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2/7

理不尽なスタート

「あれ?」


 立っている。


 たくさんの、知らない人に囲まれて立っている?


 ……外国人ばっか……あれ? 観光客……が増えたといっても異常じゃないか? 


 周りの人たちが、それぞれに何かを喋り始め、それは次第に大きくなり、騒々しい……てか、なんだ? 駅から外に出る階段をのぼっていたんだけど……ここはどこだ?


 周囲を見るも、外国人だらけ……お、日本人か?


「すみません!」

「这是哪里?」


 駄目だ、ちがう。それに、何を言ってるのかわからん……。


 ……どうなって……外回りの仕事の途中で、DMが届いたから……て、あれか!?


 登録画面で、登録する前にいきなりここに!?


 荷物……ない。俺のバッグがない……書類やパソコンやらが……スマフォも、手に持っていたはずなのになくなっていた。


 財布……スーツの内ポケットにいれていた財布は無事だ。


 おかしいおかしいおかしいおかしい……なんだ、なんだ? ここはなんだ? この人たち、誰? なに? なにじん? アメリカ? アフリカ? 中東? どこからどうして俺はこの人たちとここにいる?


 薬を使われた? 眠らされて?


 どうやって?


 駅で周りに人がいたけど、俺は何もされていな――


「おーい! 日本語わかるやついないかー!?」


 日本語!


 俺は手をあげて、大声を出す。


「こっちー! 俺! 日本人!」

「おおー! よかった! そっち行く! 待ってろ! ……いてーな! 殺すぞ!」


 その男は、近寄って来ながらぶつかった外国人に怒鳴っていた。


 こわい人なんだろうか?


 長身で、ガタイがいい……若い……年齢は俺よりも下だろう……。


 彼は、俺の隣まで来て、周囲の外国人たちに「国に帰れ、うるせー」と悪態をついた。


「俺は加賀谷カガヤ、あんたは?」


 名前を聞かれて、名刺を出そうとするも馬鹿らしくてやめた。


「き……桐木キリキです。どうなっているんです?」

「俺も知りたい。いきなり、ここにいた」

「同じ……です。わけがわかんなくて」

「桐木……さん、俺よりも年上だろ? 俺は二十五」

「四十です」

「敬語とか、苦手だから勘弁な?」

「……まぁ、それは別に……それよりも、ど――」


「ζΩΨΛΛ!」


 突然、意味不明の大音声で、俺たちは会話を遮られる。


「ζΩΨΛΛ!」


 なんて言っているのかわらかんが、とにかく、その大声を出す人間は男で、俺たちを見下ろしていた。ここでようやく、俺たちは正方形の部屋にいれられているとわかる。広い……学校の体育館よりも広いと思われる部屋……いや、天井はない。周囲を高い壁……五階建ての建物くらいの高さの壁に囲まれた広場のようなところだ。


 その、何を喋っているのかわからない奴は、広場にいる混乱した俺たちが静まるまで、同じことを叫び続けた。


 誰もが、「静かにしろ」と言われているものと理解し、静まった時、その壁の上に立つ男の横に、銀色の長髪を腰まで伸ばした女性……耳は長くとがっていて、映画や漫画で見たエルフのような美しい女性が立つ。


 彼女が、声を発した


「ΨΣθΣ! ΩΛΞΦθΦΠΓλ、μЙ――」


 なにを言っているのかわかんねぇ……。


「I have no clue what you're saying!」


 誰かが……英語だと俺にもわかる言語で女性の発言をさえぎるように声をあげた。


 なに言ってるかわかんねぇ! て叫んだのかな?


 壁の上に立つ女性が、片手をあげて合図をすると、壁の上にぞろぞろと男たちが立ち始めた。


 彼らの手には、弓矢……弓矢だよな? なに? ここはどういうところなんだ?


「ΨΣθΣ! ΩΛΞΦθΦΠΓλ、μЙ……」


 女性が叫び出すと、男たちがそれぞれに違う言語で訳し始めた。


 日本語! 日本語は!?


「感謝する! よく来てくれた勇者たち……」


 日本語いた!


「加賀谷さん、日本語を喋っている人の近くへ」

「お、おう、行こう……どけ!」


 外国人を突き飛ばした加賀谷さんは、周囲の外国人と揉めると、ぶん殴って、蹴り上げて、道をつくってその通訳者の下まで道をつくってくれた……つよいけど、きっと悪い人だ。


 ざっと、この広場には百人くらい、いるだろうか?


 女性の言葉を、男性が訳して俺たちに伝えてくれている。


「……武器をとり、死が支配する世界からやって来る魔物と戦い、討ち、報酬を受け取れ! お前たちにはそれぞれに能力があるがゆえに選ばれた! その能力を活かして、富を得よ……」


 それからも説明は続いた……が、まとめると……よくわからんが、俺たちはそれぞれに能力があって、それで選ばれてここにいる? 魔物が来るから戦ってくれ、報酬をあげるよ……てこと?


 息子が見ていたアニメみたいな?……俺は実は最強の能力で、本気だしてないのに勝ち続けてやれやれっていう? あれのようなことに、俺がなってるんか?


「桐木さん、こいつら、頭おかしいのか?」


 加賀谷さん、まったく同意見だけど……現実、俺たちはここにいるんだよ。


「俺たちが、いきなりここにいたこととか、いろんな人種が集められていることとか……常識では考えられないことがおきてると思う。これは、現実に俺たちはここにいて、あの人たちが言っていることが本当であるという前提で、しばらく様子を見たほうがいいのかも」

「戦う? 魔物ってなんだよ? キモオタじゃねぇんだからさ、こっちは」


 こういう奴は、まっさきに死ぬキャラ認定されるだろう。


 女性の話は終わったようで、彼女が去ると、周囲の壁……広場側の壁がゆっくりと地面へと飲み込まれるように沈み、武器がずらりと並べられた棚が現れた。そして、一か所だけ、鉄製の扉がある。


 あの先に、なんちゃらとかいうところから来る魔物が?


 ……話は終わった?


 ちょっと待って!


 能力の説明は!?


「桐木さん、本気にして付き合うのか?」

「……本当に、危ない話だとして、武器は持っておきましょうよ」

「剣、槍、弓……銃はないんかよ! っざけんな! クソ!」


 同感! 俺も同感! 銃なんて使ったことないけど、こんな原始的な武器は頼りないよ……剣……重い! 剣て、重いのか! 振ったら疲れる。


 弓……ひけない……おい、マンガみたいに簡単にできないのか? 可愛い女の子が、ヒョイっと引いて、やぁ! て撃てば命中してたじゃねぇかよ! それに、これは手袋しないと指がいてぇ……たぶん、扱い方があるけど、わからん。


 槍……近づかなくても、突けばよさそうだ。重さは……想像していたよりも軽い。そうか、剣は見た目で軽そうだと思っていたけど、鉄だよな……それなりに重量はあるはずだし、叩き斬るってタイプの剣だと、重くないと駄目だろうし……よし、槍にしよう。


 俺は槍を持ち、重いが突けばなんとかなると思う。それに、これだけ人数がいる……他の奴らが戦うのを後ろで見てればいい。


 他の人たち、変に張りきっている奴ら、笑っている奴ら、嘆いている奴ら……全人種が集められたかのように、いろんな言語が飛び交う広場で、日本人が他にいるのかわからないが、さっきの加賀谷さんの呼びかけに反応していないから、俺と彼しかいないんだろう。


「で。桐木さんよ、あんたの能力は何? 俺はわかんね」

「あの、俺もよくわからんです……」

「……どういうことだ? 俺も槍にしよう」


 二人で槍を持ち、他の奴らはどうするかなと思ってうかがっていると、やる気になっているおかしな奴らは扉のほうに向かっていて、俺たちのように様子を窺おうとしている者達は、武器庫の近くから動こうとしない。そしてバラバラに行動しようという奴、壁を昇ろうとする奴などに別れる。


 やる気になっている奴らが、扉を内側から押し開いて、外へと出て行った。


 ここからじゃ、どんな様子かわからん。


「加賀谷さん、外が見えるところまで行かない?」

「おう、どんなか見てやろう……」


 歩きながら、彼が尋ねてきた。


「俺、いきなりDMきてさ、サギってる奴らなら、居場所を見つけ出してぶっ殺して金をとってやろうと思って誘いにのったわけよ。桐木さんは?」

「俺は、しつこく何度もDMくるから、あやしかったらバックしようと思って押しました」

「なる……あ、あんたも普通に喋ってくれ」

「……普通に……ため口ってことです?」

「そう」


 いきなりため口でって言われても、社会人として、初対面の人には丁寧に話す癖が……俺たちに続いて、扉に近づく人たちがいる。彼らは、俺たちの後ろに続いていた。


 白人、黒人、中東? 南米? 北欧? よくわからん……多種多様の、いろんな地域で俺と同じように、あのDMをポチってしまった奴らが、つまりこいつらだ……。


 なんか、なさけなくなってきた。


 変なDMに、いい大人が反応してしまうとは……。


「桐木さん、これ、さっきの魔物ってやつを殺したら、帰れると思うか?」

「……帰りたいですが、わからないです。ただ――」


 思えない。でも、と思う。


「――とにかく、さっきの奴らとまた会って話ができれば……あいつらはここに連れてきたんです。ここから、日本に戻すこともできるんじゃないですかね?」

「だといいけどな……お? なんだ? あいつら」


 開け放たれた扉の向こうでは、出ていった奴らが、大慌てでこちらに走って来る光景があった。


 俺は、やばいなと感じる。


「逃げてるんですよ、何かから」

「扉、閉めるか?」


 加賀谷さん、やっぱり悪者なんですね……。


「彼らを招きいれて、どういうことかを聞かないと」

「言葉、わかるか?」

「日本語だけしか……つたない英語で、やりとりするしかないです」

「ニホンジン?」


 突然の、海外の人が話すような日本語で話しかけられて、俺と加賀谷さんはそろって右を見る。


 背が高い黒人女性が、槍をもって俺たちの隣を歩きながら、こちらを見てニコリとした。


「日本人、日本人です。日本語、わかりますか?」


 俺の問いに、彼女はうなずく。


「コドモの頃、トーキョーにいました。わたし、リサ。ブルックリンすんでマス」

「俺は桐木、彼は、加賀谷。俺は東京、彼は……たぶん、同じだと思います」

「ワタシ、よくワカラナイ。ドウシテ? ここにイルノかワカラナイ」

「DM、届きましたか?」


 俺の問いに、彼女は目をパチクリとして、「オオー!」と声を出した。「ああ、あれか」というニュアンスだと思う。


 その時、加賀谷さんが叫んだ。


「おい! おいおいおいおい! 扉を閉じるぞ!」

「ええ!?」


 何事かと見れば、追われている奴らの後ろに、それが見えた。


「何だ!? あれ!」


 思わず叫んだ時、走り出す加賀谷さんの背中が見える。


 扉まで、もう数歩の場所だ。


 彼は、左の扉を閉じ始める。そうしながら、逃げてくる奴らに叫んだ。


「走れ! 入れ! カモーン!」


 俺も駆け出し、リサも俺たちが何をしようとしているのかを察して、一緒に走り出す。


 俺たちの後ろでは、様子を見ていた奴らがギャーギャーと騒ぎ始めた。


 逃げ込んでくる奴らが、勢いよく扉の内側へと走り込む。


 まだ、外に逃げてくる奴らがいたが、間に合わないと思った俺と加賀谷さんは、扉を閉めた。


 なかなかに重く、俺はリサの助けを借りる。


「閂! かんぬきだ!」


 鉄と思われる固い棒を……重い!


「よこせ」


 加賀谷さんが、俺から棒をうばうと、扉の内側に閂をした。


 あれはなんだ?


 あの……追ってきていた化け物……豚とも猪ともわからない獣のような頭部が、二メートルほどの人の身体の上にのっていた……手には大きな鉈のようなものを持っていて……それが一、二……三体?


 英語で何かを叫んでいるリサ。


 ごめん……わからん。


 リサは、逃げてきた奴らに何かを叫び、彼らも何かを叫び返していた。


 おお……英語で会話して……教えてほしい。


「ギャーーーーー!」


 とんでもない絶叫が、扉の向こうから聞こえてきた。


「ヘルプ! ヘ――ギャーーーー! ノー! ノォオオオオオオオオオ!」


 ……こわい。


 おい……ちょっと、誰か、これ……どうなってるのか説明してくれ!


「キリキ、ソト、あぶない。あのバケモノ、ワタシたちをタベル」


 リサ……知りたかったけど、知りたくなかったよ。


 俺は、外を睨む加賀谷さんの横顔が、蒼白になっているのを見た。


「加賀谷さん」

「……犠牲にした奴らには悪いが……これでわかった」

「なにがです?」

「クソだ、クソ。ここはクソだ、クソがぁ!」


 扉をガンと蹴った加賀谷さんは、くるりと広場のほうを向き、大声を出した。


「おい! 隠れたクソども! 出てこい! お前らに戦わせてやるよ! 出てこい! 隠れてねぇで出てこい!」


 そ……そうだ! まったくそのとおり!


 ガン! と扉が音を発した。


 加賀谷さんは、蹴っていない……。


 ドン、と扉が音を発して、ギシっと軋んだ。


 閂……ちゃんとされている。


 ドン! ドン! ……扉、外から?


 逃げてきた奴らは、武器を捨てて扉から遠い場所へと逃げ出す。


 様子見をしていた奴ら……俺たちに続いていた人たちは、逃げた奴らと同じように離れた奴と、その場で扉を眺める奴に割れた。


 リサが、俺に言う。


「バケモノ、くる?」

「そうしようとしている……この広場に、入られたら終わり。オワリ……わかる?」

「わかる。ヘイ、カガヤ」


 リサに呼ばれて、加賀谷さんが彼女を睨んだけど、それは隠れた奴らへの怒りが原因だろう。


 リサが、俺と彼を交互に見て口を開く。


「みんなで、トビラをウチからオス。まもろう」


 守ろうたって……いや、それしか今、できることはない。


 できることを、するしかないだろ?


 こんなわけがわからん状況で、わけがわからん奴らと一緒にここにいて、わけがわからん化け物が、あの扉の外にいる。化け物に喰われたくなければ、扉を守るしか――


 扉が、ドーン! と大きな音を発した。


 閂が曲がり、人ひとりがすり抜けられるほどの隙間が開く。


 そこから、強烈な悪臭が流れ込んできた。


 化け物の……息だ……奴の足元には、喰い散らかされた人の肉片……内臓が血だまりの中に落ちている……おい! おい……まだかすかに動いている奴の腹を、噛みちぎってるのが見えたじゃねぇかよ!


 隙間から見えた光景で、俺は耐えがたい吐き気に襲われて、げぇげぇと地面に嘔吐した。


 リサも、地面に胃の中のものを吐いた。


 足が、震える……だけど、できることをするしかない。


 できることを!


 こんなわけのわからないまま死んでたまるか!


 家族に会う!


 俺は、槍をグッと掴みなおして、一気に扉へと走る。


「おい!」


 加賀谷さんの声。


 止まらない。


 隙間から、こちらを覗く化け物に、槍を突き出す。


 初めてのことで、正しいのかどうなのかなんてわからない。


 だけど、俺が突いた槍は、扉の隙間からこちらを覗いていた化け物の顔面、涎をたらしていた口にドスっと突き刺さった!


「グガァアアアアア!」


 化け物が、叫んだ。口から血を吐き出しながら、その化け物が倒れる。


 槍が折れた。


 俺は、後ろに叫ぶ。


「槍! よこせ!」


 加賀谷さんが、一気に加速して俺に並ぶと、扉の隙間から、外に倒れてビクビクしている化け物の下腹部へと槍を突き刺した。


 ビクンと、化け物の身体がはねる。


 そこで、死角から振りおろされた鉈が、槍の柄を叩き切る。


 俺と、加賀谷さんは後退した。


 グフッ、グフッ、グフッという呼吸音が、聞こえる。


 一……二……二体だ。


 ドン!


 扉が再び音を発して、さらに大きく歪む。閂は完全に折れ曲がった。


 槍……武器! 武器がいる! 近くの武器庫に……扉が開く!


 俺と加賀谷さんは、顔面蒼白のリサを二人で抱え、扉から離れる。


 茫然とする奴らに向かって、俺は叫んだ。


「戦え! 戦わないと死ぬぞ! 武器をもって戦え!」


 日本語で叫ぶと、脅えていたリサが勇気を振り絞って英語で叫ぶ。


 すると、それに反応した数人が、武器を手に走り出した。


 俺たちと、すれ違うように三人の男性が扉へと向かう。どこの国の人かはわらかない。


 その三人に続き、四人がさらに扉へと向かう。


 彼らは、全員が槍を手にしていた。


 ここで、扉が勢いよく外から内側へと押し開かれた。


 俺は、壁へと急ぎ、武器庫から槍を掴む。


 加賀谷さんが、リサを座らせて「動くなよ」と言い、彼女は素直に従っていた。


 加勢しないと!


「加賀谷! 武器を! 手伝うぞ!」


 叫んでいた。


 武器を手に、激しく乱れる呼吸を無視して扉の方向へと走る。


 走る。


 化け物二体が、完全に広場へと入ってきたところだ。


 鉈を振り回して、二人が、斬られて絶叫をあげる。だけど、二人を犠牲に、他の奴らが槍を突き出し、一体の化け物が串刺しになった。


 それでも、そいつは生きていて、傷つきながらも鉈をふるい、油断していた人の頭部を叩き割った。


 俺が加勢し、五人で一体を囲む。


 化け物が、鉈を振り回した。


 よく見ろ……一対一だと思え……ディフェンスと同じだ……身体の重心……相手の目線……行きたい方向……よく見ろ……こいつは、ただ力任せに振り回しているだけ……技術なんてない。


 俺は、他の四人に声をかける。


 センターバックをやっていた頃を思い出そうとしているので、当時の癖が蘇ったようだった。


「むやみに突っ込むな! 距離をとって、疲れさせてから仕留めればいい!」


 通じてるかどうかわからんが、俺の身振りで二人が「OK」と返してきた。ここで、加賀谷さんも加勢してくれて、六体一……勝てる。


 じわじわと包囲していると、化け物が一度、咆哮をあげた。


「ガァアアアアアアアア!」


 化け物は、俺たちを順に睨むと、地団駄をふみ、ふたたび鉈を振り回しはじめる。


 焦れたらしく、化け物が大振りになった。


 よし!


 俺は、奴が大きな鉈を振り終わろうとした時には、動いていた!


 槍を突く。


 俺の槍は、化け物の腹部に刺さった!


 しかし、化け物の鉈が、俺のほうへ――やばい!


「Fais gaffe!」


 白人男性が、俺にぶつかりながら槍を突いた。


 彼のおかげで俺は助かり、その槍は化け物の手を串刺しにしている。


 化け物の手から、鉈が落ちる。


 加賀谷さんが、槍を手に化け物に突進した。


 三体目の化け物へと、戦っていた人たちが一斉に槍を突き出す。


 俺は、ここであることを思い出して、叫んだ。


「リサ! 扉! トビラを閉じる! 皆に! みんなにイングリッシュで手伝えって言って!」


 英語のほうが、通じるだろうと思ったんだ。


 崩れおちた三体目の化け物を無視して、俺は扉へと走った。


 外には、無残な姿となった人間たちの死体ばかりだ。


 今のうちに。


 化け物は、きっと他にもいるはずだ……これで終わりのはずがないだろう! これで終わったなんて思う奴は、頭がどうかしてる!


 扉にとりつき、押し戻す。扉そのものは壊れていないが、閂がいかれていた。


「Pousse-toi」


 後ろから、英語でもなさそうな言葉で声をかけられた。


 振り向くと、金髪碧眼のイケメンがいて、俺の肩に手をおく。


 労ってくれているのが、手に込められた力からわかった。


 場所をゆずると、彼に背を叩かれた。


 俺は、壁に背を預けて座る。


 戦って、生き残った人たちが、扉をとじ、槍の柄を使って閂の代わりを作ろうと作業を始めた。


 剣、弓、矢……の部品を使うのか。


「桐木さん、すげぇな」


 加賀谷さんが、歩み寄ってくると俺を労ってくれた。


「いや、加賀谷さんのおかげです。ありがとう」


 疲れを、一気に感じる。


 ひどい、疲れだ……。


 立ち上がれなく、なってしまった……。


 ナッちゃん……翔太……お父さん、帰れるかなぁ?


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