぽいけど」

「解散!また明日!ライブハウスで!」


 負けたゲンは強引に会話を終わらせ、ペーとトラも明日の仕事はやく終わらせるかと言いながら帰っていた。

 残ったのは負けた勝者のケイだけだった。

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