29頁:クロとムーンオルカ
とりあえず、冒険者ギルドへと2人でむかって、先程の緊急クエストをみて心当たりがあるか訪ねたら「全く無い」と答えられた。
そして、救護室にクロを迎えに行くと、セレさんがクロを介抱していた。
「おかえりなさい。どうでしたか?」
「いや、全く収穫なしでした。でも、助っ人は確保できたので明日にはなんとかなると。」
「……?」
クロは、先ほどと変わって顔色と体調が回復しているように見える。
「ん……?」と、彼は俺を怪訝そうな顔で見つめたが、俺の隣にいる女の子を見つめていたのをみて「ほら、何か言ってやれよ」と言うと「く……クロ様?」と戸惑うように言っていた。
(クロの本名は喋られないように魔法でこっそりと設定を書き換えた。)
「え……クロ様?いや、でも……」と彼女は混乱している様子だったが「とりあえず、飯にするか」と言って俺たちは取り敢えず屋敷に帰ることにしたのだった。
今日は、キングシャーモンやら魔族の女の子やらで疲れてしまった……。屋敷で夕飯をご馳走になったあと、オルカはその緊急クエストの手伝いをするためギルドに戻るそうだ。
「明日には、きっと帰ってくるから……ね?」と彼女は俺にそう言った。
「分かったよ」と俺は返事をして、彼女を見送 そして、2人で屋敷へと戻ったのだ。
「さて、クロはどうする?今日は疲れただろ?先に寝てもいいし……」
俺がそう聞くと、クロは少し考え込んだ後こう言ったのだ。
「そうだな……少し気になることがあるが……まあ、明日でいいか」
そう言って彼は寝室へと向かったのだった。
(しかし、あの魔族の女の子は一体なんだったんだろうか……?)と考えながら俺も部屋に戻った、その翌日。
冒険者ギルドに行くと、オルカが手を振りながら、俺の名前を呼び「もう解決してきたよ!ほら、早くあれ作って!『オニギリ』!!!」と犬のような物欲しそうな顔をしていたのだ。
「え!?もう解決したの!?」と俺は驚きの声をあげた。
そして、オルカは俺にこう言ったのだ。
「もう既にギルドの人には話つけであるからお金貰いに行って!ほらっ!」と俺をギルド長室に押し込んだ。
「え?何この展開?」と、俺は困惑しながらギルド長室に入ったのだった。
「君の協力者のお陰で、無事解決したのでな。全く、満腹屋のお抱えフードバイヤーさんは凄い人だな。」
「いえ……」
「お約束の金貨5千万。そして……クイーンシャーモンの御礼だ。」
「白金貨2枚……!?」
俺は、あまりにもの報酬の高さに驚きを隠せなかった。
しかし、ギルド長はこう続けたのだ。
「いや、これは君への感謝の気持ちだ。」と彼は言った。
「それに、君の料理の腕は素晴らしい!是非とも我が『ギルド』に加入してもらえないだろうか?もちろん、給料は弾むし待遇もしっかりする!」
俺は少し考え込んでから、こう答えたのだった。
「……すみませんが……お断りします」
「そうか……」と彼は残念そうに肩を落としていたギルド長のおっさんが可愛かった。
明日には馬車が動くとのことで、俺たちは街に宿を取り、ゆっくり休むことにしたのだ。
そして次の日の朝に、クロとオルカを再び会わせてみると……
クロが「誰?」という反応を示したため、認識阻害魔法の対象を俺と親父と姉貴とクロだけ無効に切り替えてみた。すると……
「オルカ!?何故ココに!?」
「クロ様!お会いしたかった!!!」とオルカは、感動の再会と言わんばかりに目をウルウルさせてクロに抱きついたのだった。
「いや……最初彼女じゃないかと疑ったけど違ったんだな。」
「いんや。違う魔族で、オルカはそもそもそういうことは望んでないみたいだったんだよ。そしたら、『クロに会いたい〜』って泣きながら行倒れてたから助けた。」
「そうだったのか……」
「それに、そんな可愛い女の子を側近にしてたのマジでなんなの?神かあんたは」と俺は思わず突っ込んでしまった。
「いや、それは……」
「でも、なんか安心したよ」と俺は言った。
そして、クロにこう聞いたのだ。
「なあ……クロはさ、その魔族の女の子のことどう思ってるの?」と聞くと彼はこう答えたのだ。
「我にとってはただの従者だ」と言った。しかし、オルカがすかさず反論したのだった。
「え〜?そんなこと言って、私に『オニギリ』とかハヤシライスとか作ってくれたじゃ〜ん!クロ様、大好きぃ……」ることにした。
「え〜……なにそれー!逆にめちゃくちゃ仲良いじゃーん……」と俺は思わず突っ込んでしまった。すると、クロがこう言ったのだ。
「まあ、我はオルカに『好き』と言われたからには、その想いに応えるつもりだ」
「えぇっ!?それってつまり、私のこと好きってこと!?」とムーンオルカは目を輝かせたのだった。
そして、セレさんたちに別れの挨拶をしに、「今回はありがとうございました」と俺はお礼を言った。
「こちらこそ、色んなことを教えて下さりありがとうございました。」
「私も、夏休み明けたら満腹屋に来て良い?」
「良いですよ。親父たちも喜ぶと思います。」
「こちらこそ、娘たちがお世話になりました。また我が領地のことをご贔屓にしていただけると幸いです。」
ルーゼンブルク家の人たちと親しくなり、スイさん……いや、スイに関してはお互いタメで話すようになった。
そして、俺とクロはムーンオルカと一緒に「満腹屋」へと戻ってきたのだった。




