21頁:クロが元の姿(?)に戻った件について
朝の光が差し込む部屋の中、俺は目を覚ました。
いつもなら、俺の枕元には可愛らしい黒猫の従魔……クロが丸まっているはずだった。
しかし、今日は何かが違った。俺が目をこすりながら視線を移すと、そこには見慣れない光景が広がっていた。
枕元には、かつての魔王であったクロノスと思われる姿、まるで何事もなかったかのように横たわっていたのだ。
クロノスは堂々たる人の姿に戻り、静かに寝息を立てていた。
「クロ…?」
俺は、驚きと困惑を隠せないまま、彼の名前を呼んだ。クロノスはゆっくりと目を開け、紅い瞳で俺を見つめた。
その視線には、威厳とどこか懐かしさが混じっていた。
「おはよう、ミライ。」
クロノスの声は低く、しかしどこか優しい声で俺の名前を呼んだ。
「クロノス?」と俺は問う。すると、彼はゆっくりと身体を起こした。
「俺……よくわかんないんだけど……。」
「んぁ……?我はわ……え?元の姿に戻って……いる?」
「クロノス……だよね?」と俺は問う。すると、彼は大きく伸びをした後、こう言ったのだ。
「……あぁ、そうだとも。」
そして彼は自分の手のひらを見つめ、小さく微笑んだのだった。その笑みはどこか悲しそうで、でも嬉しそうでもあった。
赤い髪色に朱殷色の瞳……黒を基調としたその上品な服装……
「ずっと甲高い声で語尾が『にゃ』だったアンタの本来の姿……やばっ俺の癖にグサってくるんだけど」
「しばき倒すよ?アンタ」
「いや、ごめん」と俺は謝る。
そして、俺はこう言ったのだ。
「……で?どうして、元の姿に戻れたんだ?」
「夢の中で女神様?と会話して、『ちゃんと罪を償って反省しているものは反省してるし、とある条件下なら元に戻してやってもいい』って言われて……その条件が〜〜〜」
俺は、クロの頭を撫でながら経緯を聞いていると「なっ……!やめろ!」と顔を真っ赤にして、腕を振り払ってきた。
「ごめん。ついクセで……それはともかく」と俺は話を元に戻す。
「つまり、その『食の女神』によってあんたは猫化されて、俺たちとご飯食って過ごしていくうちに女神様が改心したと認められてその姿にもなれるようになったってことだろ?」
「……うん。」
「で、その女神はなんて言ったんだ?」と俺は言う。
「なんか元々、あんたの親父だけに加護を与えたつもりだけど、遺伝で双子にも引き継がれたと。そのうちの一人が規格外の力を持っちゃってるから、暴走しないように俺が止めろってさ。」
「なあ、その言い方だと俺のことだろ?」
「あんたの名前出してたから多分そうじゃないか?」とクロはいう。
「でも、俺って一般人だし……女神様には悪いけど……」
「いや、その女神が言ってたんだけど、『荻野龍二』の加護は料理に関する知識と調理技術に付与。その料理を食ったときのステータスの上昇。そして双子の娘のお姉さんは料理に関する知識と調理技術を分け合って生まれたらしいんだ。だから2人共にこの力を持っているんだってさ。」
「え?じゃあ、俺は?」
「……それについてだけど…何か神様の力そのまま持っちゃってるらしい」
「……は?」
俺は、クロ(人間体)の話を聞いて驚きが隠せない。
「今なんて……?」と俺が訊くと、
「だから、あんたも加護を持ってるけど、神様としての力も持っちゃってるから、暴走しないようにって……」
「え?俺、料理の神様になっちまったの?」
俺は思わず、そう叫んだのだった。
「いや、それは違うらしいよ。」とクロは言う。
「え?」
「つまりあんたは、食の女神としての力も備わっちゃってるってこと。……って、普通人の話聞きながら寝巻きから服に着替える人いる?」
「へ?」
「……やっぱり、お前……変だよ」
クロはそう言った。
ちなみに彼は全身真っ黒な高級そうなスーツを身にまとって居て、すっぽんぽんじゃなかった。
そして、その服には魔王って呼ばれても納得できるような、風格の持ち主。
「あのクソ女神……なんてことを」
俺はクロが着替えている間、ベッドでぼーっとしていた。そして彼はすっかり以前の姿に戻っているのである。俺は唖然とした表情で見ていると彼は言った。
「そういうわけだから、お前の守護者となったんだよ……」
「へー、なるへそ〜」
どうやら俺は、食運というやつに恵まれる体質らしい。確かに食うのも好きだし、料理するのも好きだし。でも、「食の女神」ってなんだよと思ったのだった。




