24頁:キングシャーモン
翌日、俺とクロはスイさんに案内をされながら、「カギア大滝」に来ていた。
水影が複数あり、どれも大物そうだ。
「ここよ。確かに、キングシャーモンの縄張りみたいですね。」
「ボスらしきものは見かけたか?」
「いんや。今のところ、そこまで魔力が大きそうな個体は居ないな。」
念の為、地面から離れて浮遊魔法で辺りを見渡す。
透明度が高い水のおかげなのか、シャーモンが見えない。
「様子見かぁ……」とスイさんは頭を抱えていた。
「いや、1つ狩ってどんな味なのか食ってみるか。こんなに水もきれいだし、トラウト系なら冷水で冷やしながら捌けば、生食もいけるだろ」
「え!?」
スイさんは驚いた。
「『サシミ』よね!?ワタシ、食べたことあるわ!魚を生で食べるっていうの……お腹壊しそうで怖かったけど、下さなかったし!でも、美味しかった〜。特にサカバンバルプスの『オツクリ』ってやつとか」
「ん?その名前って……」
「寮の近くにある満腹屋ってとこの……『オツクリ』ってのが美味しいのよね。」
「それ、俺の親父が作ったやつだ。」
「え!?」とスイさんは驚いた表情をした。
「そこに男の人で笑顔が素敵なイケオジ(?)いただろ?」
「えぇ……。それがどうしたの?」
「あれが俺の親父なんだ。魚の生食文化の発端も親父。川がきれいな水で魚も良質だったから、衛生面さえ良ければ生食できるだろって。最初はユッケとかにして出してたんだけど、みんなリピ多かったから徐々に姿を変えた〜って言ってるんだけ……ど?」
「あのお方が……英雄様なのね。たしかに笑顔が素敵な方だったわ。」とスイさんは言う。
「お一人様で来ていた女の人に『ヒマワリのタネって食べてる?』とか聞いて、その女性が『はい』って言ったら、『これサービスね』って言ってオツクリを1つ置いていったり」
「そんなことがあったんですか?」と俺は言った。するとスイさんがこう言ったのだ。
「ええ。それが初めて食べたときなんだけど、とても食感がワイルドボアみたいに柔らかくて、でも噛むごとに魚の上品な脂がとろけて……なんとも言えない感じだったわ」
「じゃあ……捕獲しますわ!」
俺は、普通に釣るのではなく、ある方法でキングシャーモンを仕留めることにしたのだ。
「……何ですかこれは?」
「『と網』だよ。この網は、どれだけ凶暴な魔物でも、噛みちぎったり破れない特殊なものでね。よくキャベバードとか捕獲する時に使ってるんだ。」
「なるほど……」
「えいっ!おっ!?」
俺は、『と網』を取り付けると……
「おりゃっ!」と俺はその縄を引っ張った。すると……
「おっ!きたぞ」
「えっ!?もう!?」
そう、この魚は川の流れが速い場所に生息しているから、すぐに逃げてしまう。
だが、俺の持っている『と網』は、どんなに暴れようと絶対に破れない。そして、その糸は切れない。つまり、この『網』を引っ張ることで、相手の動きを制限できるのだ。
「よしっ!」
「すごい……」とスイさんは驚いていた。
しかも、2匹捕れていた。
「氷魔法で……うん。これくらいでいいだろ。」と俺は、キングシャーモンを氷魔法で凍らせ、そのまま網から取り出した。
「すごい……本当に捕れた……」とスイさんが言うので、俺は言った。
「1個……ここで調理して食うか。」
「え?ここで?」
「採れたてが一番新鮮で美味いんだぜ。」
「って、空間貯蔵魔法も使いこなせるの!?」
俺がキングシャーモンをアイテムボックスに入れているととても驚かれた。
「いや、採れたての状態で、保存するならこれが一番手っ取り早いだろ。この中なら食材自体が時が止まって腐敗しないし、大丈夫。」
「そ……そうなんですね」とスイさんは言う。
「せっかくなら調理して食べる?そのほうがより新鮮ですよ?」
「はい!」
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そして、カギア大滝近くの休憩場兼キャンプ場で、早速必要な器具を取り出して作業する。
魚はニーガタエチゴ神経締めを採用した。眼と眼の間の頂点を細い針で突き刺し、顎部分を切って血抜きをする。その後、神経を抜くことで、暴れないようにする方法だ。
それが終わったら、内蔵を取り出して、三枚おろしにする。中骨や腹骨についている身はスプーンで全て取り除く。
そして、その身を氷水で清める。
そうすれば、あとは生食できる状態だ。
魚の半身を半分切って皮から外して『柵』というものにする。それを薄く切って、1つはそのまま食べるよう用に盛り付け、もう一つは薬草と醤油ベースのソースに漬け込んでおく。
「あとはカルパッチョも作るか。」
あとの半分はカルパッチョ。
ハタケガメのトマトとモッツアレラチーズスライムの四つ切を出す。
切ったトマトとスライムボディとキングシャーモンを順番に重ねて、塩、コショウ……マーゴ油にレモン汁を和えたものをかければ……。
「キングシャーモンの『サシミ』と、漬けシャーモン丼、シャーモンのカルパッチョの完成!」
「うまそう!」
「美味しそ〜!」
「それでは早速……」
「「「いただきます!」」」
キングシャーモン、初めて食べるが、これはうまいな。
キングプレパスを食べているときとおんなじ感覚……程よく脂があって噛み応えあるけど、噛めば噛むほど旨味があふれて、そして脂が口いっぱいに広がる。
「おいしい!」とスイは言っていた。
「うん!美味しいな」とクロも言う。
「でも……本当にこの魚、生で食べて大丈夫?」とスイは言うので俺は言った。
「トラウト系の魔物は生食できる魚なんだ。だから、こうやって食べるのが一番うまいんだ」
「そうなんだ……」と言うスイに俺は言った。
「あと、漬けてるほうも美味いぞ?食べてみなよ」と言うと彼女は一口食べたのだ。すると……
「ん〜!!この香ばしいソースとお米が絡まってもっと美味しい!そして、この卵黄と混ぜると……うっはぁ〜!!最高!!」
「それは良かった」と俺は言った。そして、カルパッチョも食べてみた。
すると……
「サシミと違ってこっちは生なのに生臭くなくて美味しい!」
「それに、パンが欲しくなる美味しさね!」
「あるよ。」ドヤァ……
「いるぅ〜〜!」
「我にも一枚……」
俺は、クロに「はい」と言って一枚渡すと、彼はそれを口に含んだ。
「ん?この味は……まさか!?」
「どうした?何か変なものでも入っていたか?」
俺は心配になって聞くと……クロは言った。
「……『キングコムギジャク』か?これは……」
「おっ!?よく気づいたな。このパンは天然酵母を使ったキングコムギジャクのパンだ。これがまた美味しいんだよな〜」
「何でそんな高級品持ってるのよ……」
「俺の姉貴が作った!」と俺は言った。
「嘘でしょ!?そんな高級品が作れるなんて……」
「うへへ……」
そして、大きなキングシャーモン一匹を3人で平らげたのだった。
「「「ごちそうさまでした!」」」




