16頁:漁業特化の卸売市場
「ここがレストランギルドです!」
「大きいな……」
ルーゼンブルクのレストランギルドは、パーリ市街のギルドと同じ規模ぐらい大きい建物だった。
色んな商業施設もあるが、俺が真っ先に見に行ったのは……
「わぁ……!すげぇ!流石、漁業特化の卸売市場……!」
『この規模、すごいにゃ……あっ!この魚は見たことあるぞ!アレも!』
漁業特化の卸売市場!
レストランギルドには、クエストや臨時人員を募集する『ギルドスペース』、魔物を捌いたり解体する『解体場』、様々な調理器具や道具・ごはん屋さんがある『商業スペース』。
そしてこの『卸売市場』!!!
ココで、バイヤーさんは食材を買ったり、冒険者が肉をここに売りに来たりする。俺の場合は兼業なので、ある程度のことは出来るけど、魚は余すところがない!
素材にできる部分が少ないけれど、食べる部分が肉と比べてもっと多い!!!
だから、クロがずっとテンション上がってるのだ。
親父曰くは魚には血行を良くする成分や頭に直接働きかける成分も多く含まれていて、健康に良いらしい。
でも食べ過ぎると肝臓にダメージが蓄積するんだとか。
「あ、そのまま凍らせて運ぶんですね」
「そうです。肉と比べて可食部が多いですし、氷魔法とか使えるなら、その分鮮度を維持できるんです」
「なるほど……」
セレさんがそう説明しながら、お魚を見ている。でも、お魚系の魔物はどうしたら良いんだろうか?解体……すべきだろうな。魔石がある系のものなら解体して素材と交換だけど……。
「セレさん、こっちのお魚とかはどうするんですか?」
『にゃっ!』とクロが言うので、俺はその方向を見る。するとそこには、大きなマグロが!
「それはですね……」とセレさんが説明してくれる。
「このお魚は『キングツナ』の子供でして、成体になると3mから5mになるんです」
『なるほど……』と俺が言う前にクロが言った。
『じゃあ、それを食べるのかにゃ?』と。
そしてセレさんはこう答えたのだ。
「はい!そうです!でも、この状態なら、魔石や素材は無い状態に等しいので、そのまま市場に出荷されるんです」
「なるほど……」
俺はそういいつつ、キングツナを見る。
「コレくらいの状態なら、水煮のほうが質を保てるな。それに、こっちのは……血がしっかり通ってる。焼いて食べるんじゃなくて、ショガー(生姜の一種)とネギを細かく刻んだものと醤油に漬け込んでしまえば……うん!生でもいけるな。」
「えぇ!?」
セレさんは驚いていた。パーリ市街では、魚の生食文化がある。火種は親父だ。
それまでこの世界では、生で魚を食うという文化がなくて、逆にお腹を壊すと考えられてきた。しかし、親父は鮮度の高さや肉質が良いことを理由に薬草と醤油ベースのソースに漬け込んで、置くことでどのお魚も生食で食べられるのだ。
その代わり、マルプク(フグの1種)とか専用の調理技術を必要とするものは、生食でもいけるけど、毒の取り除き方が肝となってしまうのだ。
「あっ、生でココは食べないんですか?」
「しませんよ!そんなことしたら、食中毒になっちゃいます!」
やっぱりか……
「魚を生って……アンタ、パーリ市の出身かい?」
「あっ、そうです。」
卸売市場のおっちゃんは驚いていた。
「生食、か……今までしてこなかったがやってみるのもアリだな……」と呟く。
「完全にそのままってわけにはいかないんですけど、薬草に東洋の『醤油』と呼ばれる調味料をベースとしたソースに一晩漬け込んでおくと、ある程度菌の繁殖が抑えられて、生でも食べることができるんです。トラウト系の魔物は、その場で解体して、水で締めれば直ぐに食べれちゃうんですけどね(汗)」
「なるほど。ミライさんの住んでいるところでは生でも食べれる調理技術があるのですね!」
「はい。」
そして俺はセレさんに、生で食べる調理方法や、生食の注意点などを説明する。
「なるほど……勉強になります!」とセレさんは言った。
『にゃっ!にゃっ!!』とクロが言うので、俺はその方向を見る。するとそこには……
「お?この魚は……」と俺は呟くが、セレさんが言うには……
「それは『キングツナ』の成体ですね!でもこれはもう既に死んでますし、魔石も抜き終わってるので売れませんね」
え!?そうなのか!?
「じゃあどうやって食べるんですか?」
『基本はソテーやスパゲッティーにゃ。お魚系の料理は焼くのが基本にゃ。』
「えぇ……。」
親父が火種の調理技術はわんさかあるけど、まだ完全に浸透している訳ではなく、生食は危険って認識らしい。
「でも、『キングツナ』って確か高級品じゃ……でもこんなに質がいいのに安く売るなんてもったいない……」
「それは、解体しないで売ったときです。解体すると価値が下がっちゃうのです……」
肉と違うのか。魚系の魔物は、締めてアイテムボックスに放り投げて、親父に解体してもらって、残った素材や魔石を冒険者ギルドに持っていってたからわかんないけど、お魚の市場価値はどうやら解体すると質が下がるのだそう。
「じゃあ、結局冒険者としてレストランギルドに持っていったら高く買い取ってもらえるってことですか?」
『にゃ〜♪』
するとセレさんが言う。
「いえ、希少価値のあるものは高値で取引されるので、解体して市場に流したほうがお得ですね」
「なるほど……」
俺はそういいつつ市場のおっちゃんにこう尋ねてみる。
「でも、買って持って帰って調理するとき……骨抜きの作業も必要になってきますし、解体して調理の前段階にしちゃえば、市民でも手に取りやすいのではないですか?」
「確かに!嬢ちゃん……アンタ天才だな!」
俺はにっこりと笑う。
「……確かにそうすればコストは抑えめで市民も手に取りやすい値段にできますね。」
「俺の親父は、パーリ市街に店を構えていて、魚料理の定食をよく出すんですけど、その時によく親父が事前準備で魚を解体するんです。その作業がとても難しいらしくて、本人は楽しんでやってるんですけど、コレが主婦さんや時間がない人にとっては面倒になりうるし、子供さんが口にする機会もなくなっちゃうのはあまり良くないことだと思うんです。その分、人件費のコストもかかっちゃいますけど」
「確かに。」
俺は、親父の例をあげてみた。
小さい頃、親父のやり方をよく見て真似ていたな……三枚おろしにするときとか、骨を抜くときの作業、血合いを綺麗に取り除く方法とか、魚の種類によっての捌き方や下処理の仕方。
「昔、親父に色々教えてもらったんですよ。」
「なるほど……パーリ市街ではそういうものも多くあるということなんですね。」
「まぁ……親父が自ら講師役をかって教えてたくらいですし……」
「嬢ちゃん、アンタ……何者なんだ?」
「実は親父は大衆食堂『満腹屋』を営んでいる店主でして(笑)俺が直属のフードバイヤーなんです。」
「なんと!?」
「じゃあ、あの『満腹屋』の……」
「はい。フードバイヤーです!」
その後、卸売市場やレストランギルドで話をしながら俺はセレさんと共に目的地へと向かうのだった。




