32頁:スパイス探しの旅
「親父……それまじで言ってる?」
「マジだ。」
「まじかよ……」
俺はため息をつき、目の前の男…親父を見つめた。彼は床にへたり込み、両手で顔を覆っている。その姿はまるで、世界が終わりを迎えたかのような絶望感に包まれている。
「ミライ…頼む…カレーのスパイスが…もうあとわずかしか残ってないんだ…」
震える声でそう告げ、俺の方へ視線を向けてきた。彼の瞳には、まるで溺れかけた犬のような切実さが宿っている。
「親父……マジで言ってる?」
俺はそう言いながら、傍らに置かれた空になった瓶を見た。
カレー……というのは、親父の世界で伝わる家庭的な料理。
複数のスパイスと小麦粉をブレンドして油でこねるように炒めたものを肉と野菜を炒め、数日かけて煮込む料理だ。
ご飯やパン、そのまま食べても美味しいし、食材やスパイスのブレンドによって味わいが変わる魔法の料理。
海で過ごす者にとっては、曜日感覚を得ると同時に栄養補給としても優秀な料理だ。
そんな、人気のメニューのスパイスがあと1ヶ月分しかないと言われた俺は、ため息をつきながら親父に返事をする。
「親父……マジなの?」
「ですので!この通り!食材を調達に行っていただきたい!」
親父は土下座して俺に頼み込んだ。
俺はため息をつきながら、親父に言う。
「いや……それは良いけどさぁ……そういうのは無くなりそうな兆し見えたら直ぐ言えって。」
「かたじけない……っ!」
「じゃあ、支度するか。クロ」
『にゃあ!』
声を掛けるとクロは頷き、俺の肩に飛び乗った。
「んじゃ、今から直ぐ行くわ。あと欲しいものとかあるか?」
「カレーの食材もお願いします。」
親父はいつの間にか俺に対して敬語で話すようになっていた。
俺が親父に依頼を受けた後、買い出しに向かうためにクロを肩に乗せながら家を出た。
◇◆◇
今回向かう場所は、東の国インディカ。
魔人と人間達が住んでいる国で、魔人達が育てたスパイスが特産品とされている。
ちなみに親父曰く、カレーに使われるスパイスはインディカで栽培されている物の方が高品質らしい。
『かなり、手間がかかるんだにゃ?』
「まぁな。魔人さんが育てるスパイスはどれも香りがいいし。」
クロの言う通り、カレーのスパイスを1から作ろうとすると手間がかかる。
それにインディカは色んな意味で治安が悪い。
「んじゃ、ちゃっちゃと行くか」
『にゃー!』
俺は冒険者ギルドで治安情報を確認後、東の国インディカへ出発した。
(続く)




