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食い物を発見

 さっぱりとした俺たちは、五人で向かい合って座る。


 草の背丈は短くて、もしかして誰かが草刈りをしているのはでないかと思うほど、このあたりは均一だった。


 身振り手振りを交えて話すのも、すっかりと慣れた。


「食べ物を確保したい。森……木の実、小動物……俺達は槍しかないから、槍で狩れるのがいい。森の中へ、少しずつ入ろうと思う。河に近い場所、安全そうな場所を探そう。ベースを造ろう……化け物退治をしろとあの変な奴らは言っていたけど、生きたいんだ、俺は……生きて、日本に帰って家族に会いたい」


 俺の意見に、リサも同意してくれた。


「賛成。化け物と戦うっていうのは、あの変な奴らが勝手におしつけてきただけのこと……」


 彼女は、しかしここで「だけど」と続けた。


「だけど、元の世界に戻るには、やっぱり化け物を退治しないといけないんじゃない? わたしたちをここに連れてきたのは、あのおかしな奴らなわけなんだし」


 ……たしかに、そうかもしれない。


 ヴァンが、口を開く。


「同時進行でいけばいい。どちらにしても、向こうから襲ってくる確率が高い。ただ、基本的に戦闘は避けたい。あの化け物を……俺たちは多数で囲んで倒したんだ。普通にやって勝てないと思う」

「罠を作ったら?」


 ゾーヤの案に、「おおお!」と揃って声が出ていた。


 賢い子!


「落とし穴なら、俺たちでも作れる。俺たちが落ちたら笑えねぇけど」


 ジュンの冗談に、苦笑を返した。


「ベース……小屋を作ったりは現実的じゃないから、大きな木の根元なら、雨なんかもしのげると思う……雨、まだ降ってないけど、地球と同じみたいだし、河もあるから、きっと降る」


 リサの案に、ヴァンがつけくわれる。


「木の枝の上……登れそうなら、登れるようにしておこう。あの化け物が届かない高さまで、避難できるように……たとえば、交代で探索や狩りに出ていて、一人や二人の時に化け物きたら、戦うのではなくて避難……絶対のルールにしよう」

「賛成」


 リサが同意する。


 俺たちも、反対するわけがない。


 ジュンが、口を開く。


「まず森に入る順番は、俺、ヴァン、リサ、ゾーヤ、キリ……で行こう」


 ジュンの判断は、いいと思う。


 ヴァンは、ジュンほどガタイがいいわけではないけど、槍をもって戦おうとした勇気があるし、いざとなったら若い分、俺よりも動きはいいはずだ。


 だから先頭二人は、彼らがいいと思う。


「でも、キリが遅れたら大変よ?」


 ゾーヤ……おじさんに優しくしてくれてありがとう! 情けないけど……。


 彼女は、苦笑する俺と、馬鹿笑いするジュンとヴァンを順に見て続ける。


「笑いごとじゃない。キリがいなくなったら、いざという時、まとめてくれる人、いないでしょ?」


 ……君、とてもいい子だ! 


「キリが、あの時も声をだして、率先して、みんながまとまった……だから、わたしはこの人たちについて行きたいと思った。でもキリ、歩くの遅い」


 ごめんね! 身体はおっさんなんだ!


 大袈裟に嘆く真似をしてみせ、ゾーヤも笑った。


「ハハハ、ごめん。でも、トラブルがあって、キリが遅れて離れちゃったらダメ。だから、キリはわたしとリサの間にいて」


 ジュンが、頷きながら言う。


「いいだろう。俺、ヴァン……ゾーヤ、キリ、リサ、この順番でいこう。リサ、いざとなったら最後尾を守りつつ、俺たちに声掛けしないといけないけど頼むな?」

「ええ、いいわ。キリが遅れたら、おしりを蹴って歩かせるから」


 笑顔でおどけながら喋るリサに、俺は怖がるフリをして笑いをとった。


 重い話も、笑いながらできる……今は、まだ余裕があるからだ。


 なんとか、余裕があるうちに、基盤を整えたい。


 食料だ……食料をなんとかしないと。




 -・-・-・-




 三日目。


 河の近くで一夜を明かし、順番に排泄を終えて……いっぱい出た! ……から、木の実を齧って空腹をごまかして出発する。


 木の実、あとわずかだ。


 水……河の水、幸いなことに腹を下していない。


 服……洗いたいよなぁ、着替えが欲しいよなと思いながら、出発した……。


 服、どうしよう?


 このスーツも、いつまで無事かわかんないし……すでに、ほつれ始めたところが……最初の戦いのせいだ。


 最初に、出発地点の広場から真っ先に出ていった奴らが、逃げて帰ってくるまで、そう時間はなかった。だけど、俺たちは三日目の今日まで、化け物と遭遇していない。


 もしかして、壁に近いところだから……かな?


 離れたら、それだけリスクがあるってことなのかもしれないが、ただの想像でしかない。こういうことも、これから行動するなかでわかってくるだろう。


 ゾーヤとの距離は、一メートルほど。


 この距離を維持できるように……けっこうキツい。


 うしろのリサが、前のジュンに声をかける。


「ジュン! キリがきつそう! もう少し速度をおとして!」


 すまんね! ずっと歩きっぱなしで……休憩をはさんでいるけど、森の中、疲れるんだ……スニーカー欲しい。


 河の上流方向へと五人で進み、森の中に入る。最初こそ、陽光の木漏れ日が美しい光景を見せてくれたが、それもすぐに終わった。


 森……日本の山とはまた違う……土地そのものは平坦なのだが、地面は光が届きにくいので、草花が育たないせいか彩りが茶や黒だ……そして光があたる箇所に、集中して草花が群生している。


 一つひとつの木がでかい……種類はわからん。とにかくデカい木です……それがグンと伸びて、高いところで枝葉をたくわえて、空を隠している。それの根が、地表のあちこちで出っ張っているから、足場は悪い。


 昼間のはずなのに、暗い……。


 火……火がほしい。


「ああ、火がほしい」


 思わず言葉をこぼしたところで、前を進むジュンが反応した。


「え? 使うか? 煙草?」

「……いえ、禁煙十年目なんで大丈夫です……火、あるんですか?」

「ライターならあるぜ?」


 ……早く言え!


 ジュンは、ジッポライターを持っていた。


「煙草、吸ってないみたいだけど?」

「煙草は吸わねぇよ」


 この人は、どうしてジッポライターを持っているんだろう?


 煙草を吸わないのに、どうしてかと尋ねると、「火をつける時に使うからに決まってんだろ」と言うので、ますます意味がわからない。


「煙草以外で、ふだん、そんなに火をつけることある?」


 俺の問いに、彼は「ああ」と声をもらし、少し悩んでから答える。


「ま、キリだし、こんなところにいるしいいか……脅しで火をつけたり、見せしめで燃やしたりする時に使う」


 こわいよ! 化け物よりも危険な人がいるよ!


「火、おこすか? 落ち葉や枝は……ここらの地面が濡れてて湿っているから駄目そうだけど?」


 ヴァンがそう言いながら、地面に落ちている枝のひとつをつまみあげた……途端、その枝がニュルっと動き、ヴァンの方向へと蛇のように首をもたげ……蛇やんけ!


「ギャ!」


 驚いたヴァンが、蛇を放り投げる!


「馬鹿!」


 思わず叫び、落下する方向へと俺はダッシュした。


 落ちた蛇へと、槍を突き出す!


 ドスンと槍が蛇に突き刺さり、頭が落ちた蛇の胴から下がビクビクとしていた。


 食料ゲットだ!


 クネクネと動く蛇を掴む。


 死んだと思えば、こわくない。


 ヴァンが、「サムラーイ」と言いながらパチパチと手をたたく。


「枝に擬態してるってことは、ここらの地面に落ちてる枝、蛇?」


 ゾーヤの疑問に、ジュンとリサが地面の枝をかたっぱしから蹴って確かめたが、枝ばかりだった。


 ヴァン、いきなりアタリをひくなんて、モッてるよなぁ。


 さすが、イケメンだよ!


 俺は、蛇を皆に見せながら口を開く。


「枝、拾って乾かそう。あとで、蛇、焼いて食べよう」

「食べるの嫌だなぁ」


 ゾーヤは、嫌だという表情だったが、貴重な食料だ。


 そうだ……俺は蛇の頭部を探して、死んだことを足でつついて確認する。皆が、何してんだ? という顔で見ているが、俺が蛇の頭部を掴み、牙を確認するのを見て、理解してくれたようだ。


 うん、毒液らしきものが出てこない……毒蛇ではないようだ。


「もう少し、蛇を探そう。食料確保だ」


 かば焼きにしたら美味いかな? と思うも、醤油もみりんも砂糖も酒も、何もない……。


 俺たちは、その場所でしばらく地面の枝を槍先でつついて確かめることで、追加で三匹の蛇を捕まえることができた。もっといるかもしれないが、明るいうちに進もうというリサの意見に、皆が賛同した。


 右方向の河を見れば、陽光の反射でまだ昼だとわかるが、ずいぶんと暗くなってきたように思える。


 それからさらに進み……時間はわからない。方向は、常に河に沿って歩くことで、まっすぐ上流を目指しているとだけ理解する。


 俺たちの共通認識として、ふたつの太陽が昇る方角を東と定め、河の上流を北とした。


 森の中を進み、目立つ大木が現れたところで、俺たちはその根元で輪になって座る。


 木の枝……ここらの地面は渇いていて、落ちている枝は蛇エリアよりもマシかもしれない。


 森に入る前、ヴァンの案で木の上に避難できるようにというものがあったが、現在のところ、それは不可能だろうという結論となった。


 俺たちがどうやっても届かない高さにしか、枝がない……。


 あれだ……すくすくと大きく育った木が、太陽をさえぎるから、ちょうどいい高さの木は生き残れなくなったのだ……そして、木漏れ日を頼りに、草花がかろうじて生きる……木の実類を期待していたが、あてがはずれた……キノコはあるが……おそろしい。


 毒々しい色合いのものしか、生えていない……。


 蛇探しをして、食料を確保するしかないのか……。


「蛇を食べたら、俺が一度、武器を取りにあの場所に戻ってみようと思う。今の量は少ないから、今度は持てるかぎりの量を……ここまでの道で行き来すれば危険は少ないと思うし、どうだ?」


 考え事をしていると、ジュンがそう提案した。


 たしかに……これからのことを考えると、剣や弓矢がもっとあれば、道具に転用することもできるし便利に違いない。それに、あの場所に変化があるかもしれないし……。


「一人だと持てる量が限られる。二人のほうがよくないか?」


 ヴァンの提案に、「じゃぁ」と声を出したのは、リサだった。


「わたしとジュンで、往復する。ヴァンとキリ、ゾーヤはこの辺りで、食料を集めたりしていてほしい」


 こうして、三日目の……昼か夜かわからない時間ではあるが、俺の無事だった財布に入っていた千円札にライターで火をつけ、それを木の枝に移して……うう……ここではただの紙だけどさ。


 火をおこして、蛇を枝で突き刺し、焼く。


 四匹すべて焼いたが、食べたのは半分で、もう半分は明日の分にしようと決める。ただ、火を入れてもやはり腐るので、一日もつかを試す意味もある。


 味は……塩、ほしい。


 でも、悪くない味だった。


 俺たちは空腹だったこともあり、あっという間に二匹の蛇を平らげている。


 何度もなんども噛むことで満足感を得ることができた!


 水……だけは、都度、河へと歩き……離れていないつもりだったが、けっこう歩いた……やはり、距離感が森の中で狂っていたんだろうと思う。


「河をまっすぐに下流に歩いて、壁にそって歩くように。面倒だからって省略したら、迷って終わりだ」


 俺の忠告に、二人が拳を突き出してくる。


 なんだ?


 ヴァンが拳をぶつけ返し、ゾーヤも続く。


 そういうことか。


 俺も、ジュン、リサの順で拳をぶつけた。


 往復で、約四日間だ。


 何事もおきませんように。


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