23頁:双子の妹
「お姉様!」
やってきた女の子はきれいな黒髪に、同じくオッドアイの瞳をもつ、めちゃくちゃ可愛い子だった。
「セレさん、こちらは?」と俺が尋ねると、彼女はこう言ったのだ。
「双子の妹、スイです。」
なるほど……たしかに見れば顔立ちも似ているし髪の色や目の色も同じだな……って!
いや、セレさんは上品な感じの見た目で、スイさんはとても可愛らしい感じの見た目で、髪型や服装が違うから雰囲気が違うな。
「妹は魔術師の適性が高くて、パーリ市の州立魔法学園に通っているんです。今日から夏休みだものね」
「そうよ!……って、この人は!?あと後ろのイケメンは誰!?」
俺とクロを交互に指差して、スイはそう言ったのだ。
「こちらはミライさんで、赤髪の方はミライさんの従魔のクロさん。いつもは黒猫の状態なんですけどね。」
「へぇ……って!?ミライ……だっけ?」
「俺ですか?」
「女の子なのに俺は無いでしょ……」
どうやら、このスイという子……まともな人間だな。
「というより、その服装……!」
「コレですか?コレは……」
「わぁぁ……!宮廷魔術師の方ですか!?」
……へ!?この服装、ただの防具じゃないの!?
「えっと……これは……」
「この服装は魔法を極めしものだけが成れる、宮廷魔術師と認められた人が着れる服装なんです!ちなみにどんな魔法を極めたんですか!?」
「スイ。落ち着いて……。この方は……」
「落ち着けるわけないでしょ!?」
とスイは興奮してセレさんに迫る。
「この人、絶対にすごい人だよ!?」と言うが……。
「いや、俺ってただのフードバイヤーだし……」と俺が言うが、彼女は聞く耳を持たなかった。
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しばらくして……
「ごほん。先程は失礼いたしました。私、スィードル・ロナウド・ルーゼンブルクと申します。姉がお世話になっております。よろしくお願いします。」
「荻野御雷です。普段はレストラン直属のフードバイヤーとして働いてます。よろしくお願いします。」
「……?初めて聞くタイプの名前ですわね」
「実はこの方、魔王討伐に貢献された英雄様、『リュウジ・オギノ』様の実子さんなんです。(汗)」
「えっ!?これは……本当に失礼致しましたわ……」
「いえ……それほどでも」
お菓子と高価そうなお茶が置いてあるテーブルを囲う俺とクロ、セレさん、スイさん。
「んでこちらが、俺の従魔のクロ。普段は黒猫の姿なんだけど、魔力が高いのか人間になることもできるみたいで……」
クロは元魔王の黒猫だけど、それを言うのは難しいかなと思い、俺はあえて言わなかった。魔力が高すぎて、人間にもなれるってことにすれば何も言わないだろうと思ったからだ。
「よろしくお願いします。」と彼は言う。すると「従魔も居るなんて……やっぱり宮廷魔術師の方は凄いんですね!」とスイさんは目を輝かせてらっしゃる。
「スイ、当たり前ですよ。この方はルーゼンブルク領のクオカフで暴れていたレッドボアを討伐した、レッド・リボンの受章者です。それくらい、強くなければ、その身を危険に晒すことなんて出来ませんもの」
……え?どういうこと?
「その服装、ただの防具じゃなかったんだな」とクロが言うので何となく理由は分かった。
「まぁ、国王様にそれ相応の力があると認められたってことなんだろうけど、この服もらってから一ヶ月も経ってないしな」と言うと2人は驚いていた。
「え?一ヶ月しか着てないの?」とスイさんが言うので、俺は「えぇ」と言った。
「レッド・リボンを受章するくらいだから、とってもお強いってことが国王様に認められての宮廷魔術師なら納得できますわ。」
「そうなんですか?俺、魔術学校とか行ったことないし、資格もないよ?」
「資格はありますよ?服装と装飾のレベルで決まりますもの。その服こそが宮廷魔術師の証。ちなみに一級魔術師の服装は、みなローブという上着を着用してますの。宮廷魔術師の場合、とても過酷な試験と魔術研究の成果の成績が王室に認められる必要があるのです。いろんな服装のバリエーションがあって、共通点は魔力の質が色覚化される装備にその国の王室のエンブレムが刺繍されるんです。」
「確かに入っているな。」
「それに、色が濃ければ濃いほど、魔力が濃いってことかな?親父も『色濃すぎね?』って言うくらいだし」と俺は言った。
「それもありますが、どれだけ多くの魔術を極めたか……その経験値量も関係するみたいです。」
「なるほど。」と俺は言った。すると、スイさんは「ちなみにどんな魔法を使うのですか?」と聞かれたので「うーん、色々かな?俺は、フードバイヤーと冒険者を兼任して活動しているから、そのクエスト内容によって使う魔法が変わるけど……」と言うと、彼女は言った。
「そんなに魔法を使えるなら、すぐに宮廷魔術師になって当然ですね!」
「え?俺そんな強くないよ?」と俺は言ったが、彼女は首を横に振った。
「いやいやいやいや!ちょっと待ってください……お姉様!!この人めっちゃ強いですよ!!おそらく!!」
「私もそう思います。」
いやいや……なんだか物凄い誤解をされてんなぁ(汗)
「何でこんな凄い人がここに?」
「実は授与式で知り合いまして、カギア山脈近くの麓の川で今暴れているキングシャーモンの討伐を直々に指名して依頼したんです。」
「そっか。あの暴れトラウト、仕留めるの難しいもんね。逃げ足も速いし……」
おっ、これは2つ目の依頼の情報をゲットできるチャンスか。
「キングシャーモンの弱点、知っているんですか?」
「ええ。人間からすれば『反吐が出そうになるようなやり方』をしないと倒せないのよね。そのせいでなかなか討伐出来ないし……。でも、そのやり方をしたら倒せるのは事実なのよね」とセレさんは言ったのだ。
「『反吐が出そうになるようなやり方』?それは?」
俺はそう尋ねると彼女は言ったのだ。
「キングシャーモンが生息するカギア山脈は、標高が高くて気温が低い場所だから、川で釣りをするには良いスポットなのよ」
「なるほど……」と俺が言うと、セレさんが続けてこう言ったのだ。
「この川の上流にね、『カギア大滝』って呼ばれている大きな滝があるんですの。その滝から流れ落ちる水はとっても綺麗で栄養豊富……それを求めて、この時期になると上流まで登ってくる大きな川魚が、キングシャーモン。でも、この滝の周辺を縄張りにしているキングシャーモンには、ある特徴がありますわ。」とスイさんは言ったのだ。
「もしかしてじゃないけど、キングトラウトみたいに体の内部に魔石があるとかじゃないですよね〜(汗)」
「でも、その通りなんです。」とセレさんは言ったのだ。
「『反吐が出そうになるようなやり方』というのは、年に一回現れる、ボスを釣り上げて、締めることなのよ。それができない人が多いから、S級クエストとして出たりするの。」
「なるほど。それはわかりやすいな」
俺がそう呟くと、スイさんは「え?」と驚いた声を出した。
「鑑定魔法とトラウト系の魔物なら、魔石に向かって流れる魔力の渦が一番大きいやつを狙えば多分収まるか?どう思う?クロ」
「いや、その前に下調べしたほうが良くない?また暴れだしてからじゃ遅いし。」
「それもそうだな。」と俺は言ったのだ。そして……
「もしあれだったら案内するわ。アソコまでの道、複雑だから。今日はアレだから……明日ね。」とスイはそう言った。
「わかりました。それではお願いします」と言うと、本人はとても嬉しそうにしていた。




